資源採掘のために地下深部に坑道を掘削することはよく行われるが,その採掘ルート上に断層が存在していることがある.掘削と断層の再活動の関係を事前に調べておくことは,資源採掘の安全性確保のために重要である。掘削前の地下の応力場と掘削によって生じる応力場の擾乱から,既存断層面に働く法線応力,剪断応力を計算し,既存断層の再活動が起こるかどうかを調べる研究を行なった (Li et al., 2024, BEGE).左図に示すモデルを用いて,掘削から断層までの距離 (Dm)に応じて,掘削による応力擾乱により断層面上で生じうるすべり分布がどのようになるかの推定を行った (右図).
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地下の掘削条件
数値計算から得られた断層すべり
岩盤内の亀裂が安定してゆっくりとずれるか不安定な剪断すべりを起こすかは,亀裂内の摩擦の性質に依存する.摩擦の性質を表現する摩擦則として,速度状態依存摩擦則がよく利用される,速度状態依存摩擦則は,定常状態においては以下の方程式によって記述される.
ここで,μ とVは摩擦係数とすべり速度,μ0とV0は基準となる摩擦係数とすべり速度,a, bは摩擦の性質を表すパラメータである (Dieterich, 1978, JGR).この式をよく見ると, a - bの正負で振る舞いが変わることが理解できる. a - bが正の時はすべり速度が速くなると摩擦係数が大きくなるので,安定すべりとなり, a - bが負の時はすべり速度が速くなると摩擦係数が小さくなるので,不安定すべりとなる.また、この式の両辺をlnVで微分すると,
となるので,すべり速度速度変化の対数に対する摩擦係数の変化を測定することで,a - bの値が測定可能となる.このような a - bの値を,対象とする岩盤に対して実測することで,岩盤の剪断滑りに対する安定性を評価できるようになる.
剪断すべりがどのように伝播するかは,破壊先端の非弾性的な性質によって制御されている.非弾性的な性質を直接調べるため,大型岩石摩擦実験によって得られた剪断歪みデータを用い,その性質を調べた (Fukuyama et al., 2016, J Seismo).破壊伝播速度の情報を用い,時空間の変換を行うことにより,多点の剪断歪みの時間変化(左図)は,時間窓ごとの剪断歪み分布(右図)に焼き直すことができる.この時間ごとの剪断歪み分布図を用い,破壊先端部の非弾性変形領域の長さ(右図の黒+と赤×の距離)の変化を推定した.この非弾性領域の長さは断層の摩擦の性質と深く関わっており,実験室で直接の測定が困難な摩擦パラメータの測定の可能性を示唆している.
伝播するひずみ波形の一例
断層に沿ったせん断ひずみ分布
地下に圧入した二酸化炭素のモニタリングや石油・天然ガス・地熱エネルギーなどの地下資源を効率良く探査するには,より高精度な地下可視化手法の開発が重要となる.全波形逆解析手法は得られた地震波形全てを用いて高精度に地下を可視化できる手法として注目されているが,ノイズの影響を受けやすいといった問題がある (下図左側).本研究では,全波形逆解析手法に新しいデータ処理法を導入するなどして,より頑健な全波形逆解析手法の開発を目指している.下図右側はその一例で,ノイズの影響下でもより安定して地下速度構造が逆解析されている.
逆解析の結果 (左: 従来法、右: 新手法)
近年,光ファイバを用いた地震動の計測方法が注目されている.光ファイバを敷設することで,高密度な地震動データが安価に取得できるという利点がある一方,光ファイバ軸方向の垂直ひずみにしか感度が無いという課題も指摘されている.この課題を克服するため,新しい光ファイバセンサーの開発に取り組んでいる.下図は光ファイバセンサーのプロトタイプであり,直交する3方向に光ファイバが張られている.
試作された光ファイバセンサー