Building a sustainable society requires reconnecting human systems with natural ecosystems, addressing the longevity of critical infrastructure across aquatic and terrestrial environments, agriculture, urban water use, and waste management. Sediment accumulation in 10% dams has exceeded planned levels, posing potential risks to water supply, flood control, and power generation. Our research explores the agricultural application of dam sediment and the use of beneficial microorganisms from septic tank sludge treatment plants due to their high potential in sustainable agricultural practices. We are also examining the microbial impacts of treated wastewater effluents on coastal water hygiene and investigating the use of micro- and nanobubbles to reduce biofilms within water infrastructure. Additionally, we are studying the interactions between nanobubbles and chlorine disinfectants. A low-energy water purification system, aim to raise public awareness and encourage active participation in water conservation efforts.
Keywords: environmental microorganisms, dam sedimentation, compost, plant, agriculture, plant pathogens, insect pest, microbubble, nanobubble, biofilm, water pipes, water/wastewater treatment, water hygiene
水道産業新聞 2025年1月1日 掲載記事より
植物が種や実を付けたり、微生物が分裂したり、体を分けることは生息範囲を拡大するためであり、体を分けるときは生息範囲を拡大する上で多少リスクがあっても条件が整ったときである。花を咲かせることは容易ではなく、条件が整わなければいけない。1年のほとんどの期間、根を張り、枝葉を生長させ、開花のタイミングを計っている。微生物も環境中では増殖するよりは集団を形成して耐久性を高めた状態で生存する。実験室の栄養培地は分裂のための特別な条件である。
上下水道が普及してきたのも、人口増で家屋や店舗が増えて水需要があり、人や資金や資源を投入できる状況にあったからである。国や自治体は上下水道を計画的に分岐伸長させて上下水道の範囲を拡大させてきた。植物なら常に花を咲かせて実をつけ、微生物なら分裂を繰り返してきたようなものである。上水道(簡易水道、専用水道も)、下水道(浄化槽と農業集落排水施設等も)、それぞれが別々に整備を進めても、人が住む範囲内で計画的に行われることであるからアンバランスになることはなく、別々に進める方が短期的には効率が良かった。現在、日本の水道普及率は約98%、汚水処理人口普及率は約93%。国内で範囲拡大を推進するときではなくなった。人口減かつ資金減が継続していく中で、アセットマネジメントを図りつつ、現状をしっかり維持していくことが重要事項となった。
自然界の生物に似てきた。根を張り、幹を伸ばし、枝を広げた樹木に上下水道は似ている。樹木は移動することができない。しかし、光合成で自らをメンテナンスする素晴らしい能力をもつ。光合成はまさに上下水道業界に携わる人々のようである。人間活動そのものと考えることもできる。光合成で作られたデンプンは養分として篩管を通り体全体に運ばれるが、人間活動によって排出されたものが下水道を通って体全体に運ばれることと同じように考えることができる。下水道が運んでいるのは有機資源である。道管はまさしく水道であり、根から吸い上げた水や無機養分を体全体に運ぶ。道管と篩管は交わらないが、ともに必要物資を体中の細胞に運んでいる。このように植物の道管と篩管に上下水道をあてはめて考えると、過去の経緯はともかく、もはや上下水道は連動した一体のものである。社会に必須なものを運んでいるのである。
今の下水道に足りないものは、資源を社会全体に運ぶという考え方であると思う。そして今の社会に足りないものは、その資源を社会全体で利用することである。解決策の1つとして「菌体りん酸肥料」の普及が望まれる。登録する自治体が増えている。ほんの70年前までは、し尿は有価物として農地還元されていたのである。さかのぼると鎌倉時代から本格的に行われていた。「菌体りん酸肥料」のような下水汚泥由来の肥料は化学肥料の窒素・りんと比較されるが、肥料価格の高騰が追い風となるも、農業従事者が利用して、その農作物を消費者が受け入れていくにはまだインセンティブが低いと思われる。
従来のし尿中の肥料成分には窒素、リン、カリウム、マグネシウムのほか、様々な微量のミネラルも含まれる。下水道はこれらの資源を運び、農地に還元し、そして農地から作物として都市へ、都市から再び下水道が運ぶ。ただし、下水道が運ぶのは肥料成分だけではない。微生物もである。下水道が運び、集められ、農地還元される微生物が作物の生育に有効に働くのである。農地還元された微生物が土壌伝染性の病害を防いだり、植物に対しての肥料効果を高めたり、気候の変化に対する植物の抵抗性を高める可能性がある。おそらくこれまでし尿が農地還元されてきた間、そのような効果があったと考えられる。下水道(浄化槽、農業集落排水施設等)が集める微生物が化学肥料にはない効果を発揮すること、発揮するように開発することが、今の人間社会に足りない部分を繋ぐことになる。
河川行政は流域治水の考え方にシフトしている。河川区域のみならず、流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方である。当然、河川行政はダムおよび上中下流河川を水源とする水道事業、下水道事業、農業、水産業とも関係するため、これらとの連携も重要である。上下水道の一体化は河川行政との連携も視野に入れると必然性が増す。流域治水に倣い、上下水道も地域間の関係性やしがらみを超え、流域での一体化を強く推進していかなければ、上下水道という樹木のあちこちの枝に病徴が出現し、それらは修復できない枝になってしまうかもしれない。しかし、流域で一体となった上下水道は農業や水産業と連携していくことができる。
精製された炭水化物(精白米、白小麦粉、白砂糖)はビタミンが取り除かれているように、水“処理”で失っているものがあるのではないか。私は上下水道が水循環を中心に据えると置き去りにしてしまうものが多いように思う。植物も動物も水を循環させてはいない。リサイクルして循環させているのは材料である。下水処理は水を還す。しかし、運んできた微生物は還らない。下水処理場で働ける微生物は働くが、その後、捨てられる。下水道(し尿処理施設・汚泥再生処理センター等)を農地還元に有用な微生物の循環を担うことを柱とする微生物リファイナリー施設として位置付ければ、微生物に付随して窒素やりん等の肥料成分も循環する。樹木のように。農業における土壌微生物の有用性が次々と明らかにされる中、有用な微生物を集める集菌力のある施設は上下水道が持続していくための鍵である。
水道産業新聞 2022年1月1日 掲載記事より
「カーボンニュートラル」、産業界においてこれほどまでの難題はあったのであろうか。いつの日か人類はこれを過去に乗り越えた課題として歴史を振り返るのだろうか。あるいは理想概念に留まるのだろうか。節電、節水、省エネ、環境配慮型、持続可能、循環型などはいずれも到達点が明示されたものではない。持続"可能"や循環"型"には解釈の余地がある。その方向に向かうことができる。方向性が一致していれば"~可能な"や"~型"と表現できる。それに対しカーボンニュートラルは厳しい。実質ゼロが付帯され、糖質ゼロのように小数点以下の有効数字が示されていないことで若干の緩さはあるものの、CO2排出削減をいくら進めたところでカーボンはポジティブのままであるから、ニュートラルにするには最初からCO2 "吸収"の推進が必須になる。カーボンニュートラルは、CO2排出の拡大に無意識的に富と幸福を重ねてきた社会に、そのCO2排出と同程度のCO2吸収を求めているのである。
単純に考えればCO2吸収の推進に対して今度は意識的に富と幸福を重ねていくことで実現できることになるが・・・。Go To CO2吸収と称したGo To 植樹やGo To 畑、〇万円のCO2吸収クーポンと称した野菜券や果物券や薪券だろうか。さらに進めれば、森林から河川を通じて海域までの生態系全体の活用になるだろうし、樹木以外の光合成生物や水素細菌など化学合成独立栄養微生物での物質生産を各種処理プロセス(排水処理、汚泥処理、廃棄物処理)の中で実現することも真剣に進めなければならない。
水道事業ではどうであろうか。カーボンニュートラルな水道事業とはどのようなものであろうか。どのプロセスで炭素吸収を進めるのであろうか。再生可能エネルギー利用率10%超えの事業体は数えるほど、ほとんどの事業体の再生可能エネルギー利用率は1%未満(ほぼゼロ)。配水量1m3当たりのCO2排出量は大規模事業者にスケールメリットがあるためか財政上の理由か、人口50万人以上の事業体の排出量は人口3万人以下の事業体の排出量の半分である(中央値の比較)。但し、小規模の事業体は省エネ設備への転換や広域化や施設統廃合などを今後進めることによるCO2削減ポテンシャルは大きいのかもしれない。
以上は水道事業の業務指標のデータを基にしたが、カーボンニュートラルに必須の炭素吸収に関わる業務指標はない。水源林となる森林の管理運用と連携したCO2吸収を推進するような業務指標が必要である。CO2吸収量の多い事業体(促進可能事業体)が少ない事業体にCO2吸収量を与えることでCO2吸収量を複数の事業体連携で評価することを可能にする。CO2吸収の少ない中規模事業体がCO2吸収の大きい小規模事業体と連携したり、小規模事業体でCO2吸収の少ないところは隣接する事業体に取り込んでもらったり、あるいは大規模事業体が遠隔のたくさんの小規模事業体と連携したりするのかもしれない。
CO2排出権取引のイメージであるが、国内水道事業体同士なので様々な連携への足掛かりになれば良い。数字合わせなので連携事業体同士は隣接していても他県でも良い。流域圏で考えるとどうしても隣接自治体同士の関係性の問題もあると思われるが、たとえば東北の事業体と関西の事業体のように流域圏を越えた連携も可能である。日本の水道事業全体でのカーボンニュートラルを実現するためには少なくともこの程度の制度設計は必要ではないだろうか。
水道産業新聞 2021年7月5日 掲載記事に一部加筆
バイオミミクリー(Biomimicry、生物模倣)という言葉がある。自然や生物の構造や仕組みを真似たり、そこからヒントを得たりして問題解決に生かすことである。私はここで緊急時対応に関わる細胞の仕組みを紹介したい。生物にとっては種として生き残ることが最重要事項である。生き残ったものが強く、生き残った仕組みが強靭な仕組みである。38億年の試行錯誤の結果を細胞に見ることができる。
細胞の中でDNAは設計図と称されるように生物を特徴づけるあらゆる情報を有する最重要構造物である。比較的丈夫な構造物であるが、それでも異常がないか常時点検され、損傷が発見されれば即修復される。基幹部分を常に万全の状態に維持管理することで、異常時に備えているのである。一個人のどの細胞にも同じDNA、同じマニュアルが完備されている。全国のどの水道事業体でも、各々に合った使い方で、状況に応じた使い方ができるような膨大なマニュアル。それを厚労省が用意することは大変なことであるが、生物はそれをDNAに持っている。
細胞内にたくさんあるATPはエネルギーを蓄えた小さなバッテリー分子である。ATPのエネルギーは半分まで使われて残量半分から満充電されてまた使われる。この回転が非常に速い。ATPは細胞内の隅々まで供給されて活動源となっているため、正に水道水である。ATPを真似ると時間給水量に対して水道施設の回転率を最大限高めることが基本方針になる。至る所に常に十分な残量を確保することで緊急時対応を容易にする。そしてこれは回転率向上のための規模の適正化とセットで整備することが要件である。
細胞内では基本構造が同じ類似構造物が全く異なる機能をもつ。取水も浄水も輸送も貯留も65%程度の構造を共通化できれば、修理や機能転換が迅速かつ低コストで可能になる。
大災害で致命傷のときにどうするか。細胞はエネルギーの使い方の優先順位を大転換して生き残るための修復に全力を注ぐ。上述したような準備があればこそ実行できる。「水道システムを捨てても人々に水を供給する。生き残りさえすれば水道システムはあとで作り直せばいい。」それくらいの覚悟の大災害時のマニュアルが用意できれば細胞並みということになる。
細胞や生物から持続可能な姿や仕組みを学び、その内容を概念に留めず、具体的な適用まで考えたい。細胞や生物の部分部分ではなく、できるだけ大きなシステムとして捉えて全体的な適用を考えたい。最適解はそれほど多くないはずである。
存在割合の 少ない微生物はどのくらい大事か?
存在割合の大きいものが注目され、重要と考えられ、存在割合の小さいものはあまり重要視されないことが多いでしょう。しかし、実際のところ群集とは存在割合の少ないもの同士の集まりです。果たして存在割合の小さいものは全体に影響を及ぼし得るのでしょうか?また、どのように調べたらよいのでしょうか?
下の写真は分解菌(T6a1株)の中に非分解菌(S4ga株)が0.1~1%の割合で存在したときに(左側の試験管)、分解菌だけ100%のとき(右側の試験管)よりも分解(脱色反応)が速く進んだことを現しています。
0.1~1%の存在割合の非分解菌が分解菌を活性化している
分解菌は非分解菌と一緒に培養すると細胞内のATPが増加していました。また、細胞外の代謝物を調べてみると、アミノ酸のやり取りがあることが示唆されました。一方が細胞外に生成するアミノ酸を他方は細胞外から利用する、このような関係が幾つかのアミノ酸に見られたのです。
Yamanashi Y & Ito T. (2022) A minority population of non-dye-decolorizing Bacillus subtilis enhances the azo dye-decolorization activity of Enterococcus faecalis. Microbes and Environments, 37(2). https://doi.org/10.1264/jsme2.ME21080
写真の説明:
A: 河川に放流される前の染色工場廃水の処理水(写真A)。
B: その染色排水が河川水に流れ出ていく様子は煙突から黒い煙が立ち昇るよう(写真B)。
C: 着色した染色排水が川を染めていく様子(写真C)。
D: 染色工場の上流側では水中には希少種ミクリが見られる(写真D)。
E: 染色工場廃水が微生物で脱色されていく様子、左から右へ時間の経過を表す(写真E)。
F: 純粋分離した複数種の微生物(番号が分離株番号)により染料を脱色させた後の着色水、色の濃さの違いは各微生物の脱色能力の違いを表し、元の着色水の色は右端の14番に近い(写真F)。
染色廃水は世界ではオイル(油汚染)とパルプ(製紙工場排水)に次いで環境を汚染している排水である(これは工場の責任というよりは我々人間の活動が主要因と考えるべきである)。着色の原因物質である染料は一般に生物分解が困難。分解されても発がん性物質が生成される可能性もある。
では、排水規制などにより排水がきれいに処理されるようになれば写真BやCのように汚染されていた河川はすぐにきれいになるのだろうか? いや、年単位の時間を要する。河川水はきれいにみえても河川底質には着色原因物質やその分解産物が蓄積しているため、それらが底質の微生物群により分解され低減されるのを待たなければならない。
それにしてもすごいのは底質の微生物群である。染料に汚染されている間は染料分解微生物が登場し、それも染料汚染に見合うだけの数と活性をもって存在しているが、染料が少なくなると今度は染料分解によって生成された芳香族アミンを代謝する微生物が現れる。そうして分解が進行し蓄積量が減少すると、その芳香族アミン分解微生物も減っていく。もちろん底質の微生物種はこれら以外にも多種類存在し機能はほどんど未知であるが、研究の結果、一部の微生物はこのように人為的汚染に対応して登場し、3年かけて変遷していく様子がみえた。河川水からは見えない川底にいる微生物の自然の営みである。
Ito T, Adachi Y, Yamanashi Y, Shimada Y. (2016) Long-term natural remediation process in textile dye–polluted river sediment driven by bacterial community changes, Water Research, 100: 458–465. doi.org/10.1016/j.watres.2016.05.050
Ito T, Shimada Y, Suto T. (2018) Potential use of bacteria collected from human hands for textile dye decolorization. Water Resources and Industry, 22, 46-53. doi.org/10.1016/j.wri.2018.09.001
伊藤司、武関公世、湯本将大.難分解性着色物質の生物学的脱色促進条件に関する検討.土木学会論文集G(環境)67(7): Ⅲ661-Ⅲ668. (2011)