序
我々は2004年から、個々の生体分子を1分子レベルで観察するための顕微鏡開発に取り組んできました。そのための試料固定法として着目したのが、「クライオ固定法」です。この方法では、液体エタンなどを冷媒として用い、試料を約1,000分の1秒で凍結します。このような急速凍結をすることで、試料中の水は結晶化せず、光と電子線の両方に対して透明なガラス状態の氷にすることができます。そのため、クライオ固定した細胞は、光学顕微鏡と電子顕微鏡のいずれでも観察できます。
光学顕微鏡では生体分子を一つずつ観察することができ、室温下での細胞内1分子観察もすでに報告されていました。そこで我々は、2013年ごろから、クライオ固定した細胞を観察するための「クライオ蛍光顕微鏡」の開発を進めてきました。当時は市販品が限られていたため、対物レンズ、顕微鏡光学系、低温槽など、必要な装置や部品をすべて自作しました。その結果、細胞外試料を対象とした研究ではありますが、個々の生体分子の向きと長さを三次元かつナノメートル分解能で観察することに、2025年、世界で初めて成功しました。その一方で、この間にクライオ電子顕微鏡技術も、細胞を観察する手法として急速に発展しました。そこで現在は、クライオ蛍光顕微鏡とクライオ電子顕微鏡を組み合わせ、両者の長所を活かす「クライオ光電子相関顕微鏡」の開発にも取り組んでいます。