入学のお祝いの言葉

岐阜薬科大学学長 稲垣 隆司

 新入生の皆さん、大学院及び大学への入学、誠におめでとうございます。

 皆様方の長年にわたるご努力に対し、心から敬意を表する次第でございます。

本来ならば岐阜市長はじめ多くの来賓の方々や、長年にわたり皆様方を支え・見守ってこられました保護者の方々、さらには在校生も出席していただき、入学式を挙行し、皆様方の入学を盛大にお祝いするところでございますが、新型コロナウイルス感染症(COVID 19)の感染が拡大しており、皆様方やご家族の方々の安全確保と感染拡大防止を最優先に考え、入学式を中止させていただきました。感染拡大を防止するためにはやむを得ない措置でありますので、大変残念ですが、是非ご理解を賜りたいと存じます。

 さて、新入生の皆様は、4月から岐阜薬科大学の学生であります。

 今日は、「本学の成り立ちや教育・研究体制など本学の概要」と、「これから学生生活を送られる上での心構え」などについて、紹介させていただきます。

 「本学の成り立ちと教育・研究体制の概要」

 本学は、1932年、昭和7年に当時、岐阜市長でありました松尾国松様の「製薬業界発祥の地であるここ岐阜の地から日本のみならず世界で活躍できる薬学生を輩出したい」という強い思いと、その思いに賛同し、薬学専門学校の学舎建設費のほとんどを寄付していただきました渡辺甚吉様をはじめとする多くの方々のご尽力により、岐阜市立の岐阜薬学専門学校として創立されました。その後、昭和24年の学制改革により岐阜市立の岐阜薬科大学として新しく発足し、更にその4年後、学部1期生が卒業される昭和28年には我が国の薬学系の大学としては初となる修士課程の大学院を、東京大学薬学部、京都大学薬学部とともに設置しました。更に昭和40年には大学院博士課程を設置するなど、高度な研究を基盤とする薬学教育の先鞭をつけてまいりました。

 以来80有余年に及ぶ歴史の中で、建学の精神である「強く、正しく、明朗に」をモットーに高邁な人格形成と、「グリーン・ファーマシー」いわゆる「人と環境にやさしい薬学、安全で安心を提供できる薬学」を基本理念とした薬学教育を通じ、人の健康と福祉に貢献できる人材の育成に努めてまいりました。

 その間、約1万人を超える卒業生が、病院や薬局などの医療機関、製薬会社などの医療業界、国や地方公共団体などの行政機関、更には大学や研究機関など幅広い分野で先頭に立って活躍されていることは、本学の誇りとするところであります。

本学の教育・研究体制

次に、本学の教育・研究体制についてであります。従前は薬学科(6年制)と薬科学科(4年制)の2学科を設置し、それぞれ特色のある教育・研究を進めてまいりましたが、法律の改正により薬科学科卒業生では薬剤師の国家試験を受験することができなくなったため、平成29年度から、全国にある薬学系の国公立大学の先鞭をきって薬科学科を停止し、すべての学生が薬剤師の国家試験の受験資格を得ることができる薬学科1学科のみとしました。

 この新しい薬学科においては、「医療薬学コース」と「創薬育薬コース」の2つのコースを新設し、「医療薬学コース」においては、「安全で確実な薬物療法を提供できる薬剤師」及び「地域や社会のニーズに向き合い、健康で質の高い社会を築くことに貢献できる薬剤師」の育成を図ることとしております。また、「創薬育薬コース」においては、薬剤師の資格を持って「医薬品の研究、開発の中核となる研究者や技術者」の育成を図ることとしております。そして、そのために3回生後期からそれぞれのコースの研究室に配属し、教育・研究をする体制としております。

 大学院におきましては、「伝統の中からこそ真の改革的教育・研究が生まれる」との信念のもと、自由闊達な研究を進めております。また、「いかに患者さん個々人の治療の向上に役立つ薬へと改良していくか、また、正しく薬を使うかを研究する“育薬”」と、「難病治療などに向け、世界に発信できる新薬を研究する“創薬”」というプロジェクトに沿った研究も進めております。

 更に、「疾患の早期発見や安全で有効な個別化治療」へと移行しつつある医療の社会的ニーズに応えるため、平成19年に岐阜大学の医学部及び工学部の教育・研究機関と連携して、全国初となる国立大学法人と公立大学が連携した「岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科」を開設し、創薬科学及び医療情報学を中心とする教育・研究を展開し、高度な専門性と先見性、柔軟な発想を有する最先端な領域で活躍できる人材の育成にも努めております。

 また、名古屋大学医科学研究科や名古屋市立大学、さらには中国浙江大学、フロリダ大学など多くの海外の大学とも学術協定を締結し、最先端の研究に取り組んでおります。

 それ以外にも、民間企業から寄附をいただき、「香粧品健康学講座」、「地域医療薬学講座」、「バイオメディカルリサーチ講座」、「在宅チーム医療薬学講座」及び「先進製薬プロセス工学講座」の計5つの寄附講座を開設し、教育・研究を進めるとともに、岐阜県保健環境研究所との連携による危険ドラッグの検出技術の開発等、他の大学にはない取組を行っております。

 更に、皆様ご承知のとおり、今、我々を取り巻く社会環境は、複雑・多様化してきております。具体的には、経済のグローバル化の進展による国際的競争力の激化、少子高齢化問題、地球温暖化等の環境問題、更には地域間の格差問題等多くの課題が山積しておりますし、一方ではIoT、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータといった社会のあり方に影響を及ぼす新たな技術が急速に進展しております。こうした中、国においてはこれら先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会であるソサエティー5.0の実現に向けた各種取組を進めております。

 このような大きな変革が求められている中で、本学においては、社会の動きを的確にとらえ、高度な研究に裏付けられた教育のできる大学を、産業界など関係機関と力を合わせ進めております。

 「学生生活を送られるうえでの心構え」

次に「学生生活を送られるうえでの心構え」、具体的には「学び」、「学問の道」について、ご紹介します。

 大学生としての学びのスタイルは、高校までのそれとは大きく異なります。高校時代は「教えを受ける人」として「生徒」と呼ばれていました。しかし、大学の学びのスタイルは、自ら求めて学び、自ら考え、自らの考えを持ち、獲得した知識を活用し、表現し、実践することであります。まさに「学ぶ人」、「学生」であります。

 中国の処世訓の最高傑作と言われております「菜根譚」という本の中に「学問・勉強」の仕方の教えがあります。

 それは、「一疑一信(いちぎ・いつしん)して相参勘(あい・さんかん)し、勘(かん)極まりて知を成す者は、其の知、始めて真なり。」という言葉があります。

 これは「学問をするときは、常に疑問を持ったり、納得したり、信じたりして、いろいろ考え抜いて知識を身に付けていく。このようにして何度も何度も繰り返し考え抜いて得た知識であれば本物の知識である。」という教えであります。

 「学ぶ」とは、書物を読んで先人の考えを学習すること。「思う」とは、自分で掘り下げて考えること。外側から知識を吸収し、内側を掘り下げる。この二つのバランスを取ることが必要であると思います。 

 皆様方はこれからも多くの先生方から多くの教えを受けなければなりませんが、学生の本分を忘れることなく、自ら学問を収めることに強い意欲と気概を持って、日々、前進する生活を送ってください。

 学問の道は極めてけわしいものです。「百折不撓の心」を持って、どんな困難も乗り越え、またスランプに落ちた時は、挫けることなく、日々努力し、再起してください。これが学問の道であります。常に向上心、問題意識を持って、「夢」を持ち、「夢」をただ「夢」で終わらせるのではなく、「夢」を「目標」として努力し、「実現」してください。

 新入生の皆さん、薬学の道を究めるとこができる環境を与えていただいた、ご家族、そしてこれまで指導していただいた多くの恩人に感謝し、その期待に報いるためにも、これからの学生生活の中で、多くの先生、多くの友に出会い、その出会いからさらに多くの知識、言葉、文化に出会って、自ら豊かな感性と悟性の涵養に努めていただきたいと思います。

 さらにグローバル化社会に適切に対応するため、機会があれば積極的に海外に出向き、異文化に触れることにも心がけていただければと思います。

 一度しかない貴重な青春時代を有意義に、かつ満ち足りた学生生活を送られることを祈念いたしますとともに、私ども岐阜薬科大学すべての教職員が全力でサポートすることをお約束し、私からのお祝いの言葉といたします。

    令和2年4月6日                    

                                         岐阜薬科大学学長 稲垣 隆司