今井 淳
タイトル:マグニチュード関数による有限距離空間の特定
アブストラクト:マグニチュードにより有限距離空間が決まるか、という問題を考える。標語的には「対称性が最大または最小のときには決まり、中途半端だと反例がある」ということを説明する。ここで、対称性が最大とは完全グラフ、最小とは二点間の距離が有理数体上独立となる場合のこととする。中途半端な例として、正多角形の頂点集合はマグニチュードで決まる場合と決まらない場合があることも紹介する。
勝正 寛和
タイトル:マグニチュードの連続性と不連続性
アブストラクト:有限距離空間に対して、そのマグニチュードを対応させることによって有限距離空間の集合から実数への関数が定まる。有限距離空間の集合はGromov-Hausdorff位相による位相が入っていると考える。この位相に関して、マグニチュードを対応させる関数は連続でない点を持つことが知られている。特に、1点からなる空間における連続性が問題として考えられてきた。距離空間の1点へのスケール極限をとったときに、そのマグニチュードも1へ収束するとき、これを満たす空間はone-point-propertyをもつという。One-point-propertyをもつための十分条件が[Roff-Yoshinaga 2023]において調べられている。本講演ではこの性質を一般化して、距離空間Yのn点からなる空間Zへのある種の極限をとったときに、ある条件下でそのマグニチュードがZのマグニチュードへ収束するという結果が得られたことを紹介する。
本研究はEmily Roff氏(Edinburgh大学)と吉永正彦氏(大阪大学)との共同研究である。
北別府 悠
タイトル:非崩壊RCD空間上の Shannon 不等式
アブストラクト:Shannon不等式とは, ユークリッド空間上の密度関数を持ち分散有限な確率測度に対して, エントロピーを分散を用いた式で抑えるような不等式のことである. この不等式は Gauss 分布の時に sharp になることが知られていた. 本講演では同様の不等式が非崩壊なRCD(0,N)空間と呼ばれる測度距離空間でも成り立つことと, 不等式が等号になる時には測度距離空間が錐になるという剛性定理について証明のあらすじを述べる.
五味 清紀
タイトル:メトリックグラフの3次マグニチュードホモロジー
アブストラクト:測地的距離空間のマグニチュードホモロジーは, 2次までは具体的に記述できる. また, 測地的距離空間がある非分岐仮定を満たせば, 全次数に渡って具体的な記述ができる. すると次に考えるべき問題は, 非分岐過程を満たさない測地的距離空間の3次以上のマグニチュードホモロジーを, 具体的に記述できるかどうかである. 非分岐過程を満たさない測地的距離空間の例は, グラフに付随したメトリックグラフによって与えることができる. 講演では, 単純連結グラフの3次マグニチュードホモロジーのある直和成分と, 付随したメトリックグラフの3次マグニチュードホモロジーの対応する直和成分が, 同型になることについて話す.
齋藤 琢弥
タイトル:マトロイドの多項式不変量の圏化
アブストラクト:マトロイドとはグラフのサイクルの構造や, ベクトルの集合の線型独立性を一般化した組合せ構造であり, その多項式不変量には豊かな理論が広がっている. 例えばグラフの彩色/flow多項式, 超平面配置の特性多項式, 線形符号の重さ多項式などの不変量はマトロイドを通じて統一的に扱われる. 本講演では, マトロイドの多項式不変量のKhovanovホモロジーのアナロジーとしての圏化を紹介する. ところで線形符号は有限等質距離空間の側面も持つ. そのマグニチュードは重さ多項式の逆数として計算できることも紹介したい. 本研究は福岡大学山形颯氏との共同研究に基づく.
平良 晃一
タイトル:マグニチュードの1点性とCayley-Menger行列式
アブストラクト:本講演では, マグニチュードの1点性と呼ばれる性質に関連して得られた結果を紹介する. マグニチュードは距離空間(X,d)の有効点の個数を表していると考えられるため, 各点間の距離を一様に0につぶしたときのマグニチュードの値は1に収束することが期待され, この性質を1点性を呼ぶ. Willertonは1点性が成り立たないような6点距離空間の例を構成し, Roff-Yoshinagaは有限距離空間はgenericには1点性を持つこと, 及び一般にはマグニチュードの極限がどんな1以上の実数にも収束し得ることを証明した. その論文内で提起された問題の1つとして, マグニチュードの極限が1より小さくなる場合があるのか, というものが挙げられる. この講演では, Roff-Yoshinagaによって導入された1点性の障害となる条件が, ルート距離空間(X,\sqrt{d})のCayley-Menger行列式を用いて表されることを示し, その応用として6点以下の距離空間のマグニチュードの極限について得られた結果を述べる. より具体的には, 4点距離空間が1点性を持つことの別証明を与え, 更に5点距離空間とほとんど全ての6点距離空間のマグニチュードの極限が1以上になることを証明する. これは浅尾泰彦氏(福岡大学)との共同研究である.
田嶌 優
タイトル:Magnitude homology of metric fibrations
アブストラクト:Leinsterはmetric fibrationの概念を導入し、metric fibrationの構造をもつ(有限)距離空間のマグニチュードが、底空間とファイバーのマグニチュードの積と等しいことを示した。本講演では、同様のことがマグニチュードホモロジーのレベルでも成り立つことを紹介する。本講演は浅尾泰彦氏、吉永正彦氏との共同研究に基づく。
Tong Yichen
タイトル:On the fundamental groups and the magnitude-path spectral sequence of a directed graph
アブストラクト:The fundamental group and the path homology of a directed graph are introduced by Grigor'yan, Lin, Muranov, and Yau, and are related through the Hurewicz theorem. Later, Di, Ivanov, Mukoseev, and Zhang showed that the fundamental group admits a natural sequence of quotient groups called r-fundamental groups, which captures the quasi-metric structure of a directed graph that the fundamental group cannot capture. On the other hand, the magnitude-path spectral sequence connects the magnitude homology and path homology of a directed graph due to Asao, and it may be thought of as a sequence of homology of a directed graph. In this talk, we study the relations of the r-fundamental groups and the magnitude-path spectral sequence through the Hurewicz theorem and the Seifert-van Kampen theorem.
橋本 義規
タイトル:Kempf--Ness theorem and a Hilbert--Mumford criterion for nilsolitons
アブストラクト:Whether a given manifold admits an optimal Riemannian metric is a natural but difficult problem in Riemannian geometry. When the manifold is a smooth projective variety, the existence of Kähler--Einstein metrics is known to be equivalent to an algebro-geometric stability condition defined in terms of the Hilbert--Mumford criterion in Geometric Invariant Theory, which can be regraded as an infinite dimensional version of the Kempf--Ness theorem. The first part of this talk is a very rapid survey of this theory, with an emphasis on the classical, finite dimensional version of the Kempf--Ness theorem. In the second part, we find another class of manifolds for which a similar criterion can be used to determine the existence of an optimal Riemannian metric. More precisely, we prove that a nilsoliton, i.e. a left-invariant Ricci soliton on a nilpotent Lie group, exists if and only if the associated Lie algebra satisfies an algebraic condition analogous to the Hilbert--Mumford criterion.
平井 広志
タイトル:距離空間の tight span について
アブストラクト:距離空間 X に対して tight span(または injective hull)と呼ばれる距離空間 T_Xが決まり, もとの空間XはT_Xに等長的に埋め込まれる. 有限距離空間Xに対しては, T_Xは多面体を貼り合わせた可縮な空間となり, Xの様々な組合せ的性質が反映される. 例えば, Xが木距離(ツリーに埋め込まれる)のときは, Xはそのツリーになる. この概念は, Isbell 1964 によって, カテゴリー論の観点から導入され, 何度も再発見されてきた. 例えば, Dress 1984 は, tight spanを数理系統学の動機から発見しているが, 生物種間のDNA距離行列から決まるtight spanは「進化系統樹的なもの」とみなせる. そして, スプリット分解(Bandelt & Dress 1992)と呼ばれる系統ネットワーク構成アルゴリズムを生み出している. その後も, tight spanはトロピカル幾何との関連や幾何学的群論への応用が見いだされている. 講演では,距離空間の tight span とその性質や応用, 自身が関わった研究(三角不等式/対称性を満たすとは限らない距離への拡張や離散最適化への応用)について紹介する.
若月 駿
タイトル:Computation of the magnitude homology as a derived functor
アブストラクト:Asao-Ivanov showed that the magnitude homology of a finite metric space is isomorphic to the derived functor Tor over some ring. In this talk, I will explain an application of the theory of minimal projective resolution to this derived functor. Especially in the case of a geodetic graph, torsion-freeness and a criterion for diagonality of the magnitude homology are established. Moreover, I will give computational examples including cyclic graphs. This is a joint work with Yasuhiko Asao.