携帯電話や照明、さまざまな分野に応用される有機EL、バックライトの必要な液晶とは異なり、省電力省スペースを実現できる次世代のディスプレイです。これまでは有機化合物が主に使われていましたが、イリジウムを含む金属錯体を使うと、高効率、高輝度の光が得られるとして最近特に注目されています。さらに、小さな分子では真空蒸着という方法でしか作成できなかったものが、高分子になると結晶化しないために塗布することができ、大幅にコストダウン、サイズアップを図ることができます。
この研究では、これまであまり注目されていなかったイリジウム錯体を含む高分子化合物の合成法に着目、新しい合成プロトコルを提案しています。また発光効率を高めるため、新たなイリジウム錯体の合成にもチャレンジしています。
発光錯体は有機ELへの応用もありますが、生体物質の検出プローブとしても最近注目されています。こうした応用への展開も検討中です。
これまで、多くの発光性有機金属イリジウム錯体が開発されてきています。そのなかでも芳香族を3つ連結した三座配位子をもつイリジウム錯体は、特異な発光特性や安定性などが期待されているにもかかわらず、合成の難しさゆえにあまり合成されていません。特にC^C^N三座配位子をもつ錯体については、これまで誰も合成に成功していませんでした。この研究ではピリジル基を利用した選択的C-C酸化的付加を利用して、初めてC^C^N三座配位子錯体の合成に成功し、また、2つの三座配位子からなる中性錯体の合成にも成功しました。これらの発光は意外にも可視領域を越え、近赤外領域に現れました。この結果は細胞にダメージを与えにくい発光検出試薬の開発に役立つかもしれません。
C^C^N三座配位子を持つイリジウム錯体の例(左)と発光スペクトル(右) 近赤外光とは、可視光に近い領域の赤外線のことで、生体の治療や検査などで注目されている光です。
イリジウム錯体をもつ高分子を合成する方法は2通りあります。これまでのほとんどの研究では、イリジウムを含んだ分子を合成し、それを重合させる方法が取られてきました。しかし、重合中にイリジウム錯体が分解する等の可能性がある上、分子量を制御するなどの精密な重合には不向きでした。この研究では分子量を制御して合成した高分子配位子に後からイリジウム錯体を配位させる方法を用いました。この方法は合成が容易なだけでなく、高分子配位子の段階で分子量や組成を制御することができます。発光性を比べた結果、イリジウムユニットが高分子によって隔離された環境になるほど発光強度が強くなることが分かりました。さらにこの研究では、この方法を利用しつつ、より高い導電性をもつ高分子発光体の開発を行っています。
開発したイリジウム錯体ポリマーの例(左)と固体に紫外線を当てて発光させた例(右) もちろん電気を流しても光るようにできます。