地震分野の課題

「地震観測データからの地震波検測」

A. はじめに

地震分野においても深層学習が導入が積極的に進められており、特に地震観測点で得られる地震波形データからP波やS波を検出し、それらの到来時刻を高精度に決定する「地震波検測」において、大いに威力を発揮しています。

これまでに様々な地震波検測のための深層学習モデルが提案されており、世界的に定評を得ているモデルとしては、以下のものが挙げられます。

(1) Generalized Phase Detection (GPD)

https://github.com/interseismic/generalized-phase-detection

(2) PhaseNet

https://github.com/AI4EPS/PhaseNet

(3) EQTransformer

https://github.com/smousavi05/EQTransformer

しかしながら、これらのモデルの学習段階においては、日本の地震波形データを使用していません。これらのモデルを日本の地震波形データにそのまま適用しても地震波検測は概ね上手くできますが、地域によって地下の構造が異なるため地震波の形には違いが出ます。この違いは、モデルの推論に影響を与えることになります。


本コンペでは、こちらが提供する日本の地震波形データからP波・S波を高精度に検測する手法を開発して頂くことが目標となります。

B. 地震波形データ

本コンペで使用する地震波形データは、以下のGoogleドライブのDataフォルダに格納されています。

https://drive.google.com/drive/folders/1Pjf819w8K0M5Ps8DinNjsaSTaYgSuyZZ?usp=sharing

地震波形データは、首都圏地震観測網(MeSO-net)で得られたもののうち、東京大学地震研究所から公開されている手法検証用の「首都圏観測地震波形データセット」の一部です。

参考:https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/iSeisBayes/dataset/

MeSO-netの13観測点において、2011年9月4日〜16日に観測された地震に関するデータです。


Dataフォルダの下には、以下のフォルダとファイルが置かれています。

発生した各地震の波形データがWIN形式というバイナリフォーマットで格納されています。地震発生時刻(年月日.時分秒)がファイル名となっています。各ファイルには、13観測点で得られた3成分(南北・東西・上下動成分)の200Hzサンプリング(1秒間に200回計測)データが含まれています。

東京大学地震研究所において検測されたP波・S波の情報(pickファイル)です。これが今回の「教師ラベル」となります。

各観測点に関する情報が記載されたチャネルテーブルです。

C. サンプルプログラム

上記の地震波形データとpickファイルを読み出し、自己回帰(AR)モデルを用いた検測(注:深層学習モデルではなく、統計モデルによる検測手法です)との比較を行うサンプルプログラム(JpGU-JSAI_Competition_Seismology.ipynb)が、以下のGoogleドライブにあります。Google colaboratoryで動作可能です。

https://drive.google.com/drive/folders/1Pjf819w8K0M5Ps8DinNjsaSTaYgSuyZZ?usp=sharing

例えば、2011年9月10日15時00分35秒に発生した地震(M4.8)が発生した際のある観測点で得られた波形に対して適用すると、以下のような結果が得られます。赤線・青線がそれぞれP波・S波、実線・点線がそれぞれARモデル・pickファイルに基づく地震波到来時刻を示します。

P波・S波の到来時刻の推定値の違いは、それぞれ0.04秒・0.81秒となっており、特にS波において大きく結果が異なっています。MeSO-netにおけるサンプリングが200Hzで実施されていることを考えると、P波・S波とももっと高精度な推定が求められます。

D. 評価関数と本コンペの目標

与えられた地震波形データに含まれるP波・S波の到来時刻を推定し、以下のようにpickファイルに記載されたものとの残差二乗和を最小にする手法を開発することが、本コンペの目標となります。