文献案内

   本ページでは、権の研究・興味を正確に理解したい方 向けに、何をどういう順番で勉強していけばよいかをご案内します(権のおすすめする一般教養文献に興味がおありの方は、こちらを参照ください)。読者として想定しているのは、

高校数学までを熱心に勉強された方(バックグラウンドは不問)

です。権の経験した回り道や、他にも読んでおいた方が見え方が豊かになる書籍は極力省略し、必要最小限 を心がけます。

※あくまで権の研究の理解を目的としているため、ここでご案内する文献の選び方・読み方が、必ずしも読者ご自身の探究にとって最善であるとは限りません。特に、それぞれに深い分野の一側面のみをご紹介するような形になってしまいます。論理学や数学一般の文献案内については、読者ご自身の身近で、親身に相談に乗ってくれる方を起点に尋ね回るのがベストだと考えます(数学におけるコミュニケーションの意義については、例えば教材[Thurston]を参照のこと)。

権の関わったProof Complexityの研究について

Krajíček, J. (2019). Proof complexity. Cambridge, UK: Cambridge University Press, Encyclopedia of Mathematics and Its Applications 170.

および

Cook, S., & Nguyen, P. (2010). Logical foundations of proof complexity. New York, NY: Cambridge University Press, Perspectives in Logic.

を読めば(お好きな順番で読まれるとよいと思います)、何を試みようとしているか、間違いなく理解できます(ひょっとしたら、読者ご自身が、残っている問題の解決法を思いつかれるかもしれません)。

  [Cook & Nguyen] を読むためには、数理論理学(の中でも証明論、モデル理論、計算論)の基礎事項、および計算複雑性理論の基本を押さえていれば十分です。

  [Krajíček]を読むには、加えて、グラフ理論、有限モデル理論、Bussの有界算術を押さえておくとよいと思います。Bussの有界算術については、概念を定式化したご本人の

Buss, S.  (1986). Bounded arithmetic. Naples: Bibliopolis, Studies in Proof Theory, Lecture Notes 3.

がよいです。

  なお、[Krajíček]を読む際は、興味のある結果、よく理解できない結果に出会うたびに、該当の章末の参考文献にあたることを強く勧めます。また、著者ご本人のホームページにある「訂正」も適宜参照されるのがよいです

数理論理学の基礎事項

  数理論理学の基本を学ぶには、

新井敏康. (2021). 数学基礎論 増補版, 東京大学出版会.

  がよいと思います。集合論に関するところは読み飛ばしても構いません(興味がおありでしたら絶対に読んでくださいね)。なおこの本は文献案内も大変に充実しています。もしこの本の記述が読者ご自身の肌に合わないならば(これは学びの過程でよくあることだと思います)、この文献案内に沿って、ご自身の趣味に合った本を探すことを強くおすすめします。そして、しばらく学んだら、またこの本に戻ってくることも、おすすめします。きっと、新たな気づきがあるはずです。

  なお、数理論理学もまた数学ですから、数学全体の基本的な概念を予め学んでおくことをおすすめします。具体的には、高校数学に加えて、「集合と位相」「線形代数」「初等的な解析学」(Riemann積分の基本程度)「群論」「環論」「体論」です。いずれも、深い定理を知っている必要はありません。概念の取り扱いに慣れている(基本事項を他人に説明できる)ことが重要です。これらは、大学で数学を学ぶ学生の必修になっているので、教科書も講義資料もたくさんあります。ご自分に合ったものを選び、それぞれ一冊丸々読み切り、演習問題にも取り組まれるのがよいでしょう。

計算複雑性理論の基本

計算複雑性理論の基本に関しては、

Sipser, M. (2013). Introduction to the Theory of Computation, Third edition, Boston, MA: Course Technology.

をおすすめします。もっと学ばれたい方、より広範な知識が必要になってきた方には、

Arora, S., & Barak, B. (2009). Computational Complexity -A Modern Approach-, New York: Cambridge University Press.

をおすすめします

グラフ理論

Diestel, R. (2016). Graph Theory, 5th edition, Heidelberg: Springer-Verlag, Graduate Texts in Mathematics, Volume 173.

がよいです(Infinite Graph Theory, the graph minor theorem関連は読み飛ばしても構いません)。ただし、 [Krajíček]のためにはexpander graphについての知見もあった方がよく、これについては[Arora & Barak]の該当箇所を見るとよいと思います

有限モデル理論

グラフ理論を学んでから取り組まれるのがよいと思います。

Ebbinghaus, H-D., Flum, J. (2006). Finite model theory, Second revised and enlarged edition, Berlin: Springer-Verlag, Springer Monographs in Mathematics.

の「Descriptive Complexity Theory」までを読まれれば十分です。

権の関わったCombinatorial Game Theoryの研究について

Siegel, A. (2013). Combinatorial game theory, Providence, RI: American Mathematical Society, Graduate Studies in Mathematics 146.

のChapter II までを読まれれば十分です。これを理解するにあたっては、「集合と位相」「群論」の初歩を学ばれれば十分です。

権の関わった型理論の研究について

Luo, Z. (1994). Computation and reasoning: a type theory for computer science, Oxford, New York: Claredon Press, Oxford University Press.

のChapter 4までを読まれれば十分です。これを理解するにあたっては、ラムダ計算の初歩、特にChurch-Rosserの定理の証明を理解されているとスムーズです。これに関しては、次の本のAppendixとその関連章がおすすめです:

J.R.Hindley & J.P.Seldin. (2008). Lambda-Calculus and Combinators: An Introduction, New York: Cambridge University Press.