帯状疱疹

a.病態・治療

帯状疱疹は,水痘・帯状疱疹ウイルスが脊髄後根神経節,三叉神経節などに潜伏し,年余を経てから何らかの機転で再活性化されることによって発症する.症状は特徴的で,有痛性の小水疱群が片側の神経分節性支配に沿って出現する.

帯状疱疹の治療目的は,神経と皮膚の炎症による損傷を阻止し,合併症を防止し,特に最も厄介な後遺症である難治性の帯状疱疹後神経痛への移行を防止することにある.そのためには,抗ウイルス薬の早期投与に加えて,急性期における疼痛の除去,すなわち脊髄での感作防止を目的とした積極的な神経ブロック治療が有用である.

b.重症度分類(表1)

表1帯状疱疹の皮疹の拡がりや性状,疼痛の程度,感覚異常の有無などから重症度を分類

程度①皮疹の拡がり②皮疹の性状③疼痛まの程度④支配分節の感覚異常

軽症①支配分節の1/4以下②丘疹程度③日常生活に支障なし④異常なし~軽度異常

中等症①支配分節の1/4-3/4②丘疹と水泡の集簇が混在③日常生活が辛い④明らかな感覚鈍麻

重症①支配分節の3/4以上②他領域への播種③壊死性・潰瘍形成睡眠障害のある激痛④明らかな感覚過敏もしくは脱失

C.神経ブロック治療指針

ア.急性期(発症1ヵ月未満)の治療

抗ウイルス薬は重症度にかかわらず投与する.用法の詳細については他書に譲る.神経ブロックの種類や頻度は重症度,罹患部位などによって.考慮し,痛みの程度,感覚異常の改善度および痂皮形成の状況などに応じて増減する.

【1】軽症~中等症の一部

60歳以上や鎮痛不十分な場合には入院治療も考慮する.

1)羅患部位が頭部,顔面,頸部,肩・上肢,上胸部(Th3以上)

①星状神経節ブロック:連日,痛みが軽減するまで行う.

②頸・上胸部硬膜外ブロック:星状神経節ブロックで鎮痛が不十分な場合に,当該領域の硬膜外ブロックを2~5回/週の頻度で,痛みが軽減するまで行う.

③当該領域の感覚神経枝ブロック(三叉神経,頸神経,腕神経叢など):星状神経節ブロックで鎮痛が不十分な場合に,2~5回/週の頻度で,痛みが軽減するまで併用する.

2)罹患部位が体幹部~下肢

①胸部・腰部・仙骨部硬膜外ブロック:当該領域の硬膜外ブロックを2~5回/週の頻度で,痛みが軽減するまで行う.

②当該領域の感覚神経枝ブロック(肋間神経,大腰筋筋溝ブロックなど):硬膜外ブロックだけでは鎮痛が不十分な場合に,2~5回/週の頻度で,痛みが軽減するまで併用する.

【2】中等症~重症例

特に60歳以上や免疫力が低下している場合には,入院治療を考慮する.入院治療では,持続硬膜外ブロックが主となる.痛みの程度,感覚異常の改善度および痂皮形成の状況などに応じて注入量や注入回数を増減する.疱疹痛が激しい場合には局麻薬の持続注入(0.5~4.0ml/時)による持続的な神経遮断が有効である.入院期間の目安は3~4週間で,痛みが遷延し,経口鎮痛薬では鎮痛が不十分な場合には継続入院が必要になる.

1)罹患部位が頭部,顔面,頸部,肩・上肢,上胸部(Th3以上)

①星状神経節ブロック:1~2回/日の頻度で,痛みが軽減するまで行う.

②頸部・上胸部持続硬膜外ブロック:星状神経節に至る交感神経節前線維の遮断を目的とした上胸部持続硬膜外ブロックは,頭部・顔面部罹患の場合にも有効で,3~4週間を目安として行う.鎮痛不十分な場合には,局麻薬の間欠的注入を加えて持続注入を行い,また慎重にモルヒネ(1~5mg/日)やブプレノルフイン(0.1~0.3mg/日)などを添加して持続注入する.

③当該部位の感覚神経枝ブロック(三叉神経,頸神経,腕神経叢など):2~5回/週の頻度で,痛みが軽減するまで併用する.

④神経根ブロック(局麻薬+ステロイド):1~2回/月の頻度で行う.

2)罹患部位が体幹部~下肢

①持続硬膜外ブロック:当該領域の高さで,2~4週間を目安として行う.鎮痛が不十分な場合には,局麻薬の間欠的注入を加えて持続注入を行い,また慎重にモルヒネ(1~5mg/日)やブプレノルフイン(0.1~0.3mg/日)などを添加して持続注入する.

②当該領域の感覚神経枝ブロック(肋間神経,大腰筋筋溝ブロックなど):2~4回/週の頻度で,痛みが軽減するまで併用する.

③当該神経根ブロック(局麻薬+ステロイド):疼痛が強い場合に行う.なお神経根損傷の危険性もあるので,同一神経根では10日から14日に1回の頻度で,3回/月までとする.

ィ.亜急性期(発症1ヵ月以上6ヵ月未満)の治療神経の炎症が持続すると同時に神経の修復過程にもある時期で,治療の主目的は炎症の軽減と修復過程の促進にある.疼痛および感覚異常が軽度であれば,外来通院で,罹患部位に応じて星状神経節ブロックあるいは硬膜外ブロックを2~3回/週の頻度で,痛みが軽減するまで行う.

痛みおよび感覚異常が中等度以上みられれば,入院治療を考慮し,罹患部位に応じて星状神経節ブロックを連日あるいは持続硬膜外ブロックを行い,さらに当該領域感覚枝ブロックや神経根ブロック(局麻薬+ステロイド)を痛みが軽減するまで併用する.

改善が不十分な場合には,当該領域の交感神経ブロックを神経破壊薬あるいは高周波熱凝固法で行うことを考慮する.

急性期における神経ブロックの効果については,急性帯状疱疹痛の持続期間を短縮させ,痛みの強さを軽減させるとする報告が多いが,コントロールされた無作為化比較試験の報告はまれである.また従来から神経ブロックが帯状疱疹後神経痛への移行を予防すると報告されてきたが,予防効果に関する明らかなエビデンスを持った報告は少ない.こうした比較検討には,帯状庖疹後神経痛への移行の危険因子の関与が不確定であり,しかも病態が多様であることなどを含め,コントロールされた比較検討を困難とする要因も少なくないが,急性期の痛みの軽減を図ることは疼痛治療の原則でもあり,急性期帯状庖疹痛に対する積極的な神経ブロックの施行の意義は高いと考えられる1-22).

--

※「ペインクリニック治療指針」から抜粋