ディスクリートで組んだ増幅器の設計
Goals
■村岡如竹
ディスクリートで組んだ増幅器の設計
■村岡如竹
■ゴールとなる指標
上図に示す程度の増幅器回路を自由に設計できる能力を身に着けることを最低限のゴールとする。アナログ回路の基本は増幅器であり、増幅器の設計能力が最も重要である。なぜなら、ディスクリート素子による増幅器回路の設計ができてこそ、オペアンプなどの集積素子のかかえる弱点を克服できるからであり、また、デジタル回路をも含めた電子回路の総合的な設計能力の向上の要でもあるからである。
しかしながら、さらに強調することは、上記の難しそうな増幅器回路の重要性の強調に矛盾するように思われるかもしれないが、真のねらいは学ぶ者にとって、増幅器回路の設計の楽しさを実感していただくことである。
・DC(直流)設計
DC設計は、半導体の特性(クリック)のコツさえ掴めば比較的容易に(積み木細工のように)習得が達成できる技術である。AC(交流)設計に比べれば、中学生レベルでも立派な設計ができる分野であるので安心してほしい。
1.増幅器(クローズド・ループ)としての有効周波数範囲での
ゲインの設定。
R115、R116(=R113同値)、C111、C112の定数の決定。
2. 増幅器(クローズド・ループ)のゲインを正確化するための
高精度部品の選択。
R111、R112、R113、R115、R116、R176、R177は±1%以下など。
(他の抵抗は±5%程度でよい)
C111、C112、C171は±2%(ただし、既定の有効周波数領域が規定
精度で充たされるならもっと低い精度でもよい)
3.要件事項としての出力の振幅(Vp-p)と必要電流(或いは
出力側の負荷抵抗を最大振幅の要求値)を満たす設計であること。
4.増幅段として、初段から終段までアイドリング電流の設定が、
適正であること。
5.バイポーラ・トランジスタによる各定電流源で作る定電圧源が
頑丈(電源電圧の変動や相手のトランジスタのベース電流で
振られない)であること。
6. 各段のトランジスタはコレクタ電流とコレクタ-エミッタ間電圧
での消費電力での熱設計での安全動作が確保できること。
・AC(交流)設計
AC設計は扱う信号入力に対して回路の周波数特性を中心として解析するものだが、実数とは位相が±90度異なる虚数を含んだ計算による評価であり、直感的なDC設計とは異なり、数学的計算力を伴なう。つまり、シミュレーション・ツールなどが必須である。
1. バイポーラトランジスタの等価回路(クリック)によるオープン
ループの周波数特性を求める。
2. オープン・ループの有効周波数範囲での最大ゲインの決定。
2段目の増幅率を左右するR141、R151の決定。C141、C151による
帯域確保。
3. 出力が、発振やステップ入力によるリンギング現象を起こさないこと。
そのためのポール(極)とゼロ点の構成を組み立てること。
4. 青枠のベース接地のトランジスタによる高周波的効果を把握すること。
・基板のパターン設計
回路設計ができたなら、それを具現化する基板のパターン設計(アートワーク)を行う。
■DC設計
DC(直流)設計は、半導体の特性のコツさえつかんでいるなら、中学生レベルでも立派な設計ができると上述した。では、その「コツ」とは何か。下の図は、バイポーラ・トランジスタのコレクタ電流対ベースーエミッタ間電圧とコレクタ電流対コレクタ電圧-エミッタ間電圧およびコレクタ電流対hFEの特性である。
下の左端の特性では、ベースーエミッタ間電圧に対し、コレクタ電流が指数関数的に増大することが示され、ベースーエミッタ間電圧の僅かな増加で膨大なコレクタ電流の膨大な増加を引き起こすことを示している。中央の図は、ブルーの領域は、各ベース電流に対するコレクタ電流の定電流性を示している。つまり、コレクタ-エミッタ間電圧が変化してもコレクタ電流の一定性を示しているのだ。昔はこのような特性を真空管の一種である五極管特性と言ったものだ。さらに、右端の図では、コレクタ電流に対するhFE(コレクタ電流のベース電流に対する倍率)の特性である。このhFEの値により、複数段の場合に、ドライブされる段のベース端子へのベース電流の非線形性をカバーできる、ドライブする段の側の負荷抵抗の端子間電圧の変化を線形性に維持できるようなドライブ側のトランジスタのコレクタ電流を決めることができる。
これら3つの特性を頭に定着させておこう。特にアナログ回路については、この3つの特性が、トランジスタ回路の設計上の重要なコツだからだ。
●終段の設計
DC(直流)設計は、増幅器においては終段から行う。なぜなら、出力に必要なスペックを満たさなくてはならないからだ。最終段の構成は見てわかるとおり、上下プッシュ・プルのコンプリメンタリー(Complementary)構成となっている。この構成によって、正負、スピーディに動作できるようになっている。B級動作の場合、正方向の動きの時、負方向のトランジスタ(PNP)は、殆どオフ状態になっており、消費電力が抑えられる。負方向の動きの場合も正方向のトランジスタ(NPN)が然りである。
増幅器の電源電圧を±15Vとし、出力先のインピーダンスの絶対値を最低1KΩとして、出力を±10Vは確保したいとしよう。 フィードバックの安定を損ねる出力先の全キャパシタを最大200pFとしつつも、出力効率を確保したいがために、R176=100Ωとする。Re=220Ωとした場合に、出力を±10V取れているか、下の図に付随しているVout(max)を計算してみよう。もちろん結果は10.8Vなので、出力仕様は満たされている。
「あれ!、こんな感じで進めていいの?」と思われたかも知れないが、これでいいのだ。たいては、この図の式の逆算式で求める方がスマートであるが、後でさらに各素子の値を検討しなくてはならない場合には、手っ取り早く、先に値を決めていこう。後で修正する場合は後で修正すればよい。
コレクタ電流対べ-ス-エミッタ間電圧特性は、昔は半導体各社のデータ・ブックでは、下図のように線形座標(Libear scale)で表されたので、エミッタに接続された抵抗Reの値を評価するのに、(Vbe+Vre)の座標値とコレクタ電流の座標値とを直線で結ぶことができた。
そのため、エミッタ抵抗Reの値によるトランジスタのコレクタ電流の温度影響をコントロールする指標は簡単に得られた。
しかし、最近の半導体各社のデータでは、コレクタ電流対べ-ス-エミッタ間電圧特性は、下図のように対数座標によるものが多い。この方が、コレクタ電流を広範囲に表現できる利点があるのだが、上述の線形座標のようにエミッタ抵抗Reを直線的には扱えないという面倒くささがつきまとう。
これを解決するために以下の一手法を示す。
上図の対数座標のコレクタ電流対べ-ス-エミッタ間電圧特性を左に90°倒し、さらに左右反転して、エミッタ抵抗Reの値に対する電流を対数座標のコレクタ電流にプロットすると下図のように各温度でのコレクタ電流の変動値が表せるようになる。ここでは、最終段のQ173のアイドリング電流を2mAとしよう。この時のベースーエミッタ間電圧Vbeは下の図から判るように、0.675Vである。
上図とエミッタ抵抗Reの特性を合成すればよいのだが、上図のコレクタ電流対べ-ス-エミッタ間電圧特性のコレクタ電流は対数座標なので、エミッタ抵抗Reによるエミッタ電流(≒コレクタ電流)は以下の図のように線形座標として分離しておく。
上図の中のコレクタ電流を求める式より、(Vbe+Vre)の電圧に相応するコレクタ電流Icを求めて下の図の対数座標型のコレクタ電流対べ-ス-エミッタ間電圧特性上に各温度のコレクタ電流Icの線と交差しそうな近辺に順次プロットする。
ノウハウとしては、目指す温度でのプロットの左右(大小)近辺を念入りに行えば、好結果が得られるということは確実である。
上図にプロットした(Vbe+Vre)に対するエミッタ電流(≒コレクタ電流Ic)の曲線と、最低温度(Ta=-55℃)と最高温度(Ta=150℃)のそれぞれのコレクタ電流対べ-ス-エミッタ間電圧特性のコレクタ電流値が求まる。