1日目
会員控室:101教室
受付:慶應義塾大学三田キャンパス1号館1階(11:30~17:30)
12:30〜14:40 自由論題報告(セッションA・B)
セッションA「資本市場・企業行動」(122教室)
司会:石川博行(大阪公立大学)
野原崇史(早稲田大学大学院)
本研究は、日本銀行およびGPIFという大規模公的パッシブ投資家のベンチマーク連動需要が、株価形成と価格発見に与える影響を検証する。対象は日経225、JPX日経400、MSCI Japanの指数見直しイベントであり、2014年以降の制度変更を利用して、指数連動資金の需要ショックが価格、売買高、流動性、ボラティリティに及ぼす短期的影響を識別する。さらに、こうしたパッシブ需要の蓄積が、株価同調性、企業固有情報の反映、情報織り込み速度にどのような中期的影響を及ぼすかを企業四半期パネルで検証する。これにより、公的パッシブ資金の拡大が市場に及ぼす外部性を、イベント時の需給歪みと情報効率性の両面から統一的に明らかにすることを目指す。
大塚慎太郎(早稲田大学大学院)
本研究は、多角化ディスカウントという平均的に観察される現象を踏まえ、多角化プレミアム企業の特性を実証的に検討した。日本上場企業を対象に、日本標準産業分類(JSIC)が安定している2015年から2023年のデータを用いて超過価値を測定し、JSIC2桁分類基準を主分析として固定効果付きパネル回帰を実施した。その結果、多角化度や非関連多角化は超過価値と一貫した負の関係を示さず、現預金比率および売上高成長率は一貫して正の関連を示した。また、経営者能力(Managerial Ability Score:MAS)も単変量分析および企業固定効果モデルにおいて一定の正の関連が確認された。本研究は、産業分類の整合性を考慮した超過価値の測定を通じて、多角化の価値効果が企業の財務的余力や成長性、さらに資源配分能力を近似するMASと関連する可能性を示した。
司会:村上裕太郎(慶應義塾大学)
黄耀偉(武蔵大学)
近年、ガバナンス改革において取締役会の独立性向上が強く推し進められている。本研究は、この独立性偏重の潮流に対し、社内役員による「助言機能」の価値を理論的に再評価することを目的とする。
分析には、株主・取締役・経営者からなる3層LENモデルを構築し、取締役の「監督(業績ノイズ削減)」と「助言(期待値向上)」のトレードオフを定式化した。特に、株主が経営者へ直接報酬を支払う一方で、取締役がインセンティブ設計を担う現実的な契約構造を組み込んでいる。
分析の結果、取締役は経営者のリスク負担軽減を部分的にしか内部化しないため、「過少監督」が生じることを証明した。さらに、独立性が高く監督に優れる取締役会よりも、社内役員中心で助言に優れる「友好的取締役会」の方が株主価値を最大化する広範な条件の存在を明らかにした。
小谷学(熊本学園大学)
本研究は,アナリスト予想の価値が「どれだけ正確か」という精度だけでなく,「誰にどこまで販売するか」という提供範囲によっても決まる点に着目する。予想は広く売るほど収入機会は増えるが,その一方で価格に織り込まれやすくなり,希少性が失われて情報料が低下する可能性がある。そこで本研究は,競合する複数のアナリストが,予想精度と販売先の範囲を同時に選ぶモデルを構築し,株価形成と情報販売を一体的に分析する。このフレームワークに基づけば,高精度なアナリストが必ずしも広く販売するとは限らず,むしろ少数に高く売る「高精度ブティック型」が生じうることも示せる。これは,アナリスト業界の競争戦略や情報の価格付けを統一的に理解するうえで意義がある。
セッションB「ESG・監査」(124教室)
司会:浅野信博(大阪公立大学)
辰馬雅士(慶應義塾大学大学院)
近年、資本市場における企業のサステナビリティ活動への注目が高まっている。しかし、特に、サステナビリティ活動と企業価値・業績との関係については統一的な結果が得られていない。その一因として、企業がサステナビリティ活動を行う動機が多岐にわたることが指摘されている(Christensen et al., 2021)。例えば、CSRの一形態である企業の慈善活動は、経営者の私的利益の追求に利用される可能性がある一方で(Masulis and Reza,2015)、CSRの倫理的側面が高品質な財務報告と結びつく可能性も示されている(Kim et al., 2012)。そこで本研究では、日本の上場企業のうち3月決算企業を対象に、2016年から2022年までのデータを用いて、サステナビリティ活動と利益の質との関係を検証した。サステナビリティ活動の指標にはSustainalyticsおよびMSCIによる評価データを用いた。利益の質は、会計的利益調整および実態的利益調整を測定し、前者はKothari et al.(2005)モデルおよびMcNichols(2002)モデル、後者はRoychowdhury(2006)モデルに基づき測定した。分析の結果、サステナビリティ活動スコアと各利益調整指標との間に統計的に有意な負の関連が確認された。これは、サステナビリティ活動の評価が高い企業ほど利益調整の程度が小さいことを示している。以上より、本研究の結果は、日本企業におけるサステナビリティ活動が、利益調整を隠す手段としてではなく、より倫理的な動機と結びついている可能性を示唆している。
太田結梨(慶應義塾大学大学院)
本研究の目的は、サステナビリティ情報に対する第三者保証が統合報告書の質に与える影響を検証することである。近年、企業による非財務情報開示の重要性が高まる中で、その信頼性確保手段として第三者保証の役割が注目されている。本研究では、日経統合報告書アワード参加企業を対象に、統合報告書の質を被説明変数とし、第三者保証の有無および保証項目数等を説明変数として分析を実施した。その結果、第三者保証の有無および保証項目数は統合報告書の質と正の関係を有し、統計的に有意であることが確認された。一方で、GHG 排出量と第三者保証との間には統計的に有意な関係は確認されなかった。したがって、第三者保証の付与は環境パフォーマンスによって体系的に説明されるものではなく、もともと開示の質が高い企業ほど第三者保証を選択するという逆因果の可能性も否定できない。
司会:中野貴之(法政大学)
楊璟萱(一橋大学大学院)
本研究の目的は、運転資本への非効率投資が当該企業のサプライチェーン・パートナーに対するスピルオーバー効果を明らかにすること。問題意識として、運転資本の非効率投資がもたらす財務的帰結について、個社レベルの研究は数多く蓄積していくのに対し、サプライチェーン・パートナーに対するスピルオーバー効果は十分の検討されてこなかった点が挙げられる。
2015年度から2024年度まで東京証券取引所とジャスダックに上場する一般事業会社を対象とし、実証分析を行なった結果、フォーカル企業による運転資本への過剰投資はサプライチェーン・パートナーの株主価値に有意な負の影響を与えないものの、時間の経過とともにその負の影響が現れる傾向が確認された。他方、過小投資はサプライチェーン・パートナーの株主価値を毀損し、その影響は長期にわたり持続する。
これらの結果から、単一企業による運転資本の非効率投資は運転資本の過剰投資・過小投資が個社の企業価値に負の影響を与えるだけでなく、サプライチェーン・パートナーの株主価値にも負の影響を与えうることから、企業は運転資本管理を自社内の最適化にとどめず、サプライチェーン・パートナーへのスピルオーバー効果を十分に考慮した上で、運転資本投資に関する意思決定を行う必要があると言えよう。
廣瀬喜貴(同志社大学)
本研究は、監査上の主要な検討事項(KAM)の可読性が果たす機能を検討し、その効果が個人投資家の認知と判断に及ぶす影響を明らかにすることを目的としている。KAMの可読性(高群・低群)と長さ(長群・短群)を操作した2×2の実験参加者間実験により、日本の個人投資家398名を対象に分析を行った。分析の結果、可読性はコミュニケーション上の開放性(監査人が情報を率直かつ誠実に伝えているという認知)と主観的理解度を高める一方で、長さには影響が無かった。並列媒介分析の結果、コミュニケーション上の開放性と主観的理解度のいずれも、可読性が安心感の認知に及ぼす影響を媒介していたが、開放性を経由する間接効果の方が大きかった。さらに、直列媒介分析の結果、可読性は投資判断に直接影響するのではなく、コミュニケーション上の開放性と安心感の認知を経由する経路を通じてのみ、間接的に影響を与えることが示された。
会員総会 15:00〜16:00(121教室)
学術講演会 16:10〜17:40(121教室)
星野崇宏(慶應義塾大学)
懇親会 18:00〜(南校舎4階カフェテリアA)
2日目
会員控室:101教室
受付:慶應義塾大学三田キャンパス1号館1階(9:00~15:00)
10:00〜12:10 自由論題報告(セッションC・D)
セッションC「会計情報の質的特性・情報環境」(122教室)
司会:大沼宏(中央大学)
佐藤壱樹(東北大学大学院)
本研究の目的は、会計上の保守主義が企業の投資の効率性に与える影響を明らかにすることである。
とりわけ、保守主義を条件付保守主義と無条件保守主義に区別することで、それぞれが異なるメカニズムを通じて投資効率に作用する可能性を検討する。
分析では、両タイプの保守主義の程度を捉える指標をそれぞれ用いることにより、企業の投資効率との関係を実証的に検証する。
条件付保守主義は、バッド・ニュースを早期に会計利益へ反映することでシグナルとして機能するため、過剰な投資行動の抑制に寄与すると考えられる。
一方、無条件保守主義はニュースの発生とは独立して適用されるため、同様のシグナリング機能を備えておらず、過大投資の抑制には寄与しない可能性がある。
本研究は、条件付保守主義と無条件保守主義が投資の効率性に及ぼす影響の差異を示すことにより、保守主義のタイプに応じた経済的機能の理解に貢献する。
OH SEOKJIN(オ・ソクジン)(一橋大学大学院)
本研究は、Hoitash and Hoitash(2018)が提案したXBRLベースの財務諸表情報の複雑性指標が、日本企業においても複雑性を捉える指標として有効であるかを検証することを目的とする。XBRLとは、財務報告等の開示書類から情報取得を容易にする標準化されたコンピュータ言語であり、これを用いることで財務諸表本表および注記事項の情報を体系的に把握することが可能である。本研究では、日本基準適用企業を対象に、財務諸表本表におけるXBRLタグ数(勘定科目数)および注記事項の文章数を複雑性変数として測定した。その結果、複雑性は提出遅延、業績修正、監査報酬、内部統制における重要な不備、および監査上の主要な検討事項の数と有意な正の関係を示した。これらの結果は企業固定効果を考慮しても概ね頑健であり、XBRLデータに基づく複雑性指標は日本においても有効に機能することが示唆される。
司会:榎本正博(神戸大学)
杜雪菲(横浜市立大学)
本研究は、決算発表時の追加的情報移転の有無を検証する。投資家行動の企業間相関が決算発表時に通常時を上回って増強する場合、「決算発表時の追加的情報移転」の証拠と解釈できる。本研究では、各産業・四半期の最初の発表企業とその同業他社との相関に着目し、投資家行動を株価反応、取引活動、および投資家の情報処理の3つの観点から捉えて分析した。その結果、決算発表時に企業間相関が通常時を上回って増強する証拠は確認されなかった。
この結果は、情報移転の証拠と解釈されてきた「投資家行動の企業間相関」が通常時から存在しており、従来研究の解釈が情報移転を過大評価していた可能性を示唆する。本結果と整合的な解釈の1つとして、情報移転をもたらしうる、マクロ経済環境や産業競争に関する「共通情報」が決算発表の新情報に占める比率が限定的で、ひいては決算発表が主として各企業の「固有情報」で構成されている可能性がある。これにより、情報移転を根拠の1つとしている強制開示の制度設計に新たな知見を提供する。
澤井康毅(埼玉大学)・田口聡志(同志社大学)
本研究は、概念フレームワークにおける「Prudence(慎重性)」が、経営者の貸倒引当金見積りにどのような影響を与えるかを検討する。概念フレームワークにおけるPrudenceについては、IASBが楽観性を抑制するものと捉える一方で、FASBは下方バイアスを懸念するなど、その位置づけについて議論が分かれている。我々は、慎重性の定義の有無(あり/なし)と、リスク水準(高/低)を操作して、Prudenceが経営者の引当見積り判断に与える影響を検証した。事前登録された2つのオンライン実験(N=620)の結果、Prudenceがない場合には経営者の楽観バイアスが確認され、Prudenceが導入された場合でも、そのバイアスは解消されないことが明らかにされた。さらに、Prudenceは、必ずしも経営者の保守的な判断をもたらす訳ではないということも明らかにされた。我々の結果は、概念フレームワークにおけるPrudenceについて、現在の国際的な議論に対して一定の示唆を与える。
セッションD「ディスクロージャー」(124教室)
司会:梅澤俊浩(獨協大学)
高橋優里子(一橋大学大学院)
本研究の目的は、企業が所属する競争空間同士の相互関係が、研究開発情報の開示意思決定に与える影響を明らかにすることである。先行研究では、研究開発情報の開示決定要因として、製品市場競争または研究開発競争の状態が検討されてきた。しかし、実際の事業活動は複数の競争空間で構成されているため、経営者は複数の競争空間に生じる影響を総合して開示判断を行う可能性がある。ゆえに、本研究は、製品市場競争と研究開発競争との相互関係に着目し、研究開発情報開示との関係性を検証した。両競争空間の競争強度を他社との類似度という観点で計測し、基準化した強度を両空間で比較した。研究開発情報開示の代理変数には、「特許」という単語を含む任意開示書類の開示回数を用いた。重回帰分析により、競争空間同士の相互関係が開示調整要因であることと整合的な実証結果を得た。本研究の結果は、開示行動の決定要因として、各競争空間との一対一の関係に加え、競争空間同士の相互関係が機能している可能性を示唆している。
久岡広季(慶應義塾大学大学院)
本研究は、経営陣が売上拡大とコスト管理という二つのドメインに努力を配分するモデルを構築し、ドメイン別利益の開示が経営陣の努力配分と利益マネジメントをどのように変化させるかを、キャリア・コンサーンの枠組みのもとで理論的に分析する。企業の成長段階(成長期・成熟期)と経営体制における能力相関の高低(ワンマン型経営・権限分散型経営)が開示の効果を左右することを示す。主な結果は以下のとおりである。第一に、ドメイン別開示は経営陣の努力配分比率を歪めるが、その方向は成長段階と能力相関の組合せに依存する。第二に、開示は利益マネジメントの誘因を新たに生じさせる。第三に、将来利益の予測精度は開示により常に改善する一方、期待利益への効果は成熟期企業では常に正であるが、ワンマン型の成長期企業では負となりうる。本研究の貢献は、ドメイン別開示の便益と費用が企業特性に応じて異なる形で生じることを統一的な枠組みで明らかにする点にある。
司会:木村史彦(東北大学)
池田拓生(同志社大学大学院)・田口聡志(同志社大学)
本研究は、同一の経済実態について複数の会計基準に基づく財務諸表を同時に開示する「多重開示」(Multi-Standard Disclosure)が、投資家の投資判断や認知負荷、開示企業に対する信頼にどのような影響を及ぼすかを検証する。先行研究は、情報内容のみならず、その提示形式や情報統合のされ方が投資家判断に影響を及ぼすことを示している。これに対し本研究は、国際会計基準の文脈における多重開示を、企業が追加的コストを負担して報告品質の高さを示す costly signal としての側面と、投資家に情報処理上の複雑性と認知負荷コストを生じさせる側面とのトレードオフ問題として捉える。投資家実験により、単一基準開示と多重開示を比較し、信頼の上昇と複雑性コストのいずれが投資判断を規定するかを検証することで、本研究は、多重開示の経済的帰結と投資家の判断メカニズムの理解に一定の示唆を与える。
小島早都子(日本銀行金融研究所)・高須悠介(一橋大学)・寺田泰典(日本銀行金融研究所)
本研究の目的は、日本企業におけるNon-GAAP利益開示の動機メカニズムを、IFRSと日本基準という会計基準の違いに着目して実証的に検証することである。先行研究において指摘されてきた、情報提供動機、機会主義的動機および制度理論に基づく同調行動の3つの仮説を設定し、TOPIX500採用銘柄企業のデータを用いて開示の有無に関するロジットモデルを推計した。その結果、日本企業全体として情報提供動機が主要な要因であること、その他2つは補助的な動機であることが示唆された。特に、日本基準適用企業では、IFRS採用企業の増加に伴う比較可能性の低下が、Non-GAAP利益の開示を促していることが有意に観察された。本研究の結果は、異なる会計基準が併存する日本において、Non-GAAP利益開示が、会計基準の違いに起因する比較可能性の低下を補完するための情報補完手段として機能している可能性を示唆している。
データベース協議会 12:20〜13:00(102教室)
統一論題「のれん会計の再検討」 13:15〜17:00(121教室)
座長:浅見裕子(名古屋大学)
パネリスト:鶯地隆継(青山学院大学) 武田史子(慶應義塾大学)
福井義高(青山学院大学) 三井千絵(野村総合研究所)