本研究では、看護師養成課程の学生向けに「リアリティ」を持った「人体の構造と機能」をウィズコロナ時代・ポストコロナ時代の遠隔講義を行うための教育手法を考案し、その教育効果を検証し、モデルを提供する。
遠隔講義ではGCRなどのLMS(Learning Management System)やZoomなどの会議ソフトを用い、アイヴィの「基本的な関わり方」、教員と学生のコミュニケーションは実施できた。また実在する教員と話すことで、教員との信頼関係や愛着・帰属意識が見られることは2020年前期の講義についての学生コメントや授業改善アンケートにも散見された。しかし山田(1)の「学生エンゲージメント」を十分充たしているのか疑問が残る。教員は関われるが、実際近くでは関われない。また学生同士の共同作業を行うことはできなかった。以上から学生は受動的に学んだように思われた。自信や達成感など自己効力感は、前期の最終成績を開示するまで、神崎は理解しがたかった。2020年度後期に対面授業が再開し、「人体の構造と機能II」を講義しているが、知識の定着、特に3次元的理解は未熟なようでした。
VRを用いた学びが流布している。ゲームだけでなく、医療分野のおいても解剖学や医師の手術手技の訓練にも使用され始めている。これまで多くの看護学部での「人体の構造と機能」の講義は、教科書とイラスト、人体模型を利用してきた。しかし人体構造では細かな個所が学び難い。特に臓器の立体的な配置や神経系の内部構造は、平面図では表現しにくい。VR端末を用いた「人体と構造と機能」の教育プログラムを使用して、「リアリティ」を獲得し、また遠隔講義においても同時にグループワークを行うことによって、遠隔授業においても、「学生エンゲージメント」を獲得することを確かめたい。
VR技術では人体の各器官・構造を、ヘッドマウントディスプレイや仮想空間、立体的に投影し、観察することができる。ソフト次第で、血管の流れや臓器との位置関係でさえ一目瞭然に観察できる。従来のスクリーンに投影すれば、さらに器官を自分の目の前に近づけ、観察することができる。人形に投影することによって、さらに人体に近い形で観察できる。このように学生は「リアル」なシーンに身を置くことができ、すべての器官、さらには皮膚まで本物さながらに観察できる。この技術を各学生に安全を確保の上で配信し、3次元的な知識の習得の確認をルーブリックや臨地実習の場での実習教員の行う習得技術試験で確認していきます。
学生が学ぶ動画は、熟練看護師の動作や特定行為研修修了者の動作を360度カメラで撮影する。看護師になった直後の学生と熟練看護師、特定行為研修修了者の動作画像を編集し比較検討したものなど分かりやすい動画を作製し、各学生のスマ―トフォンに配信する。ヘッドマウントディスプレイを安価にするため、スマートフォンをセットするだけでVR環境が整うVRヘッドセットを各学生に配布し、学習してもらう。本研究成果の波及効果として、新型コロナウイルス感染だけでなく、今後想定される新興感染症パンデミック時においても、臨地実習など実習ができない状況であっても、「人体と構造と機能」と関連のあるスキルを、失敗が許され、再現性を確保でき、何度でもいつでもどこでも学ぶことができる。また患者の疑似体験ができる教授法を開発していきます。
このVR技術は、看護師養成課程だけでなく、特定行為研修においても応用できる可能性を秘めている。本研究で有効性を確認できれば、新たな講義法の確立と効率的な看護技術取得法の開発となり、将来的に日本看護師協会の特定行為修了者の養成と研修参加への負担軽減が可能になる。平成30年11月26日に公表された中央教育審議会答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」で「多様で柔軟な教育プログラム」や「教育の質保証」、「Society 5.0の実現」、「SDGsの諸問題に主体的に取り組む姿勢」などが求められています。検体解剖はどの大学でも出来るものでもなく、非常に貴重なことからも、本研究はICT(Information and Communication Technology)を用いた教育ツールを探索・開発し、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の「人体の構造と機能」の知識・スキルについて、「リアリティ」をもって習得できる可能性を秘めた研究といえます。
参考文献(1)山田剛史, 大学教育の質的転換と学生エンゲージメント、名古屋高等教育研究, 18, 155-76, 2018.