令和2年度岐阜薬科大学学位授与式に当たり一言お祝いの言葉を述べさせていただきます。
本来ならば柴橋岐阜市長様はじめ多くの来賓の方々や、長年にわたり皆様方を支え・見守ってこられたご家族の方々、さらには在校生にもご臨席を賜り、皆様方の卒業を盛大にお祝いすべきところでございますが、今年は皆様方やご家族の方々の安全を第一に考え、また新型コロナウイルス感染症の感染防止を最優先に考え、式典の規模を縮小し、卒業生の皆様と教職員のみで執り行わさせていただきました。大変申し訳ございませんが、感染拡大を防止するための止むを得ない措置でありますこと、是非ご理解を賜りたいと存じます。その代わり、皆様方の晴れの姿をご家族の皆様方はじめ関係者の皆様にオンライン配信させていただいておりますし、また本日の式典の様子などを収録したものを後日配付させていただきます。是非お楽しみにしていただき、大切にしていただければと思います。
さて、ただ今、博士(薬学)を9名、同じく博士(薬科学)を4名、そして修士(薬科学)を34名、学士(薬学)を76名にそれぞれ授与いたしました。
学位を取得されました皆様方には、心よりお祝い申し上げますとともにこれまでのご努力に対し心より敬意を表する次第であります。
また、ご家族の皆様方におかれましても、お慶びはひとしおのことと心からお祝い、お慶びを申し上げます。
皆様方には、今日(こんにち)を迎えられるまでには,嬉しかったこと、楽しかったこと、また時には辛かったことなど様々な経験をされたことと思いますが、それらの経験をこれからの人生の糧として、一層励んでいただきたいと思います。
皆様方には、本日、岐阜薬科大学を巣立ち、医療の現場や医薬品の研究・開発の分野、あるいは行政分野など、様々な分野で、本学で学んだ薬学の知識を活かして活躍されることとなりますが、常に岐阜薬科大学の卒業生であるという誇りを持って頑張ってください。私ども、岐阜薬科大学関係者にとっては、どのように離れていても、皆様方の活躍される姿を見聞きすることがこの上もない大きな喜びであります。
さて、皆様方ご承知のとおり、今、我々を取り巻く社会環境は複雑かつ多様化しております。
具体的には、経済のグローバル化の進展による国際的競争力の激化や、地球温暖化等の環境問題、地域間格差、更にはジェンダー不平等等、多くの課題が山積しております。
一方で、IoT、ロボット、人工知能(AI)といった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術も急速に進展しております。
さらにここにきて、COVID19の世界中への感染拡大により世界経済が失速するなど大きな影響が出ております。
そのような激動の社会にあって、皆様方が進まれる医療・健康分野においても、世界でも類を見ない超長寿社会、高齢化を迎え医療費の高騰などの問題を背景に社会保障制度の見直しや、「介護を受けたり、寝たきりになったりせず、元気に日常生活を送ることがで きる」健康長寿の延伸を図るため、最適な薬物療法の提供や、地域包括ケアシステムの構築などが進められております。具体的には、病院等医療機関などにおいては、チーム医療の中 で、がん専門薬剤師等「高度専門薬剤師」が、また、市中の薬局においては地域包括ケアシ ステムを推進するための「かかりつけ薬剤師」など「薬の専門家」としての薬剤師への期待が一層大きくなっております。
また、医薬品の研究・開発、創薬と呼ばれる分野におきましても、人生100年時代を迎 え、国民の健康を守るため、さらなる新薬の開発が求められております。
このように大きな変革が求められている社会にあって、「自分は何をすべきか、常に自問し、高い志を持って」、岐阜薬科大学の卒業生としての存在感を示すべく日々研鑽していただくことを期待しております。
いずれにしても、社会に出られたら、今まで以上に勉強し、楽しい人生、素晴らしい人生を歩んでいただきたいと願っております。
そこで、 今日は皆様方が 社会で 仕事をする上で気を付けてい ただきたい心構えをお話して、贈る言葉とさせていただきます 。
それは、 皆様方の中には既に読まれた方もいらっしゃると思いますが、スウェーデンの医師で、公衆衛生学者であり、スウェーデンの「国境なき医師団」の共同設立者であります、故ハンス・ロスリング博士の著書であります「ファクトフルネス」の教えで す。この書の中で博士は、「人間には10の本能的な先入観があり、データや事実を基に理解しようとすることを邪魔している。」と指摘しております。
具体的には、10の本能の1つであります「分断本能 」。これは世界を「先進国」と「途上国」に分断して捉え、「途上国」は生活面、衛生面、教育面などの環境がすべて劣悪であるという先入観があるというものであります。また、「パターン化本能」。 これは世界の貧困な国の子どもは、すべて予防接種等を受けられないと決めつけていますが、実際には世界の8割の子供は1歳の時から何らかの予防接種を受けています。このように本能的な先入観が誤った判断をすることがあると指摘し、「ファクトフルネス」すなわち「データと言う事実に基づいて世界を見る」ためには、「知りませんと言える謙虚さ」、「新しい情報への好奇心」、「定期的に認識をアップデートする姿勢」、さらに加えて「自分は10の本能に影響されていないか」と自問自答する自己批判の精神を持つことが必要であると説いております。
皆さんは、これからの長い人生の中で、また仕事をする上で、多くの問題、課題に直面することがあると思います。その時には「ファクトフルネス」を実践して、自分の人生を前に進めてください。
皆さんは大きな可能性をもっています。自分自身の可能性を信じ、岐阜薬科大学の卒業生としての誇りを持って頑張ってください。
私ども岐阜薬科大学の教職員一同は、本日、自信を持って、皆さんを社会に送り出すことができることに大きな喜びを感じております。
どうか、健康には十分ご留意され、大いに活躍されることを祈念しております。
最後になりましたが、今日お帰りになりましたら、今日(こんにち)まで皆さんを温かく見守ってくださいましたご家族はじめ関係者の皆様方に必ず感謝の言葉を述べていただくことを申し添えまして私からのお祝いの言葉とさせていただきます。
本日は誠におめでとうございました。
令和3年3月13日
岐阜薬科大学長 稲垣 隆司