ハピークレイジーは「セルフケアの会」として進化系自助会を提供しています。
・自分でできる / 低コスト / 身体からのアプローチによる非侵襲的トラウマセラピー
・その効果による互いの変容を見届け合うコミュニティ(進化系自助会)の創出
この二つの柱によるメソッドを「ハピークレイジー」と名付け、ラジオ体操のように誰でも手軽にトラウマセラピーにアクセスできる環境を作ることを目指しています。
このメソッドでは日々の積み重ねが非常に重要であるので、モチベーション維持システムとして進化系自助会「セルフケアの会」があります。
このメソッドは非常に手軽なのですが、単なる気分転換ではなく、PTG(心的外傷後成長:辛く困難な体験で強いストレスを受けた後に、困難の経験をする以前よりも心身強く、安定した状態に至ること。単なる「回復」ではない。)まで射程に入ります。
以下では「ハピークレイジー」について説明します。
このメソッドのベースになった五十嵐の体験は本としてまとめてあります。
セルフケアの会では、参加者全員が来た時よりも帰るときに元気になっていることを目指します。そのため、参加者同士の元気をそぐ行動は控えるようにお願いしています。
困難についてはお互いに語らずとも理解し合えるという前提で、困難は語らず、自分の変化や発見を共有する場として開催しています。互いの困難を聞き共感することによる代理トラウマ(vicarious trauma)を避けるためです。代理トラウマはトラウマを持っている人ほどなりやすいと言われますし、特に、自助会では自分と同じような境遇での困難が語られるので危険度は高いと考えます。五十嵐が進化系自助会を始めた理由の一つに、支え合いはしたいけれども、困難を語り合う・聞き合うのはやめたいと思ったことが挙げられます。
世に多くある自助会では「言いっぱなし、聞きっぱなし」というルールがありますが、ハピークレイジーのセルフケアの会ではコメントや会話は大歓迎です。ただし、「私はこう思う」「私はこうしたことがある」という形で発言すること、「あなたは間違っている!」等の発言はNGであることを参加者の共通認識にしておきます。
対極のように感じられるかもしれませんが、気力が落ちてしまって、変化や発見を語ることができない時にも可能ならば会に来ることを大歓迎しています。遅刻しようが早退しようが全く問題ありません。会話やセルフケアに加わる必要すらありません。ヨレヨレな状態であっても社会と繋がっているということを確認していただきたい。他の参加者は、気力が落ちている時に会場に来ることの難しさをよく理解しているはずで、そのようなチャレンジを目撃することを通して勇気をもらえるはずです。気力が落ちていても会場まで来ることができたことは、本人にとってももちろん勇気になるでしょうし、自分がその場に「在る」こと(=何かを「する」ことではなく!)が他者をエンパワメントできると知ることは、本人の力となるはずです。
ハピークレイジーでは、DOではなくBEを大切にしたい。何ができるから/何をするから、尊重する/されるのではなく、在ること・存在することによって尊重されたり他者を励ましたりしたい。最終的には自分が存在することを自信の源にすることを目標としています。
1回のセルフケアの会は約2時間、2部構成になっています。(2025年3月現在)
前半:前回の参加から今回までの間にご自身で行ったセルフケアや、それによる身体の変化を思い出して書き出してもらいます。基本的には身体の変化についてですが、そのうち、出来事や人間関係の変化も含まれるようになります。書き出したものは誰に見せるわけでもないので安心して書いてもらいます。トラウマ症状に苦しんでいると日々の区切れが失われ、自分の行動や達成した事柄がわからなくなり、焦燥感や自己無価値観が強くなってしまいます。自分の行動や変化を文字化して自分で確認することで、これらを軽減できます。
書き出した後、その中から一つだけ「これは自慢できる」「これは聞いてほしい」と思うことを話してもらいます。話してもらった後で、参加者がコメントし合います。例えば、肩の凝りが和らいで気分が変わったなどの報告があったときに、他の方から「さっき部屋に入ってきたとき、なんだか前回よりも元気そうだなと思ったの!」とコメントがあれば、発表者は嬉しいですし、数十年何をやっても変わることができなかった参加者たち(数十年困ってきた方々が多い)は、似た境遇の方の変化を目撃することで、希望を見出すことになります。
後半:セルフケアをします。方針は普段入れることのない刺激をさまざま身体に入れることです。二人組になってごく穏やかなマッサージをし合うと、身体と心が緩み涙を流す人もいます。(辛い涙ではありません。)
一人でできるマッサージや呼吸法や脱力法などを紹介し、ご自身で気に入ったものを持ち帰っていただき、次の会の日まで可能な限り毎日続け、身体の中の観察をし変化をキャッチするスキルを上げていきます。
どのセルフケアを選ぶかは自分で決めてもらいます。自律が大切だからです。
同じ理由で、呼吸法であろうが、緩いストレッチであろうが、カウントすることも、何回やってくださいということもありません。各人、自分の身体の声に耳を傾け、自分のペースで自分の身体が心地よいと感じるだけ行ってもらいます。「もっとやりたい」「いまはやりたくない」などの身体の声をキャッチできるようになり、それを尊重する練習でもあるからです。
セルフケアの会で気に入ったケアを持ち帰って、日々行ってもらいます。その際に、身体の声に耳をかたむけ、身体の中で起こっていることを解像度高く、好奇心をもって観察して、発見を繰り返してもらいます。この観察はトラウマ症状の一つでもある不活性になっている前頭前野を活性化させてくれます。
例えば、股関節が痛い・回すとカクカク音がする方が、毎日股関節を回すケアを続けるとします。すると、毎日同じことを行っていても、数日目には少し回しやすく感じたりするかもしれません。日々観察を続けていると、変化をキャッチするスキルが上がっていき、さらに小さな変化をキャッチできるようになっていきます。この観察・発見スキルが非常に重要であると感じます。
トラウマ症状にある方は、自分がどのように生きていきたいのか、現在置かれている環境に居続けたいのか、など自分の意向がわからなくなっていることが多々あります。また、身体が頭痛・腰痛・鬱・無気力・免疫力低下などを通して「今いる環境は危険です」などメッセージを出してくれていても、それをキャッチできなくなっています。
セルフケアを通して、身体内外の観察スキルを上げていくと、体内、体表面、体表面の1センチ外側、30センチ外側、1メートル外側、20メートル外側…のように、次第に把握できる範囲が広くなり、徐々に外界に対してどうレスポンスしたいのか、自分がどう在りたいのかがわかるようになってきます。この中には、いま自分の緊張が高まってしまっているのが、怒っているのか、我慢し過ぎているのか、鬱方向に向かっているのか、などが冷静にわかるようになることも含まれ、それに対処することもできるようになります。
セルフケアを通した身体観察のもう一つの大きな効果として、自己の身体の再発見が挙げられます。トラウマ症状のひとつに身体感覚の希薄さが挙げられますが、自己の身体の観察をつづけることで、次第に理性(自我としての私)と「私」が属している身体を別のものとして捉えられるようになり、身体が「私」の所有物ではなく、別個の知を持っていること、理性のコントロールと物理的(身体的)コントロールがそれぞれ尊重し合い協働することで全体性としての私が健やかでいられることが理解できるようになります。
ここで「身体の声をきく」ことの重要性がさらに強まるのですが、「私」が理性をもとに選択しようとしていることに対して身体がNOと言っているならそれを尊重しよう、という意識を持てるようになります。少なくとも身体と相談・交渉をしながら選び取っていけるようになります。
これは取りも直さず、自分の全体性を大切にすることです。どんなに強い役割期待があったとしても、「今私の身体はその行動にNOといっているので、それはしない」ということを選択することが可能になります。
夫や子などと癒着しているときに「私の身体の意見を尊重する」ことができるようになるというのは、他者と自己の境界線を引くという事でもあります。しかも、「境界線を引く」努力の結果ではなく、あくまでも身体という物理的な物に対しての選択なので、心理的葛藤が低く自然に起こるようです。(自分の経験やセルフケアの会参加者の変化を観察してそう感じています。)
ここまで至った方は、憑き物が落ちたように元気になります。月1回程度の頻度で会に参加し、早い人では1ヵ月以内に変化が現れはじめます。半年続けて変化のない方はいままで会ったことがありません。どの程度元気になるか、「もう大丈夫」と自分で言えるほど元気になるまでに要する期間はそれぞれ人に依ります。(まだデータとして出せるほど件数がありません。)
詳しくは下の項目「参加者のことばから」をご覧ください。
「ハピークレイジー」は進化系自助会であり、あくまでも自助会です。専門職としての治療者も患者もいませんので、支援する側・支援される側という上下関係はありません。場をまとめるためのファシリテーターも当事者であり、水平的関係の場を作っています。ファシリテーターも参加者も場からエンパワメントを得ています。
ファシリテーターの役割は4つです。
1.前半におこなう最近の自分の変化や発見の発表をファシリテートする
2.困難について具体的に語りだす方がいたら制止する
3.後半にセルフケアを何種類か提案する
4.参加者の情緒を無意識的に安定させる
ファシリテーターの要件は3点です。
5.(理想的には)扱う困難の当事者である
6.PTGまで到達している(成長はあくまでも現在進行形なので、ゴール地点ではない)
7.日々セルフケアを行い調っている
専門職や指導者ではありませんが、セルフケアの会でのファシリテーターの役割は重要です。
上の項目のなかで、
4.参加者の情緒を無意識的に安定させる
と、その前提として
7.日々セルフケアを行い調っていること
が非常に重要です。ファシリテーターは無言・無意識のうちに「安心・安全」を体現する必要があります。これはスキルというより在り方に関わるので、日々セルフケアを行い調っていることが何よりも大切になります。
2024年9月から2025年2月まで神戸市助成金採択事業として開催したセルフケアの会に継続的に出席したのは4名、うち1名はPTG(心的外傷後成長:辛く困難な体験で強いストレスを受けた後に、困難の経験をする以前よりも心身強く、安定した状態に至ること。単なる「回復」ではない。)ではないかと思うほど元気になった。
彼女は第1回目の参加時に呼吸法を持ち帰り続けたところ、知覚が変わるような身体的な経験をし、一か月後の参加時には
「〇月×日を境に私は別人になりました」と発言。
参加を決めた理由は「(五十嵐にコンタクトしたときは)非常に状況が悪く藁にもすがるような感じで始めた」とのことだが、最終日には
「元気になった。自分にとって元気になるというのは、一人の時間が楽しめるようになること。人がいても、いなくても、楽しいこと。」
「以前は仕事から家に帰るのが嫌でしょうがなかった。駐車場で休んでから帰っていた。いまは家に帰りたいと思えるようになった。」
「身体と向き合うというというのがどういうことかわからなかったのだが、いまはわかるようになった。」
「自分が変わったら家族が変わった。」
と発言。彼女はセルフケアの会に来なくてもあとは自分でケアしていけるほどの自信がついたそうだ。
他の3名も状況が大幅に改善。1名はリウマチで固まっていた身体がやわらかくなり始めており、自己の身体への信頼度が上がってきていて、同時に、夫との不快なエピソードがあっても自分の中で処理する力が育ってきている。1名は、五十嵐が開催している月一回の居場所にもほぼ毎回参加してくれており、開始から2か月目に数十年ぶりのアルバイトを始めた。もう1名は遠隔の地方都市からzoomで参加を続けており、最終日に次のような発言があった。
「はじめはセルフケアというものが何なのか分からなかったが、今はセルフケアをすることの心地よさがわかった。すごく身体から楽になってきている。どんどん動きたくなっている。子のことと主人のことが頭から抜け落ちた(=家族と自分の切り分けができるようになった)。(人生の困難に対して)全部やってきたわけではないけど、やりつくしたというか、十分できた気がしている。次はどんなことをしようか考え始めている。」ついでながら彼女の困難は40年ほど続いてきた。
最後に、参加を検討中の方からの「セルフケアの会ではどんなことをするんですか」という質問に対する参加者の回答をご紹介します。
「…ほんとに、ゆるい運動のようなことをするだけで…それで五十嵐さんは――」とここで言葉に詰まりました。五十嵐が続けます。「特に何するわけでもないんですよね笑」。「そう!そうなんです。特に何を教わったわけでもなくて。でもなんだかアゲてもらえたんです。」五十嵐、嬉しくてクック笑います。そうです。私は特に何もしていないんです。彼女が続けます「ほんとに、なんだかよくわからないんですけど、『身体に向き合う』だけで…その言葉はもともと知っていましたけど、ちゃんとわかるようになったというか…そうしたら不思議なことが起こって。」
ハピークレイジーは治療でも指導でもありません。困難の中にある方が自律を取り戻しその先へ飛翔するのを見届けます。
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