「有機ケイ素」とは、ケイ素原子を含んだ有機化合物のことです。ケイ素は炭素と同じ14族元素なので、炭素に似た性質をもっており、Si-C結合はとても安定です。様々な有機化合物にケイ素を連結することが可能で、多様な有機ケイ素化合物が知られています。
しかし、ケイ素には炭素とは異なる「無機物」としての側面があります。例えば、半導体シリコン、ガラス、岩石などは、ケイ素を骨格にもつ無機物の代表例です。このようにケイ素には、炭素と類似した「有機」的な性質とは正反対の側面も併せもっています。
似ているようで似ていない二つの元素を融合した物質、それが「有機ケイ素」化合物です。
我々のグループの研究におけるこだわりは、「Si-Si結合」をもつ有機ケイ素化合物です。これらは、オリゴシラン、またはポリシランとよばれ、半導体シリコンの骨格を有機の衣でおおった構造をしています。これによって、半導体的な特性をもつ有機化合物となり、通常の有機化合物とは異なる性質を示します。
我々のグループでは、オリゴシラン類の合成に遷移金属触媒を用いる研究を行っています。これまでに、チタン、ルテニウム、ニッケル、コバルトなどの金属触媒を用いた新しい変換反応を見出しています。
これまでに様々な有機ケイ素化合物が知られていますが、その多くはSi-Si結合をもっていません。その理由は、Si-Si結合をもった化合物の合成法が限られているためです。
我々は、遷移金属触媒を用いた新規反応を見出すことで、この現状を打破したいと考え、新たな触媒反応の開発を目指しています。
我々が合成する有機ケイ素化合物は、基本的に世界初の新規化合物です。いったいそれがどんな性質を示すのか、いつも胸を躍らせながら測定します。X線結晶構造解析からは、苦労して合成した分子の詳細な構造が分かります。蛍光測定などの光物理的測定では、ケイ素と炭素の相互作用による興味深い性質が明らかになります。