①摩擦接合部の実装を目指す
鉄骨構造における高力ボルト摩擦接合はよく知られているところですが、木質構造における摩擦接合は応力緩和やクリープ等の問題から、成立しないと考えられてきました。しかし、摩擦接合は高い剛性・耐力・減衰能が期待でき、かつさらなる木材・木質材料の有効利用に繋がることから、その実装を目指して、以下のような難問にチャレンジしています。
部材間(木材同士もしくは木材と鋼板)の摩擦抵抗力を正確に発現させるには、垂直力である接合具の軸力制御(管理)が重要です。この問題は一見すると簡便なようですが、やっかいな問題が数多くあります。例えば、複数本の接合具で構成される場合、隣接する接合具の軸力の影響を受けて軸力が変化するいわゆる弾性相互作用の問題が生じます。また、木材側には座金等を介して多軸の応力場が形成され、複雑な力学的挙動を示します。これらの挙動解明に向けて実験・解析的に取り組み、軸力制御法の確立に繋げようとしています。
木材・木質材料を粘弾性体と考えると、その長期的な応力緩和・クリープ挙動の解明が摩擦接合の実装において重要なポイントとなります。我々は、これまで木材の塑性域あるいは弾性域の応力緩和・クリープ挙動の長期的観察を行っており、メカノソープティブ変形も考慮に入れながら、その挙動解明に向けてチャレンジしています。これが解明されると、応力緩和・クリープ変形を抑制する新たな条件の発見に繋がるかもしれません。
接合具軸方向に引張力が作用すると、部材同士は局所的に離隔し始め、しまいには完全に離隔し、軸力は抜けます。こうなってしまうと、摩擦接合はもはや成り立たなくなります。この接合面の離隔挙動を解明するために、これまで実験・解析的に取り組んでまいりましたが、まだまだ分かっていないことだらけです。これが解明されると、さらに強力な接合部の開発に繋がるかもしれません。
これまでの我々の研究では、木材と鋼板間の静摩擦係数は概ね0.3~0.4程度となることを明らかにしていますが、木材の含水率あるいは表面粗さがどのように摩擦挙動に影響するのか、実験・理論の両面からアプローチしています。これが定量的に明らかにされると、摩擦接合のみならず、摩擦抵抗が少なからず寄与する各種木材接合部の力学的挙動の解明に繋がることが期待できます。
②木材および接合部の非破壊検査評価
木材は腐朽菌やシロアリにより生物劣化することがよく知られています。例えば、木造住宅の土台が生物劣化すると部材強度が低下し、土台と基礎をつなぐ重要な役割を果たすアンカーボルト接合部も耐力低下が懸念されます。このような接合部の残存耐力を把握することは、木造住宅の補強計画を立てる上で重要です。また、生物劣化が生じていなくとも、木材あるいは接合部に外力が生じた際に、どのように壊れるのかを木材内部まで把握することができれば、複雑な破壊挙動の解明に繋がることが期待できます。このような観点から、以下のような研究にチャレンジしています。
生物劣化した木材の腐朽度合い等の評価法として、ピロディン試験があります。しかし、この試験は局所的な貫入値を調べるものであり、接合部の剛性等の評価に結び付けることは難しい現状にあります。そこで、ボルト接合部を対象として、ボルトの締付けトルクと回転角の関係から座金のめり込み剛性等の機械的特性を非破壊的に直接評価・検査する手法について検討しています。
X線CTは、X線が木材を透過するため、木材を傷つけずに、断面画像や3D画像を取得することができる検査手法です。接合具の中でも雌ねじを形成しながら打ち込むビスに引張力が作用すると、引抜破壊が生じます。この引抜破壊は複雑な力学的機構を有しており、その解明が求められています。この解明に向けて、X線CTを用いて、木材がどのような破壊をしているのか等に関して観察・解析的研究にチャレンジしています。