[1] 軌道磁性とトポロジカル物質
Soshun Ozaki and Masao Ogata,
"Universal quantization of magnetic susceptibility jump at a topological phase transition," Physical Review Research 3, 013058 (2021).
磁気応答にはスピンの効果、軌道の効果、そしてそれらのクロスターム(つまり、スピンが磁場を感じて軌道磁化が発生する、あるいはその逆。以下ではOrbital-Zeeman (OZ)項と呼びます。OzakiのOZではありません!)があります。量子スピンホール絶縁体においてこのOZ項が、そのトポロジカル数を反映して離散的な値を取ることが先行研究で知られていました[Murakami 2006, Nakai-Nomura 2016]。我々は、スピン軌道相互作用(SOI)を含む無限個のバンドを持つ系を考え、そこに磁場を摂動として導入することでこのOZ項の一般表式を得ました。SOIがスピンを保存するという仮定の下、OZ項の一般表式をブロッホ波動関数を使って展開していくと、(スピンs_z)×(ベリー曲率)という形が現れ、k積分を行うと各バンドのスピンチャーン数の和で表されます。さらに、その係数は物理定数だけで書かれる、普遍的な結果であることがわかりました。(一般に、有限バンド系を考える場合にはg因子のくりこみが起こるため、この普遍的な値からずれるように一見思えます。しかし今の場合は無限バンド系を考えているので自然にその効果は取り込まれており、そのうえでg因子のくりこみの効果はキャンセルされて、普遍定数に行きつきます。)我々が得たOZ項の一般公式はスピンを保存しないケースでも使えるので、Rashba系などへの応用も興味深いです。
S. Ozaki and M. Ogata,
"Topological contribution to magnetism in the Kane-Mele model: An explicit wave function approach," Phys. Rev. B 107, 085201 (2023).
論文1. の発展です。Kane-Mele型のスピンホール絶縁体に対して具体的なpz軌道の波動関数を用いて、スピン帯磁率、軌道帯磁率、そしてOZ項を計算しました。無摂動波動関数として2pz軌道を用いていますが、完全性関係式を用いることでバンド間効果は上のエネルギーのバンド(3s, 3p, ...)をすべて取り入れる計算を行っているため、磁場による波動関数の変形やホッピングの変調まで取り入れることができる正確なformalism になりました。この計算でもやはりOZ項は量子化されることが示されます。一方で、軌道帯磁率についてもトポロジカル数を反映した小さなとびが起こることがわかりました。OZ項のとびの大きさは普遍定数で決まる一方、軌道帯磁率のとびはスピン軌道相互作用の大きさで決まります。
S. Ozaki, I. Tateishi, H. Matsuura, M. Ogata, and K. Hiraki,
"Nodal line semimetal HMTSF-TCNQ: Anomalous orbital diamagnetism and charge density wave," Physical Review B, 104, 155202 (2021).
有機ノーダルライン半金属HMTSF-TCNQにおいて見つかっていた強い軌道反磁性とその異常な温度依存性の由来が長らく謎でした。まずはこの物質を理解するために、著者たちは第一原理計算に基づき、分子軌道を局在軌道とみなした強束縛模型を構築しました。さらに、フェルミ面の解析の結果をもとに、実験で見出されている電荷密度波(CDW)を考慮した模型を作りました。得られた模型に軌道帯磁率の一般表式である福山公式を適用し実験と比較を行いました。その結果、軌道反磁性はディラック電子に由来し、異常な温度依存性はCDWによるノーダルラインの変形によるものであることが明らかになりました。得られた帯磁率の結果は開教授が実験的に得たものと定量的に一致しています。
[2] 量子ダイナミクス、開放系の量子力学
Soshun Ozaki and Hiromichi Nakazato,
"Analytic approach to dynamics of the resonant and off-resonant Jaynes-Cummings systems with cavity losses," Physical Review A, 103, 053713 (2021).
キャビティ(共振器)は強い原子-光子相互作用を調べるプラットフォームであり、典型的には二準位原子と光子からなるJaynes-Cummings系により記述されます。実験的にはキャビティにおける光子の漏れを定式化することが必要であり、この解析には簡単化された量子マスター方程式がよく用いられてきました。ただし、この簡単化の物理的意味やその近似の程度は明らかではありませんでした。我々はJaynes-Cummings 模型の厳密解を用いることで、この簡単化を回避して量子マスター方程式を導出することに成功した。detuning=0 という条件(共鳴条件)のもとでの系の時間発展を陽に書き下すことができました。さらに、一般の場合についても系統的な近似法および数値計算手法を開発し、簡単化されたマスター方程式が正当化される条件を見出しました。