男女共同参画推進委員会企画ランチョンセミナー
9月24日(木)12:15~13:15 第3会場(C棟・GC1大講義室)
「小柄な手が切り拓く若齢牛OPU〜技術革新と女性獣医師の可能性」
石井 一功
(株式会社よくつく 代表取締役 博士(獣医学))
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技術の進歩によって得られる利益を生産者が公平に享受するためには、それを現場で提供できる獣医師や技術者が必要である。私自身、若い頃にProduction Medicineと出会い、繁殖検診、超音波診断、胚移植、そしてOPU-IVFへと、新しい繁殖技術を現場に導入してきた。
牛の繁殖技術は、自然交配から人工授精、体内胚移植、さらに体外受精卵移植へと発展してきた。OPU-IVFでは、生体から繰り返し卵子を採取でき、妊娠牛や若齢牛からも採卵できるため、優良遺伝子を短期間で増やすことが可能になる。ゲノム選抜と組み合わせることで、牛群改良の世代間隔をさらに短縮できる。現在、世界の牛胚生産においても体外胚の比率は大きく増加している。
その延長線上にあるのが、JIVET(若齢牛からの体外胚作成)である。牛群の中で最も遺伝的改良が進んでいるのは、より若い世代の子牛である。腹腔鏡を用いたL-OPUでは、吸入麻酔、大がかりな保定が必要で、生産現場への導入には制約が大きい。ここで着目したのが、女性獣医師の小柄な体格と細い腕である。現在弊社では、3~6か月齢の子牛に対し、小柄な体格を生かした腹腔鏡を用いない立位保定での経腟OPUに取り組んでいる。新しい技術が、弱みと思われていた特性を強みに変えたと言える。これまでの成績では、1回当たりの回収卵子数17.8個、胚盤胞数7.4個、胚盤胞発生率35.4%、移植後受胎率36.1%であった。一方、若齢個体でのOPUに対し違和感を覚える方もいるかも知れない。動物福祉、疼痛管理、術者の熟練、実施頻度、適応個体の選別を常に考慮する必要がある。JIVETは利益追求のための便利な技術ではなく、動物の生命と福祉に責任を負う専門的な繁殖技術として扱うべきである。
IVPは獣医師一人では成立しない。卵子の観察、精液性状の確認、培養条件、培養器、資材、輸送、記録、改善を担う胚培養士の存在が不可欠である。IVPは、繁殖生理学の知見を現場の成果に変える社会実装の仕事である。高い技術を維持し発展させるには、人が長く専門性を発揮できる職場が必要である。長時間労働を前提とした従来の成功モデルを温存したまま女性の参画を求めても、持続可能な組織にはならない。男女を問わず、育児や介護と仕事を両立できる環境を整えることは、手厚い福利厚生というだけではなく、熟練技術を蓄積し、維持し、次世代へ継承するための経営戦略である。人を生かす職場づくりこそが、技術を生かし、最終的には生産者と畜産を支えることにつながる。