研究内容 / Research Topics

量子光学・情報光学の協奏

光には粒子と波動の二面性を持ち、その変幻自在な振る舞いは多くの研究者を悩ますと同時に魅了してきました。

光の粒子性は、量子力学を基本原理として理解でき、量子光学や量子エレクトロニクスといった分野を発展させてきました。また、量子情報処理や量子情報通信といった従来の計算・通信技術を完全に凌駕する技術革新が急速に進み、高度な未来社会に向けた新しい量子技術が注目されています。

一方、光の干渉や回折を生み出す波動性は、電磁気学理論のマックスウェルの方程式を基本原理として理解することができます。光の振幅と位相の双方を制御・操作することで光のもつ情報を忠実に記録・再生したり、光に新たな情報・価値を付与したりすることで光通信や光情報科学といった分野に技術革新がもたらされています。

本研究室では量子光学と情報光学の二つの立場から光の本質を見つめ直し、それぞれの立場で行ってきた研究を融合・協奏することで、新しい原理に基づく独自の革新技術を見出し応用することを目指します。 

森田グループ
幾何学構造をもつ光子と電子スピンを用いた新しい量子技術の創成-


量子情報処理や量子情報通信は究極の量子技術で、社会に大きな変革をもたらと考えられています。こうした量子情報科学における主役量子ビットです。量子ビットにはいくつかの種類があり、中でも「光子」は伝送を得意とし、半導体中の「電子スピン」は、記録・演算を得意としています。また、光子と電子スピンはスピン角運動量を共通に持ち、光子はポアンカレ球の偏光状態として、また電子スピンはブロッホ球のスピンの向きとして2次元の量子空間上で表されます。 


量子技術の本質は、基底状態の重ね合わせと、異なる粒子間のエンタングルメント(22年ノーベル物理学賞)です。光子や電子スピンといった異なる量子メディア媒体間で、重ね合わせ状態をつなげたり、それらのエンタングルメントを実証する探索的な研究は、将来の絶対に安全な量子暗号通信や量子インターネットの構築を可能とします。


最近、幾何学的な空間構造を持つ新たな光が注目されるようになりました。この新しいタイプの光は、スピン角運動量だけでなく、空間構造の起源である軌道角運動量を持ちあわせています。また、単一光子として存在することができ、エンタングルする性質も持ち、従来の光子(ガウス光子)と同様、量子力学的な性質を持っています。空間的に広がった幾何学構造を持つ光子状態が重ね合わせやエンタングルといった性質を持つことは驚くべきことで、この幾何学構造をもつ光子を我々は「高次光子」と呼んでいます。高次光子は、一つの光子の中に多くの量子力学的な情報を詰め込むことができ、より高度な量子情報通信への活用が期待できます

森田グループではこれまで、スピン角運動量しか持たないガウス光パルスを半導体量子構造に照射することで電子スピンを光励起し、それを制御する研究を行ってきました。これらの研究は、半導体スピントロニクスデバイスの中で電子スピンがどのように振る舞い、どのように利用できるのかを追求するもので、成果をあげてきました。つい最近、我々は幾何学構造を持つ光子を利用し、幾何学構造を持つ電子スピン存在を明らかにしつつあります。このような新たな電子スピンは高次元の量子空間上の量子状態と見なすことができ、より多くの量子情報の記憶・操作・通信に利用できる可能性を秘めています。

我々は、空間幾何学構造を持つ新たな光子と電子スピンに着目し、量子力学的な重ね合わせやエンタングルメントに関する研究を進めます。そして高次元の量子空間上で繰り広げられる新しい量子技術を創成します。

角江グループ
-情報光学に基づく新たな光制御/光計測/光可視化技術の創成-

時間超解像ホログラフィック動画イメージング

ハイスピードカメラによる動画撮影は,スポーツ中継などの身近な例だけでなく,工場内の生産ラインにおける検品など,様々な場面で利用されています。高速に動く撮影対象の時間的な変化を正確に捉えるためには,より高速な撮影速度(フレームレート)が要求されます。本研究グループでは,ハイスピードカメラ自身の性能を超えたフレームレートで高速に動画撮影が可能な技術(時間超解像動画撮影法)を,光の波動性を利用した技術(ホログラフィ)によって実現しています。レーザ光源を用いるホログラフィだけでなく,LED光源を用いるインコヒーレントホログラフィも利用することで,幅広い分野への応用を考えています。

研究紹介用の動画
(共同研究者の下馬場朋禄先生とともに,所属する電気電子工学コースの紹介用に作成)


研究紹介用の動画
NEDO「官民による若手研究者発掘支援事業 」研究シーズ

ホログラフィック完全光渦生成

光渦と呼ばれる特殊な光は,光の円偏光(自転)に対応するスピン角運動量と,渦(公転)に対応する軌道角運動量の両方を併せ持っています。一般的な光渦は,動径方向の光強度分布(光渦のリング径)が軌道角運動量に依存しているため,軌道角運動量の異なる複数の光渦を同一のリング径で重ね合わせることが困難でした。研究グループでは,下図に示す完全光渦(perfect optical vortex)と呼ばれる光渦に着目し,完全光渦を光の波動性を利用した技術(ホログラフィ)によって生成する手法の研究に取り組んでいます。将来的には,生成した完全光渦によって高次光子や電子スピンを制御することを目指しています。

ホログラフィック完全光渦生成のシミュレーション結果
http://dx.doi.org/10.1364/OL.40.000597を基に計算)

超高速(光速)ホログラフィックイメージング

光速はこの世でもっとも高速であり,秒速約30万kmです。1ナノ秒の間に30cmも進みます。このように光速は超高速なので,光が伝播する様子を動画撮影することは,ハイスピードカメラをもってしても極めて困難です。研究グループでは,光の波動性を利用した技術(ホログラフィ)とフェムト(=1000兆分の1)秒領域の超短光パルスレーザとを組み合わせた,光が伝播する様子のスローモーション動画像撮影法に関する研究に取り組んでいます。光の伝播だけでなく様々な超高速現象も可視化できる光速イメージング法の実現に向けた技術革新に挑戦しています。

光伝播のスローモーション動画から抜き出した6コマの画像の例
(a) 実験結果,(b) シミュレーション結果
https://doi.org/10.1364/JOSAA.441585より引用)