線虫を特定の塩(NaCl)濃度でしばらく飼育したのち、塩の濃度勾配上に置いて行動を観察します。すると、飼育中に十分に餌を得ていた個体は飼育されていた塩濃度に向かって移動します。一方、飼育時に飢餓を経験した個体は、飼育された塩濃度を避けるように移動します。つまり、線虫は過去の環境を記憶しており、塩濃度を指標として餌を探すように行動します。
線虫は塩濃度や餌をどのように感知して、その情報を行動に反映させるのでしょうか。またストレスや加齢は、学習にどのように影響するのでしょうか。学習欠損変異体の解析などを通じて、記憶と学習のしくみを明らかにします。
研究紹介ビデオ:研究室の扉「線虫で記憶と学習のしくみを探る」
理学部オープンキャンパス 2022講演:「センチュウを調べてわかる学習のしくみ」
動物は匂いや味を手がかりとして餌を探したり、危険を回避したりします。またフェロモンを個体間のコミュニケーションに用いています。これらの感覚は環境中の化学物質によって生じます。
味(水溶性物質)や匂い(揮発性物質)を感知するしくみは、モデル生物を中心として理解が進んでいます。一方で、それぞれの生物種が生育環境への適応から獲得した感覚については、研究が進んでいるのは一部に過ぎません。線虫がもつ、一見すると特殊な化学感覚の機構を明らかにします。
線虫はNa+, K+, Cl-, Cu2+など各種のイオンに応答します。これらの刺激は頭部にあるいくつかの感覚ニューロンで受容されることがわかっています。しかし、各イオンに対する受容体分子が特定されていないなど、イオンの受容機構には不明な点が残っています。細胞がイオンに応答するしくみを明らかにします。
Caenorhabditis elegans
線虫C. elegansは実験動物として優れた性質をもっています。まず、多産で世代時間が短く、遺伝学的解析に適しています。また体が透明なため、蛍光レポーター等を用いて細胞の形や応答を容易に観察できます。さらに、環境からのさまざまな刺激に対し応答行動を示す、神経系はそれぞれ固有の名前がつけられた300個程度のニューロンから構成されそれらの接続(コネクトーム)がすべて明らかになっている、などの特徴をもっています。これらの理由から、線虫は動物の発生や神経がはたらく仕組みを調べるモデル生物として利用され、数々の生命現象の理解に貢献してきました。
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