ご挨拶

生体内に含まれる金属・半金属元素(生命金属)は、酵素活性や電子伝達の中心、シグナル伝達、生体分子の構造形成など、生命現象を実現・維持するために必須の機能を担っており、その微妙なバランスの乱れ疾病につながること知られています。よって、生命金属が制御する現象・機能を理解するためには、原子・分子のレベルから細胞や個体のレベルに至るまで、さまざまな視点からのアプローチが求められます。化学・蛋白質科学・細胞生物学といった基礎科学に従事する研究者、さまざまな機器分析を専門にする研究者、そして、医学・薬学・農学などの応用的側面を持った学問分野を担う研究者など、異分野間での協働的な取り組みによって初めて、生命金属に関する研究の魅力が最大限に引き出されると考えられます。

そこで、微量ながらも生体に不可欠な生命金属の役割を多角的に理解することを目的として、「生命金属科学シンポジウム」が2022年より始められました。異分野間での研究交流促進という目的も踏まえて、第3回となる今回は、2件の特別講演と8件程度の口頭発表のほか、「生体分子科学討論会」との連続開催とすることで、金属元素も含めた様々な生体分子が織りなす生命現象を討論する機会にしたいと考えております。また、ポスター発表や懇親会については、生体分子科学討論会との合同開催とすることで、研究交流の促進を図ります。

生体分子科学討論会は、49回にわたる開催の伝統の中で、生体内で繰り広げられる生命現象や生理的な機能発現について、生体分子の立体構造、電子構造、相互作用、反応挙動などの観点から深く考察し、化学と物理の言葉で議論する貴重な場を提供してきました。特に、タンパク質・酵素、核酸、脂質、糖、補因子といった生体を構成する化合物について、それらの構造と動的挙動が原子・分子レベルで活発な議論がなされています。

これまでに生体分子科学討論会には馴染みのなかった研究者や、初めて生命金属科学シンポジウムを知る研究者など、さまざまな視点が加わることで、既存の枠組みを超えた研究成果が生み出される可能性が期待されます。今回の連続開催が双方の研究コミュニティにとって有益な交流の場となり、それぞれの分野に基づく新たな研究分野を構築するきっかけになれば幸いです。

第50回生体分子科学討論会・第3回生命金属科学シンポジウム実行委員会

世話人代表 古川 良明(慶應義塾大学理工学部 教授)