2023年4月~現在
東京大学生産技術研究所 合田研究室でデータベースの研究をしています。
期間:2022年4月~2024年10月
東京大学での卒業論文における研究です。
動的カシミール効果
電磁場の境界条件が高速に変化すると、場が励起され、フォトンが生成されることが知られています。これが動的カシミール効果と呼ばれる現象で、1970年にMoore によってその存在が予想されました。動的カシミール効果は2011年に初めて実験的に観測されたことで、近年より多くの注目を集めるようになっています。この2011年の実験は coplanar 導波路を用いた回路により動的カシミール効果を観測しています。実は、coplanar 導波路は超伝導量子ビットの重要な構成要素でもあるのです。そこで、俄かに動的カシミール効果を量子ビットで活用できないか、という研究が行われるようになりました。
電磁場の共振器において、境界条件が高速に変化するとフォトンが生成される。
超伝導量子ビット
2023年現在、量子コンピュータの重要な "部品" である量子ビットの主流は、超伝導量子ビットといえるでしょう。超伝導量子ビットは、coplanar 導波路共振器とクーパー対箱という疑似的な2準位系からなっています。そうです、動的カシミール効果を観測した実験と同じく、coplanar 導波路共振器を用いているのです。そのため、共振器に対して動的カシミール効果で外部駆動を与えることで、系に対して何らかの影響が与えられると考えられます。その一例として、動的カシミール効果で量子ビットをエンタングルさせるといった研究があります。(ただし、このページに載っている量子ビットの図とはセットアップが少し異なります)
実はこの超伝導量子ビットは一種の「振動子」となっています。身近な振動子というと、メトロノームが代表的です。
超伝導量子ビットの構成の概念図。上の2つの丸は2準位系。図下は共振器。共振器内のフォトンの数 n, 周波数ω。各2準位系の周波数は ωq1, ωq2, 2準位系と共振器の結合強度はg1, g2で表されている。
同期現象
同期現象とは、弱い相互作用・外部駆動により「振動子」の周期・位相が一致する現象です。振動子の代表例が図にも示したメトロノームです。複数のメトロノームを同じ台の上に置いておくと、振動の位相や周期がひとりでにそろっていきます。「メトロノーム 同期」などと検索すると、youtube動画も出てきます。他にもたくさんの蛍の光の点滅が徐々に揃っていくのも同期現象の一種のようです。
同期現象は、工業的にはレーザーに用いられています。単一光源で強力なレーザー光を出力するのは、技術的に大変で素子の価格も高くなってしまいます。そこで、出力は弱い安価な素子をたくさん集めて一つのレーザー光源として利用したいわけです。しかし、それには大きな壁があり、たくさんの素子から出てくる光の位相をぴったりと合わせなくてはなりません。この、壁を解決したのが同期現象でした。
さて、先に述べたように量子ビットも振動子である以上、同期現象が起こるのか、気になります。そこで我々は、動的カシミール効果により外部駆動を与えた時の量子ビットに同期が生じるのか研究しました。
振動子の一例:メトロノーム。同じ台の上に複数のメトロノームを置いておくと、振動の位相や周期がひとりでにそろっていく。
「背景」ですでに述べたように、超伝導量子ビットは動的カシミール効果による駆動でその状態が変化します。そして超伝導量子ビットは振動子であるため、同期現象が起こる可能性があります。そこで我々は、動的カシミール効果により外部駆動を与えた時の量子ビットに同期が生じるのか、研究しました。詳しくは下記の論文 をご覧ください。
H. Mitarai and Y. Hasegawa, Quantum synchronization of qubits via the dynamical Casimir effect, Phys. Rev. A 110, 043719 (2024). [arXiv:2308.15788 (2023)]
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期間:2021年秋~現在
大学の学生実験「人工知能演習」では、まず最初の2週間程度で、cnn や 強化学習のコーディングの基礎を学びます。その後の2週間程度で 3~4人のチームを組み、人工知能を用いて自由にテーマを決め実験を行います。本研究はここから発展したものです。
日本は4枚のプレートの上に位置しており、これまで数多くの地震災害が発生し多大な被害をもたらしてきました。想定される震源やマグニチュードから各地の震度を予測することは、防災・減災の観点から非常に重要です。現在、震度予測によく用いられているのは Ground Motion Prediction Equations (GMPEs) と呼ばれる回帰式です。しかし、GMPEは回帰式の形を仮定してしまうため、表現力に限界があります。本研究ではニューラルネットワークを用いた data-diven な震度分布予測を提案しました。
震源の緯度経度・深さ、マグニチュードを入力として、ニューラルネットワークを用いて日本(本州近辺)の震度分布を予測するモデルを構築しました。このモデルは、震源の情報と震度の間の関係は明示的に仮定していません。そのため、異常震域に対する予測も一部可能となっています。
詳しい手法や結果は下記の発表資料等をご確認ください。
また、我々は誰でも簡単に震度分布予測ができるように、ユーザーインターフェースを作成しました(サーバーが無いため未公開)。
K. Mizutani*, H. Mitarai*, K. Miyazaki*, R. Shimamura, S. Kumano, T. Yamasaki, Prediction of Seismic Intensity Distributions Using Neural Networks, 2022 IEEE 11th Global Conference on Consumer Electronics.
* co-first author
御手洗 陽紀,水谷 航悠,島村 龍伍,熊野 創一郎,山崎 俊彦, ニューラルネットワークを用いた震度分布予測, 画像工学研究会(IE) ,信学技報, vol. 121, no. 374, IE2021-41, pp. 43-48, 2022年2月.
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期間:2019年4月-2020年3月
豊田高専での卒業研究として実施
MATLABを用いて内部の温度分布と電流電圧特性を解析しました。→ learn more
ジョセフソン接合・ジョセフソン効果
超伝導体どうしが絶縁体などの薄い障壁を挟んで弱く結合したものはジョセフソン接合と呼ばれます。そして、このジョセフソン接合には電圧ゼロで電流を流すことができます(直流ジョセフソン効果)。一方、ジョセフソン接合に電圧をかけた状態で電流を流すことも可能です。このとき、ジョセフソン接合から、印加した電圧に比例した周波数の電磁波が出力されます(交流ジョセフソン効果)。交流ジョセフソン効果における発振周波数が大体 THz 領域となっているため、THz 発振デバイスなどへの応用が期待されています。
しかし、単一のジョセフソン接合では出力が小さいため実用化には向きません。そのため、図のようにジョセフソン接合が何層にも積み重なったものが、デバイスとして活用できると期待されています。Bi2212 という物質は、積層ジョセフソン接合を結晶構造内に持っているため、ジョセフソンデバイスとして注目を集めています。
積層ジョセフソン接合
Mesa型素子
盛んに研究されてるデバイスの形状は図のようなメサ型と呼ばれるものです。メサ部分に上下方向の電流を流します。ジョセフソンデバイスは多くの場合、半導体と同様なフォトリソ、エッチングといった工程で加工します。そのため、メサ型が最も簡単に加工できる形状だと思われます。
さて、メサに電圧を印加し電流を流す(交流ジョセフソン効果)とメサはジュール熱で発熱します。当然発熱は素子の特性に大きく影響を与えますが、内部の温度分布を実験的に知ることは困難です。我々は、メサ部分に電圧を印加した場合の内部温度分布や素子の特性の変化をを解析しました。
Mesa型の素子形状。メサ部分に上下方向の電流を印加する。
メサに電圧が印加された状態の素子内部の温度分布を数値計算を用いて解析しました。同時に、素子の電流電圧特性も解析しました。それらの結果から、卒業論文ではより特性の優れた素子形状の提案も行いました(未発表)。
関連する論文が複数出版されています。卒業論文の内容そのものではないものの、非常に強く関連したものです。
Journal
Dai Oikawa, Keita Tsuzuki, Yuki Kumagai, Haruki Mitarai, Hiroya Andoh, Toko Sugiura, Takehiko Tsukamoto , Improvement of Non-Uniform Temperature Distributions in Intrinsic Josephson Junction Stacks , IEEE Transactions on Applied Superconductivity, vol. 31, no. 5, pp. 1-4, (2021).
Dai Oikawa, Haruki Mitarai, Hiromi Tanaka, Keita Tsuzuki, Yuki Kumagai, Toko Sugiura, Hiroya Andoh, Takehiko Tsukamoto, Numerical analysis of temperature and current distributions in large-size intrinsic Josephson junctions with self-heating, AIP Advances Vol.10(8), 085113, (2020).
International Conference
Dai Oikawa, Keita Tsuzuki, Yuki Kumagai, Haruki Mitarai, Hiroya Andoh, Toko Sugiura, Takehiko Tsukamoto, Synchronization of intrinsic Josephson junctions in terahertz electromagnetic wave oscillators with non‐uniform temperature distributions, the 15th European Conference on Applied Superconductivity (EUCAS2021), #320, (Moskva) virtual (2021).
Dai Oikawa, Keita Tsuzuki, Yuki Kumagai, Haruki Mitarai, Hiroya Andoh, Toko Sugiura, Takehiko Tsukamoto, Non-Uniform Temperature Distributions in Intrinsic Josephson Junction Stacks, Applied Superconductivity Conference 2020., Wk2EPo3B-07, (Tampa) virtual (2020).
Domestic Conference
及川 大, 御手洗 陽紀, 都築 啓太,熊谷 勇喜, 安藤 浩哉,杉浦 藤虎, 塚本 武彦, 自己発熱を伴った大型固有接合内部の温度及び電流分布の数値解析, 第81回応用物理学会秋季学術講演会 9p-Z27-24 (2020).
御手洗陽紀, 及川大, 田中博美, 都築啓太, 熊谷勇喜, 安藤浩哉, 杉浦藤虎, 塚本 武彦 ,大型ジョセフソン接合内部の温度分布の数値解析, 第67回応用物理学春季学術講演会 12p-PA3-19 (2020).
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