慶應 × ライフサイエンス
第1回慶應ライフサイエンスシンポジウム
2017年8月28日(月)日吉キャンパス 協生館 藤原洋記念ホール
2017年8月28日(月)日吉キャンパス 協生館 藤原洋記念ホール
妊娠中の疾患リスクは高いにも関わらず、胎児到達性や安全性に関する情報が不足し、薬物治療 の充足度は低い。薬物の胎児影響評価はラットなど実験動物に頼っているため、妊婦におけるアン メット・メディカル・ニーズに応えるには、ヒトへの外挿精度が重要な課題である。胎児移行性の 決定因子となる胎盤関門の構造や細胞膜トランスポーターの機能発現における種差を理解することで、より精緻な外挿が可能となる。我々は、胎盤 MDR1 トランスポーターの発現はラットと比較 してヒトで低いことを明らかにし、相関して MDR1 基質薬物の透過性はヒトで相対的に高いことを見出している。また、オルソログの存在が霊長類に限られる OAT4 トランスポーターは、胎児 からの前駆体取り込みを通じて胎盤エストリオール産生を担う一方、アンジオテンシン II 受容体 拮抗薬の胎児への排出も担うことを見出し、OAT4 が薬物の胎児移行促進因子となることを明らかにしている。アンジオテンシン II 受容体拮抗薬は、ヒトで重篤な胎児毒性を引き起こす一方、ラットでは毒性が示されない。これら研究成果は、薬物胎児移行における胎盤関門トランスポーターの重要性を示唆するものであり、ヒト胎児毒性リスクを高精度に評価する上で必要な知見である。講演では胎盤関門が薬物の胎盤透過制御に果たす役割とその評価法について、今後の検討課題も含めて紹介したい。