福井県立大学生物資源学部の伊藤崇志教授と昨年度に修士課程を修了した坪井燿大さん、カノム・ハミダさん(バングラデシュ留学生)の研究グループは、肝臓を保護する働きを持つ「タウリン」が作用するメカニズムを研究し、タウリンが肝臓内での硫化水素の産生を促進したり、老化関連ホルモンであるインスリン様成長因子結合タンパク質-1(以下、IGFBP-1)の産生を阻害することにより、肝毒性物質によって起こる肝臓細胞の老化を軽減することを発見しました。
栄養ドリンクの成分で有名なタウリンですが、もともと私たちヒトの体の0.1%を占める大切な物質です。タウリンは魚介類にたくさん含まれる物質で、日本人はもともと魚介類の消費が多いことから、タウリンの摂取も多いことが知られています。また、日本では、タウリンは心臓病や肝臓病のクスリとして処方されるほか、滋養強壮に効く栄養ドリンクに配合されています。近年、2023年サイエンス誌に発表されたタウリンの摂取によって老化が予防されて寿命が延伸するという知見が注目を集めていますが、病的なストレスによって起こる細胞の老化に対してタウリンがどのように作用するか明らかではありませんでした。
本研究では、タウリンの肝臓病に対する有用な効果が、肝臓細胞の老化を抑える作用に関連があるかどうか検討しました。あわせて、その作用メカニズムについてさらに研究をすすめました。
その結果、主に以下の3点のことが分かりました。
1)タウリン摂取により、肝毒性物質である四塩化炭素によって引き起こされる肝臓細胞の老化が有意に減少しました。
2)タウリンは肝臓で抗酸化作用を持つ硫化水素の肝臓内濃度を上昇させることが分かり、酸化ストレスの軽減に寄与することが示唆されました。
3)老化関連ヘパトカイン(*1)であるIGFBP-1の発現が、タウリンにより抑制されました。併せて、病態時に起こる血液中のIGFBP-1の増加が、タウリンの摂取によって完全に抑制されました。
(*1ヘパトカイン:肝臓から特異的に分泌されるホルモン様の物質で、肝臓や全身に影響を及ぼすもの)
これらの結果より、タウリンが病的ストレスによって発生する細胞の老化に有効にはたらくことがわかり、そのメカニズムが、硫化水素の増加による抗酸化作用と、IGFBP-1の減少によるものであることが示唆されました。
肝臓では、薬物などの肝毒性物質の他にもアルコールや高脂肪の食事などによっても障害されて細胞の老化が進み、線維化や肝硬変などにつながることが知られています。本研究により、魚介類などからタウリンを多く摂取することによってこのような細胞老化に関連した病的ストレスによって起こる肝臓異常を予防したり、肝臓老化の増悪を抑えることができる可能性が示唆されました。加えて、IGFBP-1は肝機能のほかに、筋肉の衰えや骨粗しょう症などの老年病との関連性が指摘されており、魚介類を中心とした食生活をして肝臓を守ることがアンチエイジングを叶えるのに重要であると考えられます。