はじめに
探究や課題研究は、本当に私たちに必要なのでしょうか?結論から言えば、その答えは、「自分の人生は自分で決めたい」と思っている人にとっては、間違いなく「YES」です。私たちは、正解のない時代を生きています。そんな時代において、探究の手法は、自ら問いを立て、考え、選び取っていく力を育みます。つまり、探究とは、自分らしく生きるための力を身につけるプロセスなのです。探究の姿勢を身につけることこそが、私たちの人生-普段の学習、部活動、人間関係、進学、就職、まだ見ぬ社会課題・学術課題解決-をより豊かにしてくれるカギになるのです。
課題発見力と課題解決力
現代社会においては、与えられた課題を解決する力だけでなく、自ら課題を見つけ出す「課題発見力」がこれまで以上に重視されています。変化の激しい社会では、誰かが設定した問題に取り組むだけでは対応しきれない場面が多く、自ら問題の本質を見抜き、必要な問いを立てる力が求められているのです。
課題発見力を養うためには、「違和感を感じとる感性」を磨くことが非常に重要です。日常生活の中で「なぜ?」「どうしてこうなっているのだろう?」と疑問を持つこと。それをそのままにせず、深掘りしようとする姿勢が、課題の芽を見つけるきっかけになります。
また、好奇心を持って物事に接することも大切です。何気ない会話、社会のニュース、小さなトラブルの中にも、大きな課題のヒントが隠れているかもしれません。固定観念にとらわれず、多様な視点で物事を見る習慣を身につけることで、課題発見の力は着実に高まっていきます。
課題を発見する力と、それを解決する力。この二つをバランスよく高めていくことが、これからの社会で活躍するための鍵となるでしょう。
探究のサイクル
探究とは、簡単に言えば、自分の興味関心がある社会課題や学術的課題に関する「問題(=お困りごと)」に対して、自分が設定した(実行可能性のある)「課題(=すべきこと)」で解決できるのかどうかを(できる限り)科学的*かつ客観的に検証するプロセスです。具体的には、以下の①②③④が行ったり来たりしながらスパイラルに進むことになります。その際には課題を自分事に落とし込むことと、リフレクション(振り返り)による「言語化」が重要になってきます。
①【課題の設定】体験活動などを通して、課題を設定し課題意識をもつ = 問題/課題の発見(ここが大事!)
②【情報の収集】必要な情報を取り出したり収集したりする
③【整理・分析】収集した情報を、整理したり分析したりして思考する
④【まとめ・表現】気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し、表現する
※科学的であるためには、同じ方法を使えば、いつ、どこで、誰がやっても同じ結果になる「再現性」があり、さらに、原因と結果のつながりがはっきりしていることが大切です。
主観と客観について
主観とは、自分の気持ちや考えのことです。「〜だと思う」(思うことは自由です)だけでは、単なる「個人の感想」にすぎず、論理的とは言えません。私たちは小さい頃から、「自分の主張には理由をつけましょう」と教わってきました。まさにその通りで、意見には根拠が必要です。課題研究においては、その根拠にあたるのが、実験やアンケート、観察などを通じて得られる客観的なデータです。こうしたプロセスを踏むことで、主張に客観性が加わり、より論理的で説得力のある内容になります。
「探究」によってリアルな社会とつながる
学校を飛び出して探究活動を続けていくと、身近な地域、少し離れた地域、大きく離れた地域、人によっては世界で活躍する人々と出会う機会に恵まれます。そうした出会いの中で、自分の問いが誰かの課題と重なったり、学んできた知識が社会の中で生きている場面に出会ったりすることがあります。教室の中だけでは得られないリアルな声や経験が、あなたの視野を大きく広げてくれるでしょう。また、実際に社会の一員として何かに取り組む経験を通して、「自分にもできることがある」「もっと学びたい」という気持ちが自然と湧き上がってきます。探究は、未来の自分をつくる第一歩。社会とつながることで、学びがもっと面白く、もっと深くなっていきます。みなさんも、ぜひ一歩踏み出してみてください。探究を通して、まだ知らない世界と、まだ知らない自分に出会えるはずです。
「探究」と「調べ学習」の違い
一生懸命取り組んだ課題研究であっても、「それは調べ学習だ」と言われたとき、その違いがわからなければ、どう改善すればよいのか戸惑ってしまいますよね。探究と調べ学習の最も大きな違いは、探究は「問い」から始まり、その答えが一つではないという点です。答えの定まっていない問いに対して、自分なりの仮説を立て、データの収集や分析を通じて検証していくことが、探究においては重要です。一方、調べ学習では、問いの大枠があらかじめ与えられており、すでに答えのある課題やテーマを設定し、書籍やインターネットなどからその答えを見つけ出すことが目的となります。もし、自分が立てた「問い」に対する答えがすでにインターネット上に存在している場合、それは「調べ学習」にあたります。そのような場合は、早い段階でテーマや問いの設定を見直す必要があるでしょう。
「問い」とは
「問い」には、大きな力があります。人は日常のあらゆる場面で、自問自答を繰り返しています。「今日は何をしよう」「どうやって勉強しよう」「どこで食事をしようか」など、私たちの多くの行動は、「問い」から始まっているのです。つまり──「問いが変われば、行動も変わる」ということです。そして、それは探究においても同じことです。探究は、常に「問い」から始まります。課題発見力の項目でも述べた、「違和感」「何かおかしい」「何か引っかかる」「しっくりこない」という小さな気づきを大切にしてください。では、あなたはどんな探究を始めますか?
「仮説」とは
「仮説」とは、「問い」に対して予想される「結論」を述べたものです。仮説を立てる際に最も重要なのは、その仮説が検証可能であることです。もし、あまりにも壮大で漠然とした問いから始めてしまうと、調査・インタビュー・観察・実験などを通しての検証が難しくなります。たとえば、「〜のために私たちに何ができるのか」といった問いに基づく仮説は、結論があいまいになりやすく、調べ学習にとどまってしまうことがあります。さらにもう一歩踏み込むと、良い仮説には「反証可能性」があることも重要です。これは、「その仮説が正しくないと示すこともできるかどうか」という視点です。言い換えれば、間違っている可能性もある仮説こそ、科学的な検証に耐えうるのです。たとえば、「~をすれば…ができる」という仮説であれば、調査や実験の結果によって「できなかった」と証明することもできます。こうした仮説は、検証の価値があり、探究の質を高めてくれます。問いを深め、「〜すれば…できる」といった、検証可能かつ反証可能な仮説に落とし込むことが、探究を成功に導くカギです。
目的(ゴール設定)による探究の「型」
「探究」と一言で言っても、目的は様々です。以下の分類を参考に、自分が行う探究で何が達成されるのか、常にゴールを意識しながら、活動に取り組みましょう。
<Why型:学術課題>
■ アカデミック型:理論的なアプローチに基づいて、調査や実験を通じて学問的な知見を深める型。文献調査やデータ分析、理論的な検証が中心になります。
例)明治時代の教育制度改革について文献をもとに分析し、現代教育との比較を行う/アンケートを用いたSNS利用と学力の相関関係の統計分析
■ インターディシプリナリー型(学際的型):複数の分野を横断的に組み合わせて探究する型。異なる学問領域を結びつけ、新しい視点から問題を解決しようとするアプローチです。例えば、社会学とテクノロジーを組み合わせた探究活動などです。
例)AIと倫理問題/環境保護と経済の関係についての調査
<How型:社会課題>
■ プロジェクト型:実社会の問題解決に向けて具体的な成果物を作成する型。実践的で、チームで協力して進めることが多い。例えば、地域課題を解決するためのプランや製品を作る、イベントを企画するなどが含まれます。
例)地域の観光資源を活用したガイドツアーの企画と実施/食品ロス削減のための啓発イベントの開催
■ コミュニティ型:地域や学校内での活動を通じて、社会的なつながりや協力の重要性を学びながら探究を深める型。地域課題や学校の問題解決に向けた活動が多いです。プロジェクト型と似ていますが、特にコミュニティとの連携が強調されます。
例:地域の高齢化問題に関する調査/学校行事やボランティア活動の企画
■ クリエイティブ型:創造的なアイデアやデザインを中心に探究する型。アート、デザイン、音楽、演劇などの分野で、作品やパフォーマンスを通じて問題解決や自己表現を行います。
例)学校文化祭での展示作品制作/映画や動画を使った社会問題の啓発活動
■ 実験・実証型:自然科学や技術を使って、実際に実験や検証を行う型。仮説を立て、実験を通じて結果を得て、新たな知見を見出します。理科系の探究活動に多く見られます。
例)環境問題に関する実験/化学反応を用いた新しい素材の開発
プロジェクト型探究の進め方の例
本校で多くの生徒が行うプロジェクト型の研究では、「自分たちの実体験 ⇒ 抽象化 ⇒ 自分たちの考え ⇒ 具体的なアクション」という流れが重要になってきます。実体験がなかったり、具体的なアクションがないと、ただの調べ学習になってしまいがちです。アクションも、アンケートをしただけで終わりにするのではなく、アンケートの結果をもとに、さらにアクションを重ねる必要があります。何らかの「社会変化(モノづくり等含む)」がゴールと考えておくとよいでしょう。