SE-Dome アイスコアプロジェクト 

世界一の確度をもつ過去200年間の沈着エアロゾルのデータベース創成と変遷解明
JSPS科研費(18H05292)2018〜2022年度

 更新情報

2023年8月8-10日:SE-Dome II アイスコア研究会 in 低温研

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プレスリリース:グリーンランド氷床南東部高地の夏期融解量の増加を復元 〜グリーンランド南東ドームアイスコアの高精度年代の構築〜(低温科学研究所 准教授 飯塚芳徳)

●グリーンランド南東部アイスコアの1799年~2020年の年代スケールを半年という高精度で確立。

●北極域の温暖化に伴って過去221年間の夏季積雪融解量が増加したことを復元。

●融解量増加の実測は観測点の少ない内陸高地の温暖化メカニズムの解明に貢献。

北海道大学低温科学研究所の川上 薫非常勤研究員、飯塚芳徳准教授、的場澄人助教、北見工業大学の堀 彰准教授、金沢大学環日本海域環境研究センターの石野咲子助教、国立極地研究所先端研究推進系の藤田秀二教授、青木輝夫特任教授、川村賢二准教授、名古屋大学大学院環境学研究科の藤田耕史教授、植村 立准教授、弘前大学大学院理工学研究科の堀内一穂准教授らの研究グループは、2021年に掘削したグリーンランド氷床南東部アイスコアの高精度年代スケールを構築し、産業革命前から現在にかけての夏季積雪融解量が北極域の温暖化に伴い増加したことを解明しました。

近年、北極域では地球全体を上回るペースで気温が上昇しています。今回研究グループは、複数の物理・化学的な解析から、グリーンランド氷床南東部のアイスコアの1799年から2020年にかけての時間スケールを、半年解像度という高精度での確立に成功しました。そして確立された年代を元に過去221年の降水量と夏季融解層の厚さを復元しました。その結果グリーンランド南東部では、年降水量は過去221年間にわたり減少も増加も示さず有意な傾向は見られませんでしたが、融解層の厚さは北極域の温暖化に伴い19世紀から21世紀にかけて増加していることが明らかになりました(下図)。本研究結果は、産業革命(1850年)前から現在において、温暖化によりグリーンランドの内陸高地で夏季積雪融解量が増加していることを実証しました。今後、得られた地上真値を用いた長期間の領域気候モデルや衛星観測データの検証から、地球気温の将来予測の精度を高めることが期待されます。

なお、本研究成果は、2023年10月13日(金)公開のJournal of Geophysical Research, Atmospheres誌に掲載されました。

論文名:SE-Dome Ⅱ ice core dating with half-year precision: Increasing melting events from 1799 to 2020 in southeastern Greenland(SE-Dome Ⅱアイス コアの半年精度の年代構築:グリーンランド南東部における1799年から2020年までの融解イベントの増加)

URL:https://doi.org/10.1029/2023JD038874


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グリーンランド南東部アイスコアに含まれる1年あたりの融解層の厚さ、再解析データによる南東部の夏の平均気温、北極域の気温の偏差

プレスリリース:北極の海氷融解の早期化が夏の植物プランクトンを増殖~夏に海洋プランクトンが大気へ放出するエアロゾルの増加をアイスコアから検出~(低温科学研究所 助教 的場澄人)

北海道大学低温科学研究所附属環オホーツク観測研究センターの的場澄人助教、同研究所の飯塚芳徳准教授らの研究グループは、グリーンランドで採取されたアイスコア中の化学成分の分析を行い、2002年以降、夏に海洋プランクトンの増殖によって海洋から大気へ放出される硫黄化合物(メタンスルホン酸)の濃度が、それ以前と比べて3〜6倍増加していることを検出し、海氷の融解時期が早期化したことがその要因であることを示しました。

大気中に浮遊する不純物(エアロゾル)の組成や濃度は、それを採取・分析する必要がありますが、長期間のデータは非常に少なく、特に北極域では殆どありません。氷床には、大気中のエアロゾルを含む雪が連続的に降り積もっています。氷床を表面から深部に向かって円柱状にくり抜いて採取されるアイスコアに含まれる化学成分は、大気中のエアロゾルの連続的な変化を反映し、長期間のエアロゾルの変化を復元することができます。

アイスコア中の夏のメタンスルホン酸濃度は、2002年から増加し始めました。それと連動してグリーンランド東部沖の海氷が融解する時期が約1ヶ月早くなり、夏に植物プランクトンの増殖が見られることが、人工衛星データとの比較から分かりました。温暖化が引き起こす海氷融解の早期化は、海洋表層の成層化、海水中に届く太陽光の増加、海氷に付着している藻類(アイスアルジー)の再配布などを生じ、植物プラントンの増殖を促進するプロセスが提案されていましたが、本結果は、夏の海洋プランクトンの増殖による海洋から大気への硫黄化合物の放出量が実際に増加している観測的証拠を初めて示しました。

大気中の硫黄化合物は雲の形成に重要であり、地球の気温をコントロールする放射収支に大きく影響します。本研究の成果は、地球温暖化のメカニズムを理解する上で重要なプロセスを示すもので、将来予測の精度向上に寄与することが期待されます。

なお本研究成果は、2022年12月26日(月)公開のCommunications Earth & Environment誌に掲載されました。

論文名:Increased oceanic dimethyl sulfide emissions in areas of sea ice retreat inferred from a Greenland ice core(グリーンランド氷床コアから推定された海氷後退域における海洋性硫化ジメチル排出の増加)

URL:https://doi.org/10.1038/s43247-022-00661-w

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プレスリリース:1970年代の硫酸エアロゾルの粒径復元にはじめて成功~硫酸エアロゾルが雲をつくる作用の解明による、地球温暖化メカニズム研究の進展に期待~(低温科学研究所 准教授 飯塚芳徳)

 北海道大学低温科学研究所の飯塚芳徳准教授らの研究グループはグリーンランドのアイスコアに保存されている硫酸エアロゾルの粒径分布の復元にはじめて成功し、人為硫黄酸化物の排出最盛期である1970年代の硫酸エアロゾルは主に0.4µmより小さかったことを解明しました。

 硫酸エアロゾルの組成や粒径分布は、地球の放射収支を考える上で重要な要素です。しかし、過去の硫酸エアロゾルの組成や粒径分布については、信頼できる観測がないためほとんど情報がなく、過去のエアロゾルの組成と輸送をモデル化することに不確実性が大きいのが現状です。今回、研究グループは、グリーンランドのアイスコアに保存されている硫酸エアロゾルの粒径分布の復元に成功し、1970年代に北極で小さな硫酸塩粒子が増加したことを示す最初の観測的証拠を提示しました。今回の研究結果はエアロゾルと雲の相互作用の理解を深めるとともに、モデルにおけるパラメータ設定に新たな制約を与えるものです。これは、地球温暖化のメカニズムの理解向上につながり、将来予測の精度を高めることが期待されます。

なお、本研究成果は、2022年8月25日(木)公開のJournal of Geophysical Research, Atmospheres誌に掲載されました。

論文名:High flux of small sulfate aerosols during the 1970s reconstructed from the SE-Dome ice core in Greenland(グリーンランド南東ドームアイスコアから復元された1970年代の小粒径硫酸エアロゾルの高フラックス)

URL:https://doi.org/10.1029/2022JD036880

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2022年11月7-9日:SE-Dome II アイスコア研究会 in 函館

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プロジェクトのミッション

本研究の目的は

これらの成果は確度の高いデータベースの提供することで環境変動予測の高度化に寄与し、その結果としてIPCCなどグローバルな環境政策に貢献する。

公開したエアロゾルデータベースは北海道大学情報公開サイトHUSCUP(https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/67127)にアップロードされています。

研究の背景と目的

2017年のIPCCのレポートによれば、地球温暖化に対する人為的貢献は、地球を温暖化させる要因である温室効果ガスと、寒冷化させる要因である大気エアロゾルに大別される。これらの人為的貢献要素のうち科学的理解度が最も低い要素は、水溶性(吸湿性)エアロゾルが雲核となり雲アルベドに与える効果である。水溶性エアロゾルの雲アルベドに与える効果の信頼度向上は、地球温暖化に対する人的寄与全体の評価の精度向上につながる。

 水溶性エアロゾルが雲アルベドに与える効果を評価するには、過去から現在までのエアロゾルの質的量的な変遷を高精度で復元することが重要である。寒冷圏の雪氷は年々の堆積を通じて沈着したエアロゾルを保存している唯一古環境媒体であり、なかでも北極圏グリーンランド氷床のアイスコアは人為起源エアロゾルの排出源に近く、エアロゾル変遷の評価に最適である。

 本研究は、グリーンランド氷床でエアロゾルの保存状態が最良である南東ドーム地域で250m長のアイスコアを掘削し、世界で最も角度の高い200年間のエアロゾルのデータベースを構築するとともに、エアロゾルと気温の関係解明を目的とする。

研究の方法

2014-17年度に科研費(基盤A)プロジェクト「グリーンランド氷床コアに含まれる水溶性エアロゾルを用いた人為的気温変動の解読」を推進してきた。グリーンランド氷床ドームの中で最も涵養量の多い南東ドームで90mのアイスコアを掘削し、過去60年間の水溶性エアロゾルの変遷とその機構を解明してきた。このプロジェクトでの重要な成果の一つは、この南東ドーム地域がその涵養量の高さから揮発性の硝酸エアロゾルを保存している氷床ドームであることが判明したことである。我々はこの南東ドームで少なくとも1850年から2020年まで(Anthropocene)のエアロゾルの変遷を追跡するための新たなアイスコアを取得する。具体的には2020年(2021年に延期)にこの地域で過去200年間の古環境情報を有する250m長のアイスコアを掘削する。

 250m長のアイスコアからエアロゾル輸送モデルでよく用いられている硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、海塩、ダスト、ブラックカーボン、有機物を分析し、各エアロゾル濃度の沈着量データベースを構築する。また、我々がこれまで培ってきたアイスコアからエアロゾルを分析する手法を駆使し、エアロゾル粒子の混合状態の変遷を復元する。

期待される成果と意義

 世界で最も信頼できるAnthropoceneの各種エアロゾルの沈着量のデータベースを公開する。これは、気候モデル分野への信頼できるデータベースの提供につながり、地球温暖化の将来予測の精度向上が期待される。また、エアロゾル粒子の混合状態の変遷を解読することで、エアロゾルの気温への貢献に関する理解の高度化につながることが期待される。

研究組織

研究代表
飯塚芳徳:北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (96030638) 

研究分担者

 

お問い合わせ

プロジェクトについて、詳しくはiizuka -at-- lowtem.hokudai.ac.jpまでお問い合わせください。