高知市人権教育研究協議会(以下,市人権教)の取組は,今年で69年目を迎えました。市人権教の前身である高知市同和問題研究協議会が発足した1950年代は,高知県が全国に先駆けて福祉教員制度を取り入れ,「長期欠席・不就学・未就学」の問題を解決しようと取り組んだ時代でした。当時の人々は,取組の中で,子どもたちの背景に,熾烈な部落差別があることに気付きます。そこで,毎日一軒一軒家庭訪問をし,子どもや家庭と関係を築き,つながっていきました。また,現実を放置している教育や教師の在り方を,それまでの自らの生き方や教育実践を含めて問い直してきました。そうして「目の前の現実から深く学び,そこから教育を組み立てていこう」という意欲をもち,実践をしてきたのです。
私たちは,こうした発足当時からの精神を受け継ぎ,「差別の現実から深く学び,生活を高め,未来を保障する教育を確立しよう」というスローガンのもと,部落差別をはじめ,あらゆる差別の解消をめざす同和教育実践を重ね,発展させてきました。
現在は経済の効率性を重視する傾向から,競争と自己責任が強いられ,弱い立場の人々が切り捨てられ,人と人との間に非寛容な気持ちが広がっているといえます。また,人工知能(AI)の発達や,インターネットの普及により,人間関係の希薄化が急速に進んでいます。さらに,インターネット上での差別的な書き込みや誹謗中傷,在日外国人やセクシュアルマイノリティーへの偏見や差別,さらにロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻をきっかけとしたウクライナ避難民や在日ロシア人への差別など,新しい人権課題も生じています。
このような社会情勢は学校や家庭へも影響を及ぼし,子どもを取り巻く状況においても,いじめ問題や不登校,虐待,育児放棄等子どもの人権が脅かされている現在の状況につながっています。
これらの事象は,私たちの暮らしや社会の在り方について大きな課題を提起しています。このような状況においてこそ,人権を尊重する教育を推進する必要があります。すべての人々が,差別や偏見から解放され,安心・安全に暮らしていける社会,すべての人々が自己実現を図ることのできる社会の確立をめざす教育が必要です。
同和教育を中核とした人権教育を推進することは,子どもたちに豊かな人権感覚・実践行動力を育み,互いを支え合い励まし合う人間連帯の絆を深め,自らの生き方に希望と誇りをもって自己実現を図る重要な教育活動です。このような事実と実践に基づいた同和教育の理念にこそ,教育の普遍性があり,私たちがめざす教育の基盤があるといえます。
これらのことをしっかりと捉えて,一人ひとりが自分事として主体的に考え,自分自身が何をすべきか,また,何ができるかをともに考え行動していきましょう。そして,各園(所)・学校・家庭・地域・行政が,協働の関係をもって,人権が尊重される町づくりを進めていきましょう。
⑴ 差別の現実から深く学び,生活を高め,未来を保障する教育を確立しよう
⑵ 同和問題をはじめあらゆる差別をなくし,豊かな自己実現を育む教育を,全市民とともに創造しよう。
⑴ さまざまな人権問題を解決する意欲と実践力を身に付けた人間を育成する取組を進めていこう。
⑵ 人権確立をめざす教育・啓発を推進するため,条件整備を進めながら,学校教育,社会教育,家庭,地域が連携し,総合的な取組を充実させていこう。
⑶ すべての子どもたちの進路を保障するために,就学前教育から一貫した取組や地域・保護者・園(所)・学校・行政等が一体となった取組を進めていこう。
⑷ 豊かな自己実現を育むための教育を創造しよう。
⑸ 教育現場,地域での活動を基盤として,職場研修,支部研修,市人権集会,県人研大会,全人研大会へと実践を積み上げて広げよう。