村で0から100までの全ての工程を行い、大根を燻して作り上げる、いぶりがっこ。
ここでは大根をデコと呼ぶ。その作業を一緒に行う人の中に一際大きな男性がいた。
まずは大根を掘る、デコ堀。柔らかい土のぬかるみに時折足を取られながら、片手に鎌を持ち中腰の姿勢で畑の土に埋もれている大根をひたすらに抜いていく。その人は誰よりも早く大根を抜いていき、どんどん先へ進んでいった。その遠くなっていく背中を見ながら最初僕は数時間でへばった。
ある日、作業の合間の小休憩、その人を囲んで数人が笑いながら何かを話している。
「ハチに刺されとったです。最初タバコの火落ちたかなと思って」(※一般の方はすぐに病院へ※)
そう冗談まじりにその人は笑いながら言っていた。周りに大丈夫かと心配されても、
「こんなもん酒飲めば治ります」
その冗談にまた周りの人は笑った。次の日もいつもと変わらずその人は作業していた、腫れた手首を、こんなんなりましたと笑いながら見せていた。
その人は決して苦しい感じを周りに見せず、基本黙々と作業をする。ただ求められていると感じれば冗談を言って周りを笑わせたり、安心するようなことを言う。
周りの人との関係性、雰囲気を見れば皆その人のことが大好きなのがわかった。
最後のデコ堀の日、作業を終え畑から帰る時、その人と二人きりになる機会があった。車に乗り込む前に、土に鎌をさしたままだったことを思い出し、鎌を取ってきますと一人畑に戻った。ただ畑はぬかるみが激しく泥だらけで鎌が見当たらなかった。
「柄の茶色のは見えにくいからなぁ」
振り向くとすぐにその人が来てくれて一緒に探してくれていた。鎌はすぐに見つかった。
「行こうか」
その優しく太い声に僕は自然と安心していた。決して存在感を見せようとはせずとも、ただただそこにいて皆が安心する、森の中にある寄りかかって休むことができる一本の大木。
そんな、そんな人がこの村にいます。
ありがとうございました。