研究内容

自発的に配向する極性有機分子を利用した電子機械デバイスの開発

 有機発光ダイオード(Organic light-emitting diodes (OLEDs))には多く種類の極性分子が使用されています.これら極性有機分子を暗状態の真空中で成膜すると,その薄膜の表面電位が膜厚に比例して増加し,一切荷電処理等を行わずとも数百ナノメートルで数十ボルトもの電位が発生します.この巨大な表面電位(Giant surface potential, GSP)は極性有機分子の永久双極子が,基板法線方向にわずかに配向することによって発生しています.この自発的な配向分極(Spontaneous orientation polarization (SOP))により,薄膜の表面と裏面には分極電荷が形成されています.

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 我々の研究グループでは,自発配向する極性分子からなる薄膜をエレクトレット[1]として利用することで,世界で初めて荷電処理が一切不要な振動発電素子(Vibrational energy generators (VEGs))を実現しました.またこの結果は極性分子薄膜が荷電処理が不要な自己組織化型のエレクトレット(Self-assembled electret (SAE))として機能していることを示しています.

 現在ではSAE-VEGの動作機構の解明や高性能化に関する研究を行いながら,実用化を目指して開発を進めています.またエレクトレットはセンサやマイクロフォン,静電フィルタにも使用されています.そこでSAE-VEGの研究・開発に加えて,SAEの種々のエレクトレットデバイスへの応用に関する研究も進めています.


[1]エレクトレット:半永久的に電荷,もしくは電気分極を持つ絶縁体.絶縁体に荷電処理を行うことで作製することができる.


プレスリリース

変位電流評価法による有機半導体デバイスの動作機構の解明

 変位電流評価法(Diplacement current measurement (DCM))は,素子に三角波電圧を印加し,その応答電流を測定する電気測定法の一種です.流れる電流はIdQ/dtですから,定常状態ではI = CdV/dtと静電容量Cに比例した電流が流れます(Qは電荷量,Vは印加電圧).電流波形を解析することで,デバイス内の電荷の挙動を調べることができます.例えばOLEDにDCMを適用すると,電極から正孔輸送層へのホール注入過程,正孔輸送層/電子輸送層界面でのホールの蓄積している様子などがよくわかります.

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 素子の動作機構を完全に解明することを目的として,OLEDや有機電界効果トランジスタ(Organic field-effect transistors (OFETs)有機太陽電池(Organic photovoltaics (OPVs))といった有機半導体デバイスにDCMを適用して研究を進めています.特にSOPによって発生した分極電荷が,種々の有機半導体デバイスの性能に与える影響について調べています.

新しい電気測定法の開発と有機半導体デバイスへの展開

 DCMと類似した手法に,インピーダンス分光測定(Impedance spectroscopy (IS))という電気測定法があります.ISはデバイスのインピーダンスを定量的に得ることができるため,有機半導体デバイスの動作機構を調べるために広く用いられています.ISでは直流電圧に微小な交流電流を重畳した電圧を素子に印加し,印加電圧と応答電流の交流成分の振幅比と位相差からインピーダンスを算出します.このように通常は直流電圧を印加しながら測定が行われるため,DCMのようにデバイス内の動的な電荷の挙動の評価には適した手法とは言えません.一方DCMには素子のインピーダンスを得ることができないという弱点もあります.

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 そこで我々は三角波電圧に微小な交流電圧を重畳した波形を印加するという,新しい電気測定法の開発を進めています.この評価手法により,デバイスがオフ状態からオン状態に遷移する過程のインピーダンスを抽出することに成功しています.まだこの手法は生まれたばかりです.本手法を有機半導体のモデル素子に適用しながら電荷の注入・放出過程におけるインピーダンスの評価を進めながら,この手法の構築も同時に進めています.