ペットショップの

裏側

ペットショップの店頭に並ぶショーケースに入った小さな子猫や子犬。私たちにとっては、日常的なことですが欧米などではありえない光景です。今回は、動物愛護後進国である日本のペットショップの仕組み、そして日本とは反対に動物愛護先進国であるドイツの仕組みを紹介していきます。この記事を読むことで、あまり知られていないペットショップの仕組みや裏側、現状について少しでも理解し考えていただけると嬉しいです。

ペットショップの何が問題なのか

ペットショップの裏側には、多くのが存在します。多くのペットショップ(生体販売ビジネス)が、利益ばかりを追求し、大量生産大量販売を行っており、その結果、裏で多くの犬猫が犠牲になっています。もちろん中にはそうでないペットショップもありますが、現状では多くの場合、大量生産・大量販売が行われ、動物モノ」や「商品」として扱われています。まず最初にペットショップで販売されている犬や猫がどこから、そして、どのように私たちのもとに犬や猫が来ているかを紹介します。流通過程には複数のパターンがありますが、その中でも多くの割合を占めているのが ブリーダー → ペットオークション → ペットショップ → 飼い主 といった過程です。

ペット産業の流通過程

ペットショップで販売されている犬猫はどこからくるのか

ペットショップの犬猫の多くは、利益ばかりを考える悪質ブリーダー・生産業者から来ています。なぜなら、良いブリーダー(一般的にシリアスブリーダーと呼ばれます)は、自身が愛情を込めて育てた犬猫を行き先や飼い主が不確定な場所には提供しないからです。そのためシリアスブリーダーは、直接販売(ブリーダーから直接飼い主への販売)を行なっていることがほとんどです。

こうした悪質ブリーダーは、一般的にパピーミル(犬の場合)やキトンミル(猫の場合)と呼ばれ、利益を最大限にするため、飼育費用を最小限に抑え大量生産をしています。そのため、飼育環境は劣悪で、不十分な餌や水の中、母犬(母猫)はケージに入れられたまま繰り返し子供を産むための「道具」として扱われています。そして、高齢や病気などで繁殖ができなくなると多くの場合、保健所や「引き取り屋」などに渡され、処分されます。

これが、私たちがペットショップで目にする犬猫の「お母さんたち」です。実際私も、繁殖犬として使われていた子を小学6年生の時に引き取り、今も一緒に暮らしています。最初、我が家に来た「シンディー」は細く痩せていて、ケージをずっと噛んでいたためか前歯もすり減り、不安な顔をしていました。ストレスや不安のせいか、じっとするのではなくテーブルや椅子の周りなど同じ場所を何度もグルグル回っていました。散歩に行くためにハーネスをつけるのでさえも人生初めての経験で戸惑い、上手く出来ませんでしたが、今ではお散歩大好きな子になりましたシンディーは運良くボランティアさんに引き取られ、我が家にやってきましたが、実際には誰にも見つからずに繁殖を繰り返させられた後、死んでいく母犬・母猫が多く存在します。

「小さく、幼い方が売れる」という考え

多くのペットショップでは「小さく幼い方が売れる」と考えられているため、生まれた子供達は幼い時期に母親と引き離されます。しかし、犬には、生後3週間から12週間頃にかけての「社会化期」という期間があります。この期間中に、「視覚、聴覚、嗅覚、触覚などのさまざまな刺激を通じて、生活環境に適応する能力」を身につけます。そのため、この期間内に適切な社会化が行われていない場合、成犬になった際に問題行動を示す可能性が高まります。

以前は、ペットの販売に関しては、動物愛護法によって生後45日以降での引き渡しが義務付けられていました。しかし、2021年6月1日から動物愛護法の改正により、引き渡し期間は56日以降に変更されました(日本犬の6種は49日)。この変更は少し進歩したと言えますが、依然として56日という引き渡し期間は、多くの獣医師が早すぎると見なしています。なぜなら、この時期に引き離されると、病弱になったり、社会性が不足して問題行動を起こしやすくなる可能性が高まるからです。多くの犬や猫は、このような期間中に小さな段ボールに詰められ、ペットオークションやペットショップの業者に引き渡されます。その結果、子犬や子猫が十分な社会化を受けられず、問題行動を起こしやすいことが指摘されています。実際、ジェームスサーベル(ペンシルベニア大学の動物倫理福祉の教授)が行なった研究によると、ペットショップで販売されている犬は、ブリーダーよりも問題行動を起こしやすい傾向にあることが明らかになっています。

オークションの様子
出典:「オークションについて」

全ての段ボールに子犬や子猫が入っている

出典:「苦しみ続ける動物達のために」

ペットオークションの闇

まだ幼い犬猫は母親や兄妹から引き離され、ほとんどが「ペットオークション」という過程を経てペットショップに辿り着きます。一般的にペットオークションとは、週に1回行われているブリーダーが持ち込んだ犬や猫をペットの販売業者が競り落とす競り市です。オークションではまず、獣医師が感染症や健康に問題がないかを確認した後、小さな空気穴が空いた段ボールに入れられます。そして、競り人が一匹づつ犬種名、性別などを読み上げている間にビニール手袋をはめたもう一人が子犬を高く持ち上げバイヤー(購入する人)にみせます。そしてバイヤー達が持っているボタンを押し続ける限り、落札価格は1000円ずつ上昇し、最終的に競り落とされます。競り落とされた犬猫達は、ワクチン接種などを行なった後、ペットショップへと移動されます。しかし、こうしたペットオークションの裏では多くの犬猫が移動によるストレスなどで命を落としているのです。実際、日本大学商学部秋川卓也研究室の研究によると犬猫がブリーダーから飼い主に届くまでの流通過程で、年間約2.3万匹が亡くなっていることが明らかになっています。これらの数は、殺処分数などには含まれていません。そのため、一般的にはあまり知られておらず、さらには報告されていないケースもあるため、実際にはさらに多くの動物が流通過程で命を落としていると考えられます。そうした流通過程を経て生き残った犬猫がペットショップで販売されているのですが、不衛生な環境、そして健康状態の悪い母親から生まれることで遺伝性疾患や病気にかかりやすくなっています。さらに、ペットショップでは大きくなってしまった犬猫は売れにくくなるため、値下げが行われます。それでも売れない場合、多くは「引き取り屋」愛護施設に引き渡すことで処分されています。

引き取り屋とは

引き取り屋という闇ビジネスが始まったのは、2012年の動物愛護法改正によるものだと考えられます。改正内容としては、以前は売れ残りや、繁殖できなくなった犬猫の多くは販売業者によって自治体に持ち込まれ殺処分されていましたが、改正後、動物取扱業者から引き取りを求められた場合に断ることができるようになりました。こうした改正はもちろん良いことなのですが、それによって犬猫販売業者から「不要」とされている犬猫の行き場がなくなりました。そこで、「不要」になった犬や猫を有料で引き取るビジネス、「引き取り屋」が生まれてしまったのです。引き取り屋は、犬猫販売業者とは違い動物取扱業の登録も不要なため、行政の指導は届きにくくなります。そのため、不衛生で犬や猫の十分なケアが行き届いていない環境でも数多くの犬猫が引き取られます。引き取られた犬や猫は、給餌や掃除、病気の処置などの適切な世話がされない状況で狭いケージに閉じ込められたまま一生を過ごします。こうした現状の背景にはペット業界の「大量生産」「大量販売」があるのです。

約50億円かけて建設された世界最先端と言われる動物保護施設であるティアハイム・ベルリン

出典:「ドイツのティアハイムというところ」

1匹1部屋、外と中を自由に行き来できる個室

出典:「ペット想いの国ドイツを象徴する動物保護施設「ティアハイム」とは?」

海外ではどうなっているのか?

動物愛護の先進国として有名なドイツの仕組みを紹介します。

ドイツではペットショップに行っても日本のようにショーケースに入った子犬や子猫の生体販売は行っていません。代わりにペットフードやおもちゃなどペット用品などが売られているのです。一般的にドイツでは、犬や猫を飼いたい場合、ペットショップではなく、動物の保護施設であるティアハイムやブリーダーに連絡を取ります。ティアハイムとは、1881年に設立された民間組織、ドイツ動物保護連盟によって経営されています。「この連盟には、全ドイツ16の州ごとに、720地域の動物保護協会、509のティアハイム、及びドイツ全国の80万人以上の個人会員が加盟」(Pedge, 2016)しています。飼い主の引っ越しなどの理由で捨てられた動物達はティアハイムに持ち込まれ、新たな飼い主を探します。しかし、日本とは違い殺処分は行われません。動物達は、飼い主が見つかるまでゆっくりとティアハイムで過ごすことができるのです。こうしたティアハイムの経費(年間約8億円)の多くが個人の会費や寄付によって賄われています。寄付などは、個々の動物愛護の意識の高さから生まれており、それによって施設や動物たちのケアに資金を充てることができています。

根本的な考え方の違い

日本では、多くがペットショップやブリーダーから動物を迎えている一方、ドイツでは、動物を迎えたい際、多くがティアハイムを訪れ、里親条件をクリアした後、保護犬や保護猫などを家族に迎え入れます。そのため、ティアハイムには、毎年平均25万人が訪れ、犬の譲渡率は9割を超えています。このように、殺処分0を実現しているドイツと日本とでは、動物を迎え入れる際の根本的な考え方や仕組みが異なっているのです

私は、中学3年生からのドイツ留学でティアハイムを訪問しました。残念ながら年齢制限によりボランティアを行う夢は叶いませんでしたが、施設の方にインタビューを行い、施設を案内していただきました。そこでは、ドイツの人々の動物に対する意識の高さや、地域社会全体での動物保護への取り組みを感じ、知ることができました。インタビューの中で印象に残っているのは、指定犬種(扱いが難しい犬種)はもちろん、多くの場合犬を迎え入れると犬だけでなく飼い主も犬と共にしつけ学校に通い、適切な飼い方やしつけについて学ぶということです。こうした考え方が広まっていることにより、問題行動によって殺処分される動物が少ないことも、ドイツの殺処分数が0の理由なのでははないでしょうか。

実際にティアハイムを訪問した際の写真

フードやおもちゃなどは全て寄付

私たちには何ができる?

こうしたペットショップ問題の根本の原因は、私たちが現実を「知らない」ということだと思います。裏で何が行なわれているのか、子犬・子猫がどこから来たかを知らずに、ペットショップで犬や猫を購入するとペットショップの需要が発生してしまいます。そうすることでどんどん大量生産・大量販売が繰り返され、負のループが続きます。私は、ペットショップで犬や猫を購入することが悪だとは思っていません。しかし、人々が知らないうちにこうした負のループに加担してしまっている現状に問題を感じています。そのため、私たちが今できる1番のことはペットショップの現状について周りに広めることです。そして、その際に是非、保護犬・猫を迎える選択肢があることも伝えてください。そうすることで、動物愛護センターや保護施設から保護犬や保護猫を引き取ることが、動物を迎え入れる際の選択肢の1つになっていくと考えています。実際に、保健所から犬や猫を引き取る人が10人に1人いれば日本の犬猫殺処分はゼロになるといわれています。そのため、新たに犬や猫を迎え入れようと考えている方がいれば、是非、保護犬を引き取ることを選択肢の一つに入れてください。そして、今すでに動物とくらしている方は、最後まで愛情をたくさん注いで幸せに育ててあげてください!

公益財団法人動物環境・福祉協会Evaが開催した「動物たちにやさしい世界を」プロジェクトの一環として、募金を元に作成した作品「しあわせなおかいもの?」です。この動画を少し過激・極端に思われる方もいられるかもしれませんが、私はこの映像がペット業界の現状を描いていると思います。2分30秒ほどの動画ですので、是非見てください。

cf. 『しあわせなおかいもの?』

参考文献

保健所犬猫応援団. (2021). 「保健所犬猫応援団」 https://duhomeandgarden.amebaownd.com/ 

京都市. (n.d). 「海外行政調査報告」https://www2.city.kyoto.lg.jp/shikai/img/joho/kaigai/2605doubutsuaigo2.pdf 

人と動物の共生センター. (2017).「動物の愛護と管理と科学の関わり」. https://human-animal.jp/activity/law/697.html 

環境省. (2013). 「動物の愛護及び管理に」.https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2508a/full.pdf 

伊藤愛 他. (2020). 日本大学商学部秋.「流通過程の裏側で起こるペット犬の死亡」. https://akikawa.info/wp-content/uploads/2022/12/10_1.pdf 

書冊:

太田正彦. (2010). 『犬を殺すのは誰か  ペット流通の闇』.毎日新聞出版. 第1刷発行. [288ページ]

太田正彦. (2019). 『奴隷」になった犬、そして猫』 . 毎日新聞出版. [448ページ]

杉本彩.(2016). 『それでも命を買いますか? - ペットビジネスの闇を支えるのは誰だ』. ワニブックス. [190ページ]

グレーフェ・アヤ子. (2000).『ドイツの犬はなぜ幸せか: 犬の権利、人の義務』. 中央公論新社. [286ページ]

浅川千尋, 有馬めぐむ.(2018).『動物保護入門ードイツとギリシャに学ぶ共生の未来』. 世界思想社. [160ページ]