瀧本岳のホームページ

生物多様性の未来を研究する

生物多様性はどのように生まれ、維持されてきたのでしょうか?人間活動の影響が増すなかで、生物多様性はこれからどのように進化していくのでしょうか?生態学と進化生物学を融合させ理論研究を行い、この疑問に迫ります。数理モデルやコンピュータシミュレーションを用いて、生物多様性を生む種分化のしくみや、複雑な生物群集のダイナミクスを解き明かす理論を構築しています。将来の生物多様性や進化プロセスの保全に役立つ理論を生み出していくことをめざしています。

The future of biodiversity

My research addresses through an integration of ecology and evolutionary biology the mechanisms by which biodiversity evolves and maintains itself. Especially, I would like to know how biodiversity evolves in future under increasing impacts of human activities. I use mathematical models and computer simulations and integrate ecology and evolutionary biology. My favorite topics include speciation mechanisms and ecological community dynamics.

News

相互作用する環境要因が食物連鎖の長さを決める

食物連鎖の長さを決める環境要因として、一次生産性、攪乱、生態系サイズなどの重要性がこれまで指摘されてきました。この論文では、生態系サイズが大きいほど一次生産者間の共存が安定化しやすいことを、数理モデルを用いて示しています。それによって生態系サイズの食物連鎖長への効果が一次生産性や攪乱の効果より強くなるメカニズムを新たに提案しています。また、近年増えつつある一次研究30報のメタ解析から、理論予測に沿った野外パターンを見出しています。数理モデルとメタ解析の両方から、一次生産性や攪乱との相互作用によって生態系サイズの食物連鎖長への効果が現れることを示している点が特徴です。Jimbao Liaoさん(雲南大学)たちとの共同研究です。Ecology Letters誌に掲載されています。

http://dx.doi.org/10.1111/ele.14305

2023.09.18

極端な交配形質によって雑種が種分化する

近縁種の間で交雑が起きると、どちらの親種ともかけ離れた極端な形質を持った雑種個体が生まれることがあります。これを「超越分離(transgressive segregation)」と呼びます。体の大きさや環境耐性が極端になる場合もありますが、オスの体色や模様、鳴き声とそれらに対するメスの好みといった交配に関わる形質が極端になる場合もあります。もし親種となる近縁種の間で継続的に交雑が起きていたら(そのような場所を交雑帯[hybrid zone]と呼びます)、極端な交配形質を持つ個体が継続して生まれることになります。さらに、極端形質を持つ雑種個体どうしの間でのみ交配が起こるようになると、雑種個体のグループは親種とは交配しないので、新しい種として確立することになります。つまり、交雑帯で継続的に交配形質の超越分離が起きると、いずれは雑種種分化が起きることになります。この推測が確からしいことを進化シミュレーションによって確認することができました。この成果は香川さん(国立遺伝研)とSeehausenさん(スイスEAWAG)との共同研究で、Evolution誌に掲載される予定です。オープンアクセスになっています。

https://doi.org/10.1093/evolut/qpad072

2023.06.13

なぜ無性生殖する生物のほうが有性生殖するものより分布拡大しやすいのか?

有性生殖する生物種の地理的分布は無性生殖する近縁種よりも小さいというパターンがあります。有性生殖のほうが新規環境や変動環境への適応は速いはずなので、このパターンは直観に反します。しかし、有性生殖を行う生物には、交配相手を見つける必要や移住荷重といった不利があります。これらの要因を整理し野外パターンが現れる条件を明らかにするモデルを院生の佐藤雄亮さんが考案しました。このモデルから、突然変異率が高く移動分散が盛んな場合には、無性生殖のほうが分布拡大において有利となることが分かりました。逆に、突然変異率が低く移動分散が起きにく状況では、有性生殖のほうが分布拡大しやすいことも発見でき、対応する野外例も見つかりました。この成果はJournal of Evolutionary Biology 誌に掲載されます。オープンアクセスです。

https://doi.org/10.1111/jeb.14161 

2023.03.01

捕食者による送粉者の行動改変が送粉共生系を安定化する

送粉者は植物との共生関係だけに関わっているわけではありません。送粉者をねらう捕食者の存在もよく知られています。しかし、送粉者の捕食が送粉共生系にどんな影響を持つのかはあまり調べられてきませんでした。学生の川田尚平さんの理論研究から、送粉者捕食が送粉共生系の安定化をもたらすことが分かりました。しかし、送粉者が捕食されることそのものによって安定化が起きるわけではありませんでした。捕食者の存在が送粉者の行動を変えることによって安定化が起きていました。この成果はEcological Research 誌に掲載されます。

https://doi.org/10.1111/1440-1703.12376 

2022.12.19

送粉者の学習による植物の生態的種分化

局所環境に適応した植物で送粉者への報酬を増えると、植物の生態的種分化が起きやすくなる可能性を示した理論研究を発表しました。この種分化メカニズムは報酬の多い植物が持つ固有の花形質を送粉者が学習することによります。植物の局所適応や花形質の多型化が起きるタイミングに依存して種分化の成否が決まることもわかりました。この成果がThe American Naturalist誌に掲載されています。論文はオープンアクセスになっています。

https://doi.org/10.1086/721764

2022.12.19

生物多様性と感染症リスク

多くの感染症は蚊やダニなどが病原体を媒介する「ベクター媒介性感染症」です。蚊やダニなどのベクターの多様性によって感染症のリスクが変化する仕組みを理論的に解明しました。ベクター多様性は、感染症リスクを増やす「増幅効果」やリスクを減らす「希釈効果」をもたらします。ベクターどうしの種間関係や、ベクターとホスト(宿主)の個体数の比によって、増幅効果や希釈効果の大きさが決まります。この研究の成果がThe American Naturalist誌に掲載されます。論文はオープンアクセスになっています。

https://doi.org/10.1086/720403

2022.07.16

季節性系外資源の論文がEcological Research誌のTop Cited Article 2020-2021になりました。

森から川の魚に供給される餌資源の量は季節によって変わります。その季節性の影響を理論的に調べた論文がEcological Research誌のTop Cited Article 2020-2021 になりました。同誌の特集号に掲載した論文でした。オープンアクセスになっています。

https://doi.org/10.1111/1440-1703.12098

2022.04.01

大学院生の加藤君が生態学会の最優秀ポスター賞をいただきました。

院生の加藤颯人君が第69回日本生態学会の大会ポスター賞最優秀賞をいただきました。「モデルなきミミックはなぜ生じるか?:捕食者の生得的忌避と移動分散の影響」という発表でした。ベイツ擬態を行う種が擬態のモデルとなる種がいないエリアにも分布している不思議を解こうとした理論研究です。

2022.03.22

メソプレデター・リリース

上位捕食者が減ることによって中位捕食者が増え、下位栄養段階の餌生物が減ってしまうことをメソプレデター・リリース効果といいます。在来上位捕食者の絶滅や、外来上位捕食者の駆除が契機となって起きることがあります。この研究ではメソプレデター・リリース効果が起きるためのシンプルな条件を理論的に導くことができました。論文はオープンアクセスになっています。

https://doi.org/10.1111/oik.09021 

2022.02.28

ストレス環境における種間関係の複雑さが生む群集構造

低温や乾燥、植食動物による採食などは、そこに生息する植物にとっての環境ストレスです。ストレスの少ない環境では、植物種どうしの関係は資源を巡って競合しあう競争関係となりやすいことが知られています。一方、高ストレス環境では、ある植物種の存在が他の植物種の生存や生育にとってメリットとなる例が多くあります。たとえば、乾燥地でも地下深くから水を吸い上げられる植物のまわりでは他の植物もその水を利用できたりします。このように環境ストレスが高くなるほど生物種間の関係が競争的なものから恩恵的なものとなる傾向を指して「ストレス勾配仮説」といいます。この仮説では、中程度のストレス環境で最も多様な植物群集が成立することが予測されます。しかし近年、ストレスの極めて高い環境では生物間の関係はむしろ競争的なものに戻る例も多く報告されており、単純なストレス勾配仮説は成立しないことが分かってきました。この研究では、より複雑な種間相互作用のストレス依存性を考えることで、植物群集の構造がストレスに応答して変化するしくみを明らかにしています。(A. Mougi編「Diversity of Functional Traits and Interactions」の第5章)

http://dx.doi.org/10.1007/978-981-15-7953-0

2020.12.20

生態系間相互作用の季節性と生物群集のダイナミクス

緑の繁る河畔林から河川に落下する陸生無脊椎動物は、夏の間、川に棲む魚の重要な餌資源となります。自然界には、このように、異なる生態系に由来する餌資源に依存する生物が多くいます。しかし、気候変動によって資源流入の季節性が変わるかもしれません。この研究では、他の生態系から供給される資源の季節変動(流入のタイミングや持続性)が、消費者生物を通じて、受け手となる生態系の群集動態に与える影響を数理モデルで解析しています。季節流入する資源に対する消費者の応答が生活史ステージによって異なることが、群集動態への効果に重要であることが分かりました。

http://dx.doi.org/10.1111/1440-1703.12098

2020.02.28