非和声音は, 旋律と和声の関係を理解する上で重要な音楽的要素であり, その自動識別は楽曲構造解析や音楽情報処理における基礎的課題の一つである. 近年, 音符間の関係性をグラフ構造として明示的に扱う手法として, グラフニューラルネットワーク(GNN)を用いた非和声音識別が提案されている. しかし, 従来研究の多くはクラシック音楽を対象としており, 和声的・旋律的に複雑な特徴を持つジャズ楽曲への適用可能性は十分に検証されていない.
本研究の目的は, 上原によって提案された GNN に基づく非和声音識別モデルをジャズ楽曲データに適用し, ジャンルの違いに対するモデルの汎用性を検証することである.
本研究では, Lakh MIDI Dataset に含まれるジャズ楽曲の MIDI データと, MIDICaps によって付与されたコード進行情報を用い, 音符間の時間的関係および同時発音関係を表現したグラフ構造を構築した.
このグラフを入力として, GraphSAGE および GATv2 を用いた非和声音識別モデルを実装し, 入力特徴量に関するアブレーションを含む比較実験を行った.
実験の結果, いずれのモデルにおいても一定の識別性能が確認され, GNN に基づく非和声音識別手法がジャズ楽曲に対しても適用可能であることが示された. 一方で, クラシック音楽を対象とした従来研究と比較すると識別性能は相対的に低く, ジャズ特有の和声的特徴や多声的構造がモデル性能に影響を与えている可能性が示唆された.
以上より, GNN による構造的文脈表現はジャンルを越えた非和声音識別に有効である一方, ジャズに特有の音楽理論的要素を考慮したモデル設計や特徴表現の拡張が, 今後の課題であると結論づけられる.