(くわはら みか)
人口戦略会議が公表した「消滅可能性自治体(2024年版)」のリストによると、2050年までに744自治体、現在の4割の自治体が消滅する可能性が高いそうです。ここで重要なのは、どこのまちがなくなってしまうかとか、数とかではなく、人口が減ってゆくことに対応した社会や仕組みができているか、ということではないでしょうか。
人口変化の要因には、社会動態と自然動態とがあります。前者は進学や就職、転勤など引っ越しによる人口の変化、後者は人の生き死にによる人口の変化を指しています。図にもあるように、自然動態に関しては、比較的精度の高い予測がたてられます。例えば、2000年に生まれた人は2050年に50歳になりますし、2050年に10歳になる人は2040年に生まれる人です。つまり、社会動態がよほど大きくない場合、将来どの程度のまちの機能を用意しておくべきか推測できますよね。例えば2050年に必要な介護・高齢者施設、学校。現在と同じ数が必要だと思いますか。
国立社会保障・人口問題研究所HPより転載。https://www.ipss.go.jp/site-ad/TopPageData/PopPyramid2017_J.html
もちろん、快適に過ごすために施設がたくさんあることが良いと考える人もいるでしょう。ただ、財政という側面からも考えねばなりません。自治体のおカネは無尽蔵にあるわけではありませんし、それは皆さんが税金として納めるものです。増税をしたり利用料金を値上げしたりしてでも整備・維持するべきだと考える人が多く住む自治体ならば、それも良いでしょうが、多くの人はできれば増税や値上げはしてほしくはないでしょう。そうであるならば、限られた財源の中で可能なかぎり快適に過ごせる方法を考えねばなりませんよね。
利用者がいなくても維持費や運営費がかかります。建物を放っておくと朽ちてしまうので定期的な補修も必要です。壊すのにも解体費用がかかります。別の目的で利活用したり、企業などに売ったりするという方法があるかもしれませんが、法律や地理的特性、建物が災害に耐えうる構造か、維持補修や管理運営費用を賄えるか、など様々な側面から考える必要があります。
あなたの「思い出の場所」を残すためだけにいくらまでなら払いますか?
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「財政赤字〜経済政策からの視点〜」では、これまでに発行してきた国債と使い道に焦点を当てていましたが、近年どれだけの国債を発行しているかという点に着目してみましょう。
2024年度当初予算では、普通国債を35兆円以上発行することになっています。社会保障にかかる経費や橋やトンネルなどの維持や更新経費が年々増しているためです。また2020年には100兆円以上の国債を発行しました。この数年に関しては、新型コロナウィルス感染症が世界的に蔓延したことにより、多くの人が一時的に働きに出られなかったり、皆が外食や旅行を控えたためお客さんが減ったお店などがあったりしました。そのような場合に、お給料が途絶えたりお店が倒産したりしないよう、大規模な支援が行われました。国民に1人10万円が給付されたことも記憶にあるでしょう。他にも、ワクチンを調達して全国で接種できるよう会場整備や人員の配置など、急に大規模な資金を要しました。日常のごみ収集や消防・警察、学校運営などにかかる費用に加えて、感染症対策のための経費も必要になり、集めた税金では足りなくなる額を追加的な国債として発行しました。
ほかにも、リーマンショックと呼ばれる連鎖的な不況や、日本のバブル経済が崩壊した年にも、多くの国債が発行されたことが図からも読み取れるでしょう。
また、借金をして得たお金の使い道も重要です。国債とひとくくりに言っていますが、将来にわたって役立つものに必要な公共施設~例えば橋やトンネルなど~は、建設するときは一度にお金が必要となりますが、その便益はその後何年にもわたってもたらされるでしょう。こういった場合には、建設時に借金をして(「建設国債」と言います)作っても、将来世代も便益を享受するのですから、その後返済するというのは合理的に思えます。しかし、毎年毎年必要となる経費~その年ごとに消費しつくしてしまうサービスなどの経費~を国債で賄うのは、問題があります。家計の例で言えば、住宅ローンを借りて家を建て、少しづつ返済するのは構わないのですが、毎年の衣服代や食事代、娯楽代を借金で賄い続けるのは、将来にわたって続けられないのでまずいということと同じです。このような目的で発行されるのは「特例公債」と呼ばれるものです。
下の図は、財務省の「日本の財政事情」というページから転載したものですが、「特例公債」の残高の方が多いことが見て取れますね。ですので、日本の国債累積問題は、単に額が大きいというだけでなく、中身にも問題がありそうです。詳しくは,「財政赤字~財政学からの視点~」を参考にして下さい。
出典)財務省HP 『これからの日本のために 財政を考える』P5より転載。
https://www.mof.go.jp/public_relations/publication/index.htm
景気が悪くなった際、なんらかの形で国民や企業などを支援する必要があるならば、その財源はどこから調達するべきでしょうか。増税で賄うと、よけいに景気が悪くなってしまう可能性がありますよね。他の選択肢の1つとして国債発行があります。必要な額を債券として発行し、国民・企業/機関が買ってくれ(貸してくれ)た金額を景気対策に使うことができれば、多くの人や企業を救うことができます。しかし、借りたお金であれば、期限までに利子をつけて償還(返済)しなければなりません。その額が1,100兆円を超しているというのです。
あなたは、その額が誰かの「負担」になると考えますか。もし国債を持っている人がいれば、その人にとっては「負担」ではないのでしょうか?世代を超えて考えたなら「負担」にはならないでしょうか?財政学では、それらの定義を明確にして場合分けしながら議論を進めます。そもそも、そうした「財政政策」よりも「金融政策」によって迅速に景気を浮揚させた方がよいでしょうか?もっと考えるならば、景気を良くするような策を政府が講じる必要があるのでしょうか?さまざまな方向から考えてみましょう。
※経済学部で学ぶ場合は、「財政学」「金融論」「経済政策」といった科目で扱っています。
(2024年6月4日更新)