<目的>
発達段階に応じた「気づき」の深さを考慮して、新たな価値を創出する「知の活力」の基盤につながる探究力を構造化し、探究的な学び・実践的な学びを通じて育成する。
<仮説との関係>
ア イノベーションにつながる資質・能力
イノベーションとは、科学的な発見や発明、新製品、新しい職業の創出などの創造的活動を通じて新たな価値を生み出し、これを普及させることにより、経済社会を大きく変化させるもので、挑戦する事柄の新規性が前提となり、実際に成功するためには社会実装を見通した深い洞察が必要となる。
そこで、イノベーション人材の育成に向け、高等学校段階で求められる資質・能力として、事実を認識し関係を洞察する力として「気づき」を設定した。これまでになかった新しいものを創出する過程では、仮説と検証が必要である。仮説設定は検証可能な「問い」を立てることである。仮説は「確かめ」の方法がなければ検証ができない。「気づき」から「確かめ」を見通した「問い」を立てることが、新規性を主張するための課題設定であり、イノベーションに向かう探究力を考える上で重要な視点である。
イ 生徒の探究活動の過程を踏まえた資質・能力の構造化
アで述べた視点に加えて、令和4年度SSH生徒研究発表会において科学技術振興機構理事長賞を受賞したブランコの物理学に関する課題研究について、ポートフォリオ評価を行い、外部発表を重ねながら変化したポスターやスライドの内容に基づき、探究力に関するさまざまな資質・能力のうち、「気づき」「問い」「確かめ」に含まれる要素を抽出した。ブランコ班の探究の過程で変容した要素を中心に12のコンピテンシーと7つのスキルに分け、課題研究の指導の場面を想定し、基本となる資質・能力のまとまりと相互のつながりを検討した(図1)。
12のコンピテンシーに関して、「気づき」から「問い」を立て、「確かめ」に取り組むという基本的な流れはあるものの、課題研究の取組の中で順序通りに進行するとは限らず、むしろ失敗して行き来することが重要であり、サイクルではなくループとして表現した。また、「観る」「測る」「比べる」という要素は、観察を構成するスキルとしてループを形成すると考えられる。観察ループは、「気づき」や「確かめ」において重要な情報をもたらすため、「気づき」や「確かめ」を生徒に促すうえで、基本となる指導・助言のポイントになる。発表に関する要素もスキルとして捉え、相互に関連するループとした(下図2)。
探究に関する深い洞察は、事実認識から始まる「なに?」という「気づき」を、「なぜ?」という検証可能な「問い」に仕立て、「確かめ」を「どのように?」行うかの見通しを含んでいる。課題研究の方向性をデザインする力も深い洞察力に含めて考え、探究の基本ループを基調にルーブリックを整え、中高を通した統一した指導体制を確立する。
適切な仮説とは何かを生徒に理解させることは難しく、ともすれば飛躍しすぎた安易な仮説設定が見受けられ、検証方法を見いだせずに頓挫するケースがほとんどであった。これまでの本校の課題研究において、「気づき」は「なぜ?」の形をとることが多く、そこから検証の方法にたどり着かずに行き詰まる事例は少なくなかった。ブランコの物理学のような外部からも高い評価を得た課題研究は、「気づき」の「なぜ?」を、検証可能な「問い」として「どのように?」の形に変換することができた例であり、命題を実証する「確かめ」の段階に到達し、さらに新たな「気づき」へとループを進めることができた。
高度な資質・能力である洞察力を身に付けさせるためには、発達段階に応じた到達目標の設定が不可欠である。中学生にも伝わりやすい用語として「気づき」を設定し、事実認識から始まり、事象の関係性を理解することを通して、統合された洞察に至る一連の思考過程を想定した。「気づき」が深まるにつれて、実証可能な問いを立てる「問い」も深まり、「確かめ」も高度なものになっていくように、探究力を構成するコンピテンシーを構造化した。
<期待される成果>
Ⅱ期で設定した探究力を再構成し、イノベーション人材に求められる資質・能力に対応するよう整理したコンピテンシーについて、探究のコアとなるコンピテンシーのループと関連するスキルのループ、及びループ間の相互作用の全体を探究力として捉えて整理したことで、課題研究を指導するポイントを教員間で共有できる。これらの探究力を構成する資質・能力について、生徒の実際の探究活動の過程に沿ったルーブリックを開発することで、生徒に具体的な行動を促し、毎時の授業における指導において教員と生徒で話し合いながら行う形成的評価の指標として機能させることが期待できる。
中学生にも伝わりやすい用語として「気づき」「問い」「確かめ」を設定したことで、中高の連続性の中で探究力が育成されることが期待できる。さらに、出身校の状況により探究活動の経験の差が大きい外進生の現状に対して伝わりやすい用語を用いる効果は大きい。探究活動の過程に沿ったルーブリックを小中高の発達段階に応じた階層性を持たせて開発する(研究開発の内容Ⅲ参照)ことで、高校での指導にける形成的評価の場面で、きめ細かい声がけが可能になることが期待される。
<目的>
探究力を構成するコンピテンシーをベースとしたカリキュラム・マネジメントを行い、新たな価値を創出する「知の活力」につなげる。
<仮説との関係>
カリキュラム・マネジメントは『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総則編』を踏まえ、次のようにコンピテンシーベースのカリキュラム・マネジメントを位置づける。
各教科等の教育内容の関連を相互に意識し、SSHの研究開発課題を踏まえた教科横断的な視点で、探究力を構成するコンピテンシーの育成に必要な教育の内容を組織的かつ計画的に実施・評価し、教育活動の質の向上を図る。
<期待される成果>
イノベーション人材に求められる探究力を構成するコンピテンシーをベースにカリキュラム・マネジメントを行うことによって、それぞれの教科等で育成される資質・能力が、探究活動を軸に統合され、新たな価値を創出する「知の活力」につながっていくことが期待される。また、学校全体で科学技術系人材育成に取り組む方向性が共有され、組織的にSSHの研究開発に取り組む体制が強化されることが期待される。
<目的>
地域に根ざした小中高の連続性の中で、将来の国際的な科学技術人材の育成を目指し、科学的なものの見方をはたらかせた創造的活動を通じて新たな価値を生み出し、社会をよりよい方向に変化させようとする態度を涵養する。
<仮説との関係>
将来の予測が困難な時代に、未来に向けて自らが社会の創り手となり、持続可能な社会を維持・発展させていく担い手として、主体性、リーダーシップ、創造力、課題設定・解決能力、論理的思考力、表現力、チームワークなどを備えた人材の育成が求められている。また、自己肯定感や自己実現などの獲得的な要素と、人とのつながりや利他性、社会貢献意識などの協調的な要素を調和的・一体的に育み、日本社会に根差した「調和と協調」に基づくウェルビーイングを、教育を通じて向上させていくことが求められている。これらの議論を踏まえ、探究力に加え、「調和と協調」も人材育成の視点とする。
生徒が探究活動を進める場面では、探究力を構成するコンピテンシーとスキルに加えて、失敗を恐れず協働的に取り組む姿勢・態度が必要である。探究力は試行錯誤をくり返しながら実践的に身につくものであり、その継続的活動に重要となる問題解決に向かう姿勢・態度として、レジリエンス、リーダーシップ、コラボレーションに着目する。
子供たちの特性や関心・意欲は様々であり、小中学校において学校外のリソースを活かした学びに対するニーズがある。これまでのおおさきサイエンスコンソーシアムの取組に、探究力を構成する12のコンピテンシーと7つのスキルの育成を小学生にも伝わる言葉を用いて反映させ、探究力を育成するとともに問題解決に向かう姿勢・態度を小中高の連続性の中で育成する。
併設型中高一貫校として中高6年間を通じた教育の中で、中学生と高校生がともに学ぶ場面を与えることで、高校生が中学生のロールモデルとなる効果の他に、異年齢集団の学びが「調和と協調」につながると考えられる。併設型の特色として、中高一貫で内部進学するいわゆる内進生と、高校から入学する外進生とが共に学ぶ環境は、多様な個が相互に刺激し合い、「調和と協調」のなかでリーダーシップやコラボレーションが育まれる。
高校生向けの内容に、中学生を参加させることが可能であり、発表会や講演会を合同で行い、早期教育で科学技術に対する関心を高めることができる。科学オリンピック、科学の甲子園・科学の甲子園Jr.など、中高合同で参加を促し支援する体制をつくる。
以上のように、地域の特性と併設型中高一貫校の特色を活かせば、小中高の連続性の中でイノベーションリーダーを育成することができると考えられる。
<期待される成果>
ア 探究力の階層化と解像度
研究開発の内容Ⅰで触れたように、探究活動のルーブリックを階層化することで、解像度を高くすることが可能になる。小学生の上位層には中学生用のルーブリックを、中学生の上位層には高校生用のルーブリックを適用し、指導と評価の一体化を小中高の連続性で実現し、統一した指導体制で地域に根ざしたイノベーション人材の育成が見込まれる。
小中高の発達段階に応じた階層性のある探究活動のルーブリックは、地域の小中学校と連携しながらPDCAサイクルで改良を重ね、小学校から中学校・高校を通した階層化された汎用性のあるルーブリック開発が期待される。
探究活動の効果的な指導を実現するために、中高に共通した校内の用語を整理したことで、統一した資質・能力に着目して中高6年間の教科指導についても議論の視点をより明確にでき、教科ごとの中高6年間を通じたカリキュラムマップの作成により、中高一貫教育のカリキュラム・マネジメントの枠組みを作りながら、SSH事業を推進する中高一貫の校内体制を強化できるものと期待される。
イ 調和のとれたイノベーション人材
Society5.0の実現のために、イノベーションの源泉である創造性と、調和と協調の価値を併せ持った人材が求められる。小中高を通した異年齢集団での学び、併設型中高一貫校の特徴を活かした多様な個との出会い、多彩な外部連携を通して、粘り強く協働して問題解決に向かう姿勢・態度が醸成され、調和のとれたイノベーション人材が育成できるものと期待される。
<目的>
世界農業遺産「大崎耕土」や鳴子温泉の地熱、ラムサール条約に含まれる湖沼などの地方色豊かな教育資源を活かし、東北大学農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センターや宮城県農業試験場などの研究機関、地元のNPO法人と連携して、「気づき」を深める教材開発を行う。
<仮説との関係>
イノベーションにつながる探究力の育成においては、連続的に深まっていく「気づき」の過程が重要であるが、ループを回して段階的に深められていく「気づき」にも必ず始まりがある。まったく知らなかった事象を認知することから始めると、知識がある程度蓄積するまで主体的な思考が難しい。身近な事象は、これまでの生活経験や学習の中で事象に関する一定の認識があり、他の事象と対比させながら見直し、知っているつもりでいた事象の意外な側面に関心を向けることを促しやすい教材になる。
パースのいう「驚くべき事実」を認識し、それを説明する仮説を立て、検証しようとする思考過程が、本研究で設定したコンピテンシーのまとまりである。知っているつもりでいた事象について、「驚くべき事実」を指摘する思考過程のトレーニングとして地域学習は好適であり、地域の教育資源を活かしたコンテンツで「気づき」を深める教材開発を目指す。
<期待される成果>
食料を生産する水田が防災・減災に機能することや、温泉をエネルギーとして捉えることなど、身近な既知の事柄について視座の転換を含むコンテンツを扱い、本物に触れる機会を含めた教材開発を行うことで、次のような利点があると考えられる。
・既存の知識から学習活動が始められるので、生徒の予備知識をそろえることが容易である。(授業計画上の利点)
・既知から未知の領域へつながる「気づき」を追体験できる。(イノベーション人材育成ついての利点)
また、地域の教育資源を活かすための外部連携が強化され、おおさきサイエンスコンソーシアムとしての機能が充実することが期待される。
さらに、大学や研究機関、企業との連携で、身近な事象における科学研究、技術開発と社会実装について、児童・生徒の認識が深まることが期待される。