2024.8.20 (火) 10:00-17:00
科学の図像・
視覚文化研究の現在
ハイブリッド開催
(対面会場:桜美林大学町田キャンパス)
20世紀後半以降、海外で活発化している科学の図像・視覚文化研究。これらは単に図像や視覚文化の性質を明らかにするだけでなく、さらに大きな問い――科学とは何か――を問うための有用なアプローチとなりうる。
このシンポジウムでは国内の科学史、美術史、科学社会学等の研究者が研究成果を報告し、図像や視覚文化研究から「科学」の何が見えてくるのかを議論する。
※トップ画像:18世紀の著名な植物画家G.D.エーレット(1708-70)の肖像画。彼はドイツの植物学者C.J.トルーによる『植物選集』(1750-73)などに寄せて多くの植物画を描いた。本肖像画は同書の巻頭を飾るもので、頭上には「植物学の学会員にして優れた植物画家」と刻銘されている。『植物図譜の歴史』の著者W.ブラントによれば、エーレットは「芸術家の方法と科学者の方法をみごとに融和させた」。
本シンポジウムは無事に終了いたしました。皆様のご協力感謝申し上げます。
オンラインでの書き込みに合った質問で、時間内に回答できなかった質問の一部は、個別にメールで回答しました。
開催概要
日時:2024.8.20 (火) 10:00-17:00
開催形式:ハイブリッド開催
対面会場:桜美林大学町田キャンパス徳望館(東京都町田市)
オンライン会場:ZOOM(申込者にメールにてURLをお知らせします)
参加費:無料
対象者:関心のある方はどなたでも参加できます(途中入室・退場可)
申し込み:対面・オンライン共に事前申込制(申し込みは終了しました)
主催:科学研究費助成事業 若手研究「生命科学論文の説明図への制作・掲載メディアの影響」(研究代表:有賀雅奈、課題番号22K13029)
共催:科学研究費助成事業 基盤C「近現代科学の展開における図像の製作と伝達に関する歴史研究」(研究代表:田中祐理子、課題番号22K00272 )
※案内リーフレットはこちらからダウンロードできます
実施の背景
本シンポジウムのテーマである科学の図像とは、科学論文や教科書、書籍、手稿、広報物などにある視覚的な図のことであり、伝統的には植物図や解剖図、現代では写真やCT・概念図なども含まれる。科学の視覚文化は「観察する」「視覚的に思考する」「表現する」「図で議論する」「図を解釈する」といった視覚に関わる一連の科学的な活動とそれを支える価値観や慣習を指す。
科学論において図像は長らく言語の単なる代替物とみなされてきた。しかし1970年代以降科学史や科学知識の社会学研究を皮切りに活発に研究されるようになり、2000年以降、科学の図像や視覚文化の研究は定着したように見える。日本では研究者は多くないものの、2021年にダストンとギャリソンの『Objectivity(客観性)』の翻訳が出版され(原書2007年)、図像研究が注目を浴びるようになった。
図像や視覚文化研究では、科学の図像やそれに関わる人々、あるいはメディアや機器、実践、さらには科学的・社会的時代背景や当時の芸術表現などを手がかりに、その意味や特徴を議論している。これは単に科学の図像や視覚文化の性質自体を明らかにするだけでなく、さらに大きな問い――科学とは何か――への有用なアプローチとなっている。このシンポジウムでは国内の研究者が研究成果を報告し、図像や視覚文化研究から「科学」の何が見えてくるのかを議論する。
プログラム
10:00 開会挨拶
午前の講演(10:05-12:20)【座長 田中祐理子(神戸大学 大学院国際文化学研究科 教授 ) 】
10:05 講演① 科学の新しい視覚文化:グラフィカル・アブストラクトを考える 【講演要旨PDFはこちら】
有賀雅奈(桜美林大学 リベラルアーツ学群 准教授)
10:50 講演② 異分野研究者間の概念図を介したコミュニケーションの実際:学際的な共同研究のラボラトリー・スタディーズ 【講演資料PDFは公表終了】
片岡良美(名古屋大学 大学院環境学研究科 博士後期課程)
11:35 講演③ 明治期の東京大学の画工:洋画習得から大学勤務へ
藏田愛子 (東京大学 大学院人文社会系研究科 助教)
午後の講演(13:30-15:45)【座長 有賀暢迪(一橋大学言語社会研究科 准教授) 】
13:30 講演④ 図像科学史の試論的総論 【講演要旨PDFはこちら】
橋本毅彦(東京大学 大学院総合文化研究科 名誉教授)
14:15 講演⑤ 半人半魚像の転生:オアンネスから人魚姫まで 【講演要旨PDFはこちら】
吉本秀之(東京外国語大学 総合国際学研究院 名誉教授)
15:00 講演⑥ 『客観性』を踏まえた宇田川榕菴『植学啓原』、『植学独語』、ライデン大学所蔵植物図譜の考察 【講演要旨PDFはこちら】
河野俊哉(東京大学 大学院教育学研究科(教育学部) 学術研究員)
パネルディスカッション(16:00-16:55)
16:00 科学の図像・視覚文化研究から見えてくること
16:55 閉会挨拶
講演者と講演概要
講演① 科学の新しい視覚文化:グラフィカル・アブストラクトを考える 【講演要旨PDFはこちら】
有賀雅奈(桜美林大学 リベラルアーツ学群 准教授)
【講演概要】
グラフィカル・アブストラクトとは論文の主要な成果を1枚にまとめた図であり、2010年代以降多くのオンラインジャーナルに掲載されるようになった新しいタイプの図像である。本講演では生命科学ジャーナルのグラフィカル・アブストラクトの表現や内容の分析を行い、これらの図像が広まった時代背景や表現技法、認識的徳などを考察することで、科学の新たな視覚文化と現代科学の特徴を紐解く。
講演② 異分野研究者間の概念図を介したコミュニケーションの実際:学際的な共同研究のラボラトリー・スタディーズ 【講演資料PDFは公表終了】
片岡良美(名古屋大学 大学院環境学研究科 博士後期課程)
【講演概要】
科学において概念図の利用機会が増加している。とくに異分野融合の共同研究では、研究の考え方やゴールといったコンセプトを表す図像が多く用いられるようになっている。本講演では、講演者が参与した学際的な共同研究プロジェクトにおける概念図を介した対話を事例に、研究の「コンセプトを可視化する」過程で何がどう語られたのかを明らかにし、概念図を研究者がどのように解釈し、コミュニケーションを行ったのかを検討する。
講演③ 明治期の東京大学の画工:洋画習得から大学勤務へ
藏田愛子(東京大学大学院人文社会系研究科 助教)
【講演概要】
明治期の東京大学では作図を専門とする画工を雇用している。画工の多くは就業以前にデッサン、水彩、油彩等の描画技術を習得しており、彼らは大学研究者の求めに応じながら、動物、植物、人体、考古遺物等の様々な対象を図にしている。本講演では日本近代美術の視点から、明治期の科学の視覚文化を担った画工の仕事を考える。
講演④ 図像科学史の試論的総論 【講演要旨PDFはこちら】
橋本毅彦(東京大学 大学院総合文化研究科 名誉教授)
【講演概要】
本講演では、近年の図像をめぐる科学史・科学論的研究の知見を紹介し、中心的な論点を歴史事例とともに解説する。初めにドイツ人科学史家による図像科学史研究の総括的な論点整理を紹介し、続いて植物学史と地質学史における図像を取り上げ、視覚言語などの諸概念に注意を払いつつ、歴史研究の知見と論点を説明する。その上で最後に物理科学の諸分野で利用される各種図像に目を向け、それらの特徴を自然史分野の図像と対比しつつ検討する。
講演⑤ 半人半魚像の転生:オアンネスから人魚姫まで 【講演要旨PDFはこちら】
吉本秀之(東京外国語大学 総合国際学研究院 名誉教授)
【講演概要】
舶来したヨンストンに上半身人間、下半身魚のオス/メス一対の図があった。バビロニアに現れ人類に文字・学知・技芸を与えたオアンネスや、ホメロスの『オデュッセイア』に登場するセイレーンにはじまり、東西文明に古くから存在する半人半魚の存在を図像の系譜という観点から分析したい。アンデルセンの「人魚姫 」(1837)は、多様にあった半人半魚存在を人魚の姿に収束させることとなったが、人魚化のプロセスは実はそれ以前から始まっていた。
講演⑥ 『客観性』を踏まえた宇田川榕菴『植学啓原』、『植学独語』、ライデン大学所蔵植物図譜の考察 【講演要旨PDFはこちら】
河野俊哉(東京大学 大学院教育学研究科(教育学部) 学術研究員)
【講演概要】
近年話題に上ることの多いダストン&ギャリソンの『客観性』(New York, 2007年、邦訳2021年)ではあるが、取り上げられる図像の多くは欧米諸国の図像である。日本、特に江戸期の科学史における図像の事例研究は少ない。そこで本発表では、宇田川榕菴の『植学啓原』、『植学独語』、および榕菴がシーボルトに贈った『本草写真』、『本草推写』と言った所謂「photographの前の写真」と言われるライデン大学所蔵の植物図譜を題材に、当時の日本における「客観性」とは何かを提示してみたい。もっともラヴォワジエ化学を導入したことで知られる榕菴でもあるので、発表時間が許せば、ラヴォワジエやプリーストリの化学革命期の図像や西洋化学史研究の知見も紹介し、『舎密開宗』の新たな科学観などにも触れ、多角的に論じてみたい。