非硫酸化HNK-1糖鎖は末端グルクロン酸を有する特徴的な3糖構造からなり(図1A)、マウス腎臓内で強く発現します。我々はそのキャリア分子や発現領域に着目しながら、本糖鎖の発現メカニズムの解析を行っています。さらに本糖鎖は尿中にも検出され、かつ様々な腎機能障害に伴い量的変動を示すこともわかってきました(図1B)。たとえば糸球体障害誘導マウスでは腎臓内および尿中非硫酸化HNK-1量が増加する一方、尿細管障害誘導マウスでは尿中非硫酸化HNK-1量が減少することを明らかにしました。将来的には、腎疾患を評価する糖鎖バイオマーカーへ展開することを目指します。
糖タンパク質上の糖鎖構造は細胞内で厳密に制御されます。まず小胞体内で未成熟なHigh-mannose型糖鎖が付加された後、ゴルジ体でプロセシングを受け成熟し、最終的に膜表面などに発現します。このような過程を経て糖鎖構造が多様化していき、細胞やタンパク質に多彩な機能を付与します。一方、糖鎖構造を細胞内で自在に改変する技術はこれまでに確立されていません。それに対し我々は最近、未成熟型糖鎖を維持する特定のアミノ酸配列を見つけました(図2A)。この配列を膜貫通タンパク質の細胞質領域に導入すると、その輸送経路が変わり、正常なプロセシングを回避することがわかってきました。このアミノ酸配列を駆使すれば標的分子上の糖鎖構造をHigh-mannose型に維持することが可能となり、その機能的意義を明らかにできることが期待されます。また、我々は成熟型糖鎖を自在に制御するために、VHH融合糖転移酵素の開発を目指しています。VHH融合糖転移酵素は、重鎖単一ドメイン抗体であるVHHと特定の糖転移酵素を融合した分子です。それを細胞に発現させることで、VHHを介して糖転移酵素を標的分子に近接させ、糖付加が効率的に行える可能性を見出しました(図2B)。以上のような技術開発を通し、糖鎖発現を自在にコントロールする新たな手法を開拓しています。
1、2以外にも、糖鎖生物学分野における未知な機能や課題解決を目指しています。たとえば、糖鎖結合タンパク質(Glycan-binding protein; GBP)の探索も目標の1つです。生体内の糖鎖構造は3万種類を超えると言われている一方、既知のGBPは数百種程度しか発見されていません。この数的不均衡が、糖鎖機能解読の妨げになっています。そこで我々はファージディスプレイ法を駆使して、特定の糖鎖構造に対するGBPの網羅的探索法の確立を目指しています。他にも糖鎖に関連した未知の現象や疑問があれば、研究室にあるツールを用いて積極的に解析を進めたいと考えています。