日本応用数理学会
応用カオス研究部会
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応用カオス研究部会では、2021年度より、上田睆亮先生のご業績にちなみ、先生のお名前を冠した賞の授与を開始いたしました。ここに、先生への敬意を表し、上田先生の主なご業績を紹介します。
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上田睆亮(うえだ・よしすけ)(京都大学名誉教授)先生は、1961年11月27日に物理現象としての「カオス」を世界で初めて電子回路の中で発見しました。この発見は、Lorenzの有名な論文 “Deterministic Nonperiodic Flow”(1963年)、LiとYorke の “Period Three Implies Chaos”(1975年)よりも前のことでした。その後、自然界のあらゆる分野、あらゆる場所にカオスが存在することが知られるようになり、今日では、日常用語としても広く浸透するようになりました。
科学におけるカオスは、単なるノイズやデタラメな状態を意味するわけではありません。ニュートンの古典力学における運動方程式に従う系、すなわち決定論的で規則に従う系が、初期条件への鋭敏な依存性のために、長期的には予測困難な振る舞いを示す現象をいいます。つまり、方程式は確定しているが、運動は不規則で、確率的解釈を余儀なくされる体系をいいます。この考え方は、従来の「規則的な現象は決定論、不規則な現象は確率的あるいはノイズとして扱う」という単純な解釈を揺るがしました。上田先生は、カオスという言葉が今日の意味で広く定着する以前に、抽象的な数式上ではなく、アナログ計算機や電子回路を通じて観測された物理現象として発見しました。
図1 左図:1961年11月27日にアナログ計算機上に現れた記念すべきカオスアトラクタ。上田先生の手記による。
右上:その電子回路。 右中:その回路方程式。右下:そのPC上でのシミュレーション結果(奥富による計算)。
図1は、1961年11月27日に記録された「割れた卵形アトラクタ」です。当時、上田先生が扱っていたのは、周期外力を受ける非線形振動系でした。電気回路でいえば、非線形素子を含む発振回路に外部から周期信号を加えた場合に相当します。通常、このような系では、外力との同期、周波数引き込み、発振抑制などが注目されます。上田先生が注目したのは、この複雑な振動が単なる雑音ではなく、一定の構造を持つということでした。アナログ計算機実験により得られた位相図を外力の周期でプロットしたストロボ写像から、点列は不規則な散らばりを見せつつも、ある限られた領域に引き込まれ、特徴的な形状を保つことを見出しました。その形が、あたかも割れた卵のように見えることから「Broken-Egg Attractor」と呼ばれるようになりました。もし、この不規則な点列が、単なる誤差や雑音であるならば、同じ構造が繰り返し観測されることはあり得ません。しかし一定の構造を持つという事実は、その背後に決定論的な力学構造が存在することを示しています。
[出典]
上田睆亮「カオス現象の発見とその影響」URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/japannctam/58/0/58_0_3/_pdf/-char/en
工事中
電気回路は、抵抗、コンデンサ、インダクタ、トランジスタやダイオードなどから構成される工学システムです。多くの場合、回路設計では安定性、同期、フィルタリング、増幅、発振周波数の制御などが重視されます。つまり、規則的な動作を得るための制御が目的です。しかし、非線形素子を含む回路では、入力と出力の関係は単純な比例関係から外れ、設計者が意図しない複雑な運動が現れることがあります。このようなカオス状態は、一般的な回路設計においては邪魔者扱いされますが、逆にカオスを応用しようとする試みもあります。例えば、カオス同期、カオス通信、暗号、乱数生成、ニューラルネットワークなど、いままでに多くの応用が展開されてきました。また、本研究部会でも扱ってきました。
上田先生の業績は国際的にも高く評価されました。2023年には、IEEE Gustav Robert Kirchhoff Awardを受賞しました。この賞は、回路・システム分野における重要な技術的貢献を顕彰する賞です。受賞理由は、電子回路におけるカオス現象の発見、および非線形ダイナミクスの発展への貢献とされています。上田先生の研究が現代の回路理論、非線形科学、情報通信、暗号、複雑系科学の基礎を築いたとする業績が評価されたことを意味します。
[出典]
https://www.aspdac.com/aspdac2023/gustav_robert_kirchhoff_award/
https://www.nh.wise-sss.titech.ac.jp/ja/archives/3844