研究紹介
1.新しい原理による環境応答性を有する構造色材料の開発
粒子の規則的な配列構造による光の干渉で着色を示す構造色は、耐久性や発色の鮮やかさなどで注目を集めています。特に単分散の球状粒子の細密充填構造を利用した構造色材料が広く研究されています。この場合、構造色を制御するには、球状粒子の粒径を制御する必要があります。また、xyzの3方向の積層周期を厳密にコントロールする必要がります。
●層状チタン酸板状粒子ーグリセリン交互積層体
我々は、二次元的異方性を有する板状粒子の一次元積層構造体による構造色材料を開発しました。層状チタン酸などの板状粒子表面を糖誘導体で修飾することで水素結合形成な水やグリセリンなどの溶媒分子と板状粒子が水素結合で複合構造を形成し規則正しく層状チタン酸板状粒子が積層した構造を形成することを見出しました。さらにその積層間隔は、複合化するグリセリンなどの添加量で自由に制御できます。
グリセリンとグルコン酸複合化粒子の複合積層体の
UV-VIS透過率スペクトル
層状チタン酸ゾルを乾燥すると膜状乾燥体が得られます。この膜状乾燥体は層状チタン酸板状粒子の粒子間空隙に水を吸収して膨潤ゲル化し最終的には開講してゾルへと戻り可逆的に乾燥と解膠ゾル化を繰り返すことが出来ます。
●酸化セリウムーソルビトール複合体の湿度応答構造色
板状形態を有する酸化セリウム(CeO2)ナノ粒子分散ゾルにソルビトールを溶解しガラス基板上で乾燥すると右図の様な黄色透明な膜が得られます。この薄膜中には細孔径が3nm~5nm程のメソ孔が存在しそこへ水蒸気が凝縮すると屈折率が変化して湿度に依存した鮮やかな構造色を発色します。
湿度センサーや化粧品などへの応用が期待されます。
図 酸化セリウムーソルビトール複合体膜の透過率スペクトルの湿度依存性
湿度応答性構造色を発現する酸化セリウム薄膜の紹介動画です。
2.アルコキシドを用いない溶液攪拌と透析を用いた新しいゾル・ゲルプロセスの開発と応用
アルコキシドは金属塩化物とアルコールの反応で合成されます。我々は、金属塩化物から直接ゲルやゾルを100℃以下の常圧条件下の反応で調製し機能性薄膜作製などに応用する手法を開発しました。
●高い安定性を有するチタン酸化物ナノ粒子分散ゾルの調製とNbドーピングによる物性制御
アナターゼTiO2ゾル
アナターゼTiO2ゲル
ゾル・ゲル中粒子のXRDパターン
塩化チタンと塩化ニオブ(NbCl5)を原料として用い上記と同じ合成方法でNbドープTiO2ゾルやゲルをNbドープ量が30atomic%までの広い組成領域で溶液の攪拌と透析で簡単に合成できます。
TiO2ナノ粒子
Nb10%ドープTiO2ナノ粒子
●酸化セリウムナノ粒子分散ゾルとフォトクロミズム特性
硝酸セリウム(Ce(NO3)3)のエチレングリコールやジエチレングリコール溶液にアンモニア水を加え75℃で静置した後で透析を行うことでCeO2ナノ粒子が安定に分散し高い透明性を有するゾルを得ることができる合成法を開発しました。また、反応温度などを変えることで球状CeO2粒子も簡単に合成できます。化粧品などのUVカット材や精密研磨材料としての応用が期待されます。
CeO2ゾル
球状CeO2粒子のフォトクロミズム
CeO2ナノ粒子に365nmのUV光を照射すると黄色から褐色へ着色が変化します。
3.形態や大きさの制御された粒子の特性を生かした機能性薄膜の開発
●配向制御AlドープZnO薄膜の溶液法での作製法開発
AlドープZnO薄膜は透明導電性薄膜や赤外線遮断膜などとしての応用の期待されている材料です。物性の制御のためには薄膜中のZnO結晶子の配向の制御が必要となります。
我々の研究グループでは、溶液のガラス基板上でのコーティングによる非常に簡便な方法で高度に配向制御されたAlドープZnO薄膜を作製する方法について検討を進めています。糖誘導体を用いた簡単な合成法により層状複水酸化物(LDH)粒子を得て95℃での低温加熱処理で、下の写真のような粒径の揃ったロッド状ZnO粒子や円盤状のLDH粒子を得ることに成功しています
下図のXRDで示した様に糖により分散安定化したLDHゾルを使うことで、(002)配向または(100)配向を有するZnO薄膜を自由に作り分けることができす。
LDHに糖または糖アルコールを複合化した粒子を基板上で製膜し塩基水溶液中で常圧下で加熱処理すると酸化亜鉛膜に変換されます。左のSEMの様にZnOのロッド状粒子が配向した構造などが自発的に形成されます。
●ZnO球状二次粒子による構造色材料
硝酸Znのエチレングリコール溶液に塩基を加えると粒径の揃ったZnOの球状粒子を簡単に合成することが出来ます。このZnO球状粒子が分散した溶液を基板上で乾燥するのみで粒径で決まる波長で光を散乱する構造色を発する膜が得られます。
4.無機ナノ粒子の光変換反応
有機分子では、光照射による分子の励起で分子の構造が変化する現象が多々知られていますが、無機粒子でも光照射 により粒径や形結晶構造が変化する場合があります。我々の研究グループでは、Zn酸化物やCe酸化物について光照射による光溶解現象とそれに続く再析出過程を制御して光により粒径・形態・物性を制御する手法について検討しています。
●酸化セリウムナノ粒子の光溶解および光変換反応
・酸化セリウムゾルへのUV光照射によるXRDパターンの変化
・酸化セリウムゾルへのUV光照射による粒径・形態の変化
酸化セリウムCeO2ナノ粒子へUV光を照射すると、光溶解と再析出過程が促進され全く異なる結晶構造を持つ化合物へと変換される新しい現象を発見しました。
●酸化亜鉛ゾルへの光照射による物性制御
ZnOゾルへの光照射により蛍光発光特性を制御できることを見出しました。以下の写真の様な緑色発光の状態と青色発光の状態を制御できます。