東京大学 大気海洋研究所 海洋生命システム研究系

海洋生態系科学部門

海洋生態系を探り地球を知る

地球表面積の7割を占める広大な海には、多種多様な生物が生息し、互いに食う食われる関係や、共生、寄生などの関係を持ちながら生態系を構成しています。海洋生態系のしくみやその働きを知ることは、健全な地球環境を維持する第一歩です。海洋生態系科学部門では、海洋に生息する微生物、プランクトン、マイクロネクトン、ベントスを研究対象として、個体から群集レベルまでこれらの生物の生態や生理学的特徴を調べるとともに、海洋の物質循環や生態系の維持にどのような役割を果たしているかを探求しています。

浮遊生物グループ

プランクトン(浮遊生物)は熱帯から極域、表層から1万メートルを超える超深海まで、あらゆる海洋環境に生息しています。そこでは1ミクロンに満たない微小な藻類から数メートルを超えるクラゲの仲間まで、多種多様な生き物が相互に関係を持ちつつも独自の生活を送っています。これらプランクトンは、各々の生活を通じて基礎生産や高次食物段階へのエネルギー転送、さらには深海への物質輸送の担い手として、海洋の生物生産と物質循環過程に重要な役割を果たしています。また、地球温暖化や海洋酸性化等地球規模の環境変動や漁業等人間活動による海洋生態系の擾乱が、プランクトン群集構造や生産を変化させていることが明らかになってきました。

本グループでは、海洋プランクトンおよびマイクロネクトンについて、種多様性とそれらの進化を明らかにすると共に、食物網動態および物質循環における役割の解明を目指しています。この目的のため、日本沿岸、亜寒帯・亜熱帯太平洋、インド洋、南極海等の幅広い海域をフィールドとし、生理・生態、種の生活史と個体群動態、群集の時空間変動、分子生物学的手法を用いた種間系統関係、漁業生産および物質循環にはたす機能等について研究を進めています。また、地球規模での環境変動に対するプランクトン群集の応答については、国際的・学際的協力のもとに研究航海や国内学の沿岸域での観測・実験を行い、研究を進めています。

微生物グループ

海洋生態系はさまざまな種類の生物から構成されています。そのなかで、細菌は原核生物という生物群に属し、この地球上に最も古くから生息してきた一群です。海洋の大部分は高塩分、低栄養、低温、高圧で特徴づけられますが、海洋細菌はこれらの環境に適応した生理的特性を持つことによってあらゆる海域に分布するとともに、細菌同士あるいは高等動植物とさまざまな相互作用を行い、海洋生物圏の多様性創出の担い手となっています。また、細菌は分解者として、さまざまな有機物を最終的に水と二酸化炭素に変換します。懸濁態の有機物は細菌以外の動物も餌として使うことができますが、溶存態の有機物を利用できるのは細菌だけです。海洋の溶存態有機物は地球上の炭素のリザーバーとしても極めて大きいので、細菌の機能を理解することは、地球全体の炭素循環の解明にとって重要です。

本グループでは、多様な海洋細菌の生物的特性と生態系における機能を、分子生物学的手法、最新の光学的手法、斬新な方法論を導入することによって解析していくことを目指しています。

底生生物グループ

本グループでは、潮間帯から深海に至る海底の生態系および底生生物(べントス)を対象とし、様々な角度から研究を行っています。現在の主な研究テーマは、深海ベントスの多様性と生物地理、深海化学合成生物群集の進化と生態、底魚の集団遺伝解析に基づく日本海の生命進化史、干潟動物の分布と生態、海と川を行き来する両側回遊動物の自然史などです。こうした研究は、海洋生物集団の形成史を明らかにするのみでなく、将来地球環境変動が海洋生態系に及ぼす影響の予測にも役立つと期待しています。

ニューストンネットを用いたマイクロプラスチックの採集

学術研究船白鳳丸での採水作業(CTDカローセル採水器による各層採水)

研究船による深海ベントスの採集

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