#on view / kanzan gallery

篠田優|Fragments of the place 2017-2019

2024.4.13 Sat - 5.12. Sun

EVENT|5月3日[金]7-8PM|映像作品『Marginalia』上映会

予約不要/入場無料(*6:30PMより会場設営を行います)

   本展覧会「Fragments of the place 2017-2019」を構成する写真は長野県信濃美術館を被写体としています。写真家の篠田優は2017年に開催された同館のクロージング展「長野県信濃美術館クロージング ネオヴィジョン 新たな広がり」に招聘されてから、2019年に同建築が解体されるその時まで撮影を続けました。

   長野県信濃美術館は1966年に開館して以来、特徴的なファサードを持つ美術館として、善光寺の至近に建つその立地も相まって、人々に長く親しまれてきました。そうした場所の終わりに際して篠田が注目したのは、屋根や窓、暖房器具、展示室に置かれた椅子といったものでした。

   それらは美術館を長年にわたって支えながらも、その解体に際しては特に注目されることがなかったといっても過言ではありません。そうしたものたちの姿を可能な限り覚えておくために写真を撮ったのだと、篠田は言葉にしています。解体を経たのちも残り続けるそれらのイメージは、ある時のある場所において確かに存在していたものたちとの、篠田にとっては何ものにも代えがたい、交感の記録なのです。


-


本展覧会に並ぶ写真は長野県信濃美術館とその周囲で撮影した。いまはもう美術館は取り壊され、辺りの様子も随分と変わった。

わたしがはじめてその場所を撮影したのは2017年だった。そのとき、美術館の行く末はすでに決まっており、そのことがわたしに同建築へとレンズを向けさせた。

しかし、わたしは建物の姿をただ単に偉大で、美しいフォルムとして記録しておきたかったわけではない。むしろ、心がしずかに惹きつけられたのは、その表面に風雪の去来を刻印した屋根や壁の様子だった。そして、そこに訪れた人々の身体を間接的なかたちで示すような、窓や椅子の姿だった。前者について、それが破砕され、あかるい灰白色の破片になる過程を、2018年から2019年にかけて、わたしは見ることになった。また、ある春の日、正午の光がつくる木陰の下、そこにあつめて置かれたロッカーや机などを見たことがある。それらには廃棄の印を押した紙が貼られていた。そのようにして役目を終えていったものたちのなかには、あの椅子もまた含まれていたのだろうか。

それほど多くの枚数を撮影したわけではない。むしろ、少ないともいえるだろう。しかし、その一枚一枚はわたしにとって賜物である。もし美術館の歴史が公的なかたちで記されるとしても、わたしが撮影したようなものたちは、そこに場所を得ないかもしれない。たとえ記されるとしても、おそらくそこは欄外や余白においてであろう。撮影をしながら思った、わたしもまたそのようにして在るのだろうと。そうしたものたちの姿がいまここに残されている。喜ばしいことだ。

篠田優



The photographs here were taken in and around the Nagano Prefectural Shinano Art Museum. The museum has since been demolished, and its surroundings have changed significantly.

I first photographed this place in 2017, when the demolition of the museum had already been decided, and this led me to focus my lens on the architecture.

However, documenting the building just as a great, beautiful form was not my intention. What gently drew my heart instead was how the roof and walls bore the marks of time on their surfaces, showcasing their long endurance, and how the windows and chairs hinted at past visitors' presence. 2018 and 2019 were the years I encountered the roof and walls, crumbling into bright grayish pieces. I also remember a spring day, where some lockers and chairs were gathered beneath the midday shade of a tree, each labeled “discard.” Among that equipment with its role done, were the chairs I photographed also there?

I took only a small number of photographs, and yet each of them is a gift to me. If an official documentation of the museum’s history were to be made, the ones I captured might not find a place in it, or would probably only be in the margins, if at all. As I photographed, a thought was in my head: that is how I also am. Here are the portraits of the fragments of the place. I am glad that we can still see them today.

英訳:髙島友希乃



-


会場にて写真集『Fragments of the place 2017-2019』を販売しております。

ぜひお手に取ってご覧ください。

写真集│Fragments of the place 2017-2019│篠田優

寄稿:松井正、篠田優

協力:長野県立美術館(旧長野県信濃美術館)

翻訳:パメラ・ミキ、髙島友希乃

校閲:宇田川賢人 

装丁:岡田和奈佳 

印刷・製本: ​八紘美術

発行:喫水線

定価:7,000円(税込) 

発行部数:300部限定 

発行日:2024年4月11日 

仕様:200mm×290mm、ハードカバー、コデックス製本

184ページ


-


Artist Profile


篠田 優

1986 長野県出身

現在 神奈川県在住


〔Statement〕

篠田優は写真やヴィデオを主なメディウムとして使用し、「記録」の実践と再考をテーマとして制作をおこなっている。それは、今まさに目の前から消えつつあるものに対する率直な応答であるとともに、そのような行為と不可分にある恣意性や限界、そしてそのことから陰画的に示されるはずの可能性を問うという、ポリフォニックな実践として遂行されている。


〔Solo Exhibition〕

2024.03 Fragments of the place 2017-2019 , photographers' gallery(東京)

2023.10 Medium , NADiff a/p/a/r/t(東京)

2023.08 Long long, ago , photographers' gallery(東京)

2023.03 松代・風景 , サードディストリクトギャラリー(東京)

2022.01 on the record | 海をめぐって, Alt_Medium(東京)

2021.05 有用な建築, 表参道画廊(東京)

2021.02 ひとりでいるときのあなたを見てみたい, Alt_Medium(東京)

2020.07 抵抗の光学, リコーイメージングスクエア東京(東京)

2020.07 on the record|建築とその周囲, Alt_Medium(東京)

2020.01 Wakes, 表参道画廊(東京)

2019.10 Wakes, ととら堂(神奈川)

2019.02 text, Alt_Medium(東京)

2018.06 航跡図, Alt_Medium(東京)

2018.02 Voice(s), からこる坐(長野)

2017.11 See/Sea,大阪ニコンサロン(大阪)

2017.10 See/Sea,銀座ニコンサロン(東京)

2017.06 ひとりでいるときのあなたを見てみたい, Alt_Medium(東京)

2017.01 写真へのメモランダム, Alt_Medium(東京)

2016.08 Medium, trace(京都)

2016.03 Medium, ビルドスペース(宮城)

2015.10 Medium (six or forty photographs), 平間写真館TOKYO(東京)


〔Selected group exhibition〕

2023.01 paper company Book Exhibition Vol.1, 金柑画廊(東京) 

2022.12 朔太郎と歩く, Gallery ZERO(神奈川)

2021.07 from Intimate Path, ART369space(栃木)

2020.02 Imshow, Alt_Medium(東京)

2017.09 信濃美術館クロージング ネオヴィジョン新たな広がり,長野県信濃美術館(長野)

2016.08 (PERSONAL)DOCUMENTS PROJECT,Gallery Sijac(韓国)


〔Award〕

2013.09 塩竈フォトフェスティバル写真賞 大賞

2013.03 東京工芸大学写真学科賞

2012.12 EINSTEIN PHOTO COMPETITION X2 岩渕 貞哉賞


〔Grant〕

2023 公益財団法人小笠原敏晶記念財団「2023年 調査・研究等への助成」採択

2021 日本美術家連盟「美術家のための支援事業」入選


〔Publication〕

2024『Fragments of the place 2017-2019』(喫水線)

2023『循環』(私家版、林朋奈と共著)

2021『ひとりでいるときのあなたを見てみたい』(paper company)

2020『二つの半島に関するメモランダム(2015-2020)』(sign and room)

2015『Medium』(塩竈フォトフェスティバル)


-


#on view / Kanzan galleryは、写真と映像に携わる若手アーティストを「展示」という形で支援してきたKanzan galleryの新しいプログラムです。写真集の発行記念展や巡回展、または展示の実験の場として、写真家が主導する展示企画をサポートします。当展は、第10回目となります。


copyright: 篠田優

copyright: 篠田優

copyright: 篠田優

copyright: 篠田優