児童養護施設や里親家庭など,社会的養護を要する子どもたち,虐待を始めとする児童期の逆境体験(Adverse childhood experiences :ACEs)を経験した子どもたちはトラウマやアタッチメントの問題など,子ども時代だけではなく,その後の育ちにも困難を抱えることになります。そうした子どもたちや若者に対する心理的ケアについての実践や研究に取り組みます。特にトラウマなどの問題の消去だけではなく,生活や教育とも連動して,彼らのwell beingに心理学がどう貢献できるのかについて探求していきます。
またこうした育ちのプロセスを考えるうえで自立,移行は大きな課題になります。すなわち児童養護施設や里親家庭で暮らす子どもたちはおおむね18歳を過ぎると公的なケアから離れ,自立していかなければなりません。これまでにも彼らに対する自立支援が行われてきましたが,そうした支援の多くは退所間際になって,スキルや知識を身につけさせるようなものが中心で,彼らがどのように生きていきたいかということについて十分に考える視点を取り入れてきませんでした。私たちは構成主義的キャリアカウンセリングや時間的展望療法の理論をもとにして,彼らが主体的に自立に取り組むことができるような自立支援の開発,実践に取り組んでいます。
井出智博(2019)成人前期の児童養護施設出身者におけるレジリエンスの保護・促進要因の探索 ―レジリエントへのインタビュー調査を通して,子どもの虐待とネグレクト 21/2,219-228
井出智博,片山由季,森岡真樹(2019)児童養護施設における将来展望を育む自立支援についての実践研究,子どもの虐待とネグレクト 20/3,359-368・井出智博(2005)「ほどよいがっかり」を求めたクライエントとの面接過程--思春期の心理療法,心理臨床研究,1(1),55-60.
井出智博,村山正治(2008)児童養護施設児童に対する集団法によるClearing a Space適用の試み--児童養護施設心理職による実践とその効果についての実証的・事例的検討,心理臨床学研究 26(1) ,35-45.
井出智博,森岡真樹,後藤洋子(2014)不適切な養育を受けた子どもへの学習支援 : 学習支援者との関係性に焦点を当てた児童養護施設における実践についての検討,静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学篇,65(65),49-64.
井出智博(2016)虐待を受けた児童を担任する際に教師はどのようなことに取り組むのか : 『シーラという子』の分析を通して,静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学篇,67(67),59-73.
井出智博,森岡真樹,八木孝憲(2015)静岡県における学校と児童養護施設の連携に関する調査研究,静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学篇,65(66),27-42.
井出智博(2017)児童養護施設で暮らす子どものレジリエンスの特徴,福祉心理学研究 14/1,44-53
井出智博(2019)成人前期の児童養護施設出身者におけるレジリエンスの保護・促進要因の探索 ―レジリエントへのインタビュー調査を通して,子どもの虐待とネグレクト 21/2,219-228
井出智博,片山由季,森岡真樹(2019)児童養護施設における将来展望を育む自立支援についての実践研究,子どもの虐待とネグレクト 20/3,359-368
井出智博,蔵岡智子,高岸幸弘,野田眞紀,疋田忠寛(2004)生活場面を活かした心理治療 -情短施設における3年間の実践,心理治療と治療教育,15,80-92.
井出智博(2021)社会的養護を要する子ども・若者への時間的展望療法(Time Perspective Therapy)適用の可能性と課題についての理論的検討,北海道大学大学院教育学研究院臨床心理発達相談室紀要 4,17-36
井出智博(2021)社会的養護を経験した若者にとってのオンラインでのつながり,人間性心理学研究 39/1,37-44
井出智博(2021)特別支援学級・支援学校に通う子どもを養育する里親は子どもの自立について何を考えているのか-テキストマイニングによる分析を通して-,子どもの虐待とネグレクト,23/1,91-98
IFCAプロジェクトC, 原田理沙, 長瀬正子, 井出智博(2021)COVID-19感染拡大下の社会的養護経験者の実情と必要な支援 一当事者の声に基づいた提言一,福祉心理学研究 18/1,6-13
井出智博(2022)おとなへの移行を支える心理支援,世界の児童と母性 91,29-32
井出智博(2022)困難な状況にある子どもへの心理支援とウェルビーイング,世界の児童と母性 92,52-55
井出智博(2022)児童期逆境体験を経験した 子ども、若者のレジリエンス,こころの健康 37(1),64-71
井出智博(2022)社会的養護からの自立を支えるために必要な視点,こころの健康 37(1),38-42.
井出智博,佐藤葵(2023)社会的養護経験者が必要だと考える自立支援の内容―質的研究による探索― ,子ども家庭福祉学 23,1-13.
大切な人との別れ,喪失体験というと,死を伴う別れを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし私たちが経験する喪失の中には死を伴わない喪失もあります。
様々な理由で家族と一緒に暮らすことが難しい子どもたち,例えば里親家庭や施設などの社会的養護下で暮らす子どもたちは,保護されるという経験を通して,家族や住み慣れた環境,友人などとの別れを経験しています。これらは死を伴わない喪失と言えるでしょう。
こうした死を伴わない喪失は,死を伴う喪失よりも社会的に認知されづらく,認知されてもその影響が過少に評価されてしまうことがあります。しかし,実際にはいつまでに癒えない傷となり,彼らの暮らしや育ちに深刻なダメージを与えることにつながっていくのです。
また,この時里親や施設職員といった代替養育者も様々な形での喪失を経験していることを忘れるわけにはいきません。
このプロジェクトでは喪失を経験した子どもが正当にそのことを悲しみ,慰められ,乗り越えていけるような支援が提供されるよう,代替養育者や支援者,あるいは社会制度といった観点を含めて社会的養護に内在する喪失とそれに伴う悲嘆の影響を捉え,必要なケアの在り方について検討します。
井出智博(2022)社会的養護に内在する喪失とそれに伴う悲嘆についての包括的理解と支援に関する理論的検討,北海道大学大学院教育学研究院臨床心理発達相談室紀要 5,33-47.
2022 年度 公益財団法人前川財団 家庭・地域教育助成「里親が経験する喪失についての調査」報告書
井出智博(2023)"支援者としての里親"を支援するフォスタリング機関の取り組み,子どもの虐待とネグレクト 25(3),305-311
「貧困」,あるいは「経済的困窮」「生活苦」「生活困難」「経済格差」といったような言葉で表現されるような困難を背景に持つ人々への心理支援について,米国心理学会(American psychological Association:APA)は『The APA Guidelines for Psychological Practice for People with Low-Income and Economic Marginalization』(American Psychological Association,2019)というガイドラインを策定し,その中でこのような問題が様々な言葉で表現されてきたことを問題視し,「Low-Income and Economic Marginalization」(低所得と経済的疎外:LIEM)と包括的に表現し,共通言語化することを提唱しています。
日本では国民の6人に1人が貧困ライン以下での生活を余儀なくされていますが,従来,心理支援者の育成においてはLIEMの問題が扱われることはほとんどありませんでした。その背景には,クライエントの多くは貧困を主訴としてカウンセラーの前に現れるのではなく,様々な問題の背景に「貧困」が影響していることが多いという現状があると言われています。こうした中,クライエントの相談の中に「貧困」,すなわち現実的な困り感や貧困ゆえに経験されるスティグマの問題などが隠されていることに気付けるかどうかは心理支援者自身の”気づき”に大きく左右されることになります。
LIEMを背景に持つ人々に対して心理支援者には何ができるのか?という問いを立て,有効な支援の内容やそうした支援を行える支援者の育成について取り組みたいと考えています。
「LIEMを背景に持つクライエントへの心理支援の現状と課題について」報告書(2023(令和5)年度科研報告書)
「心理支援者は社会正義のために何ができるのか?」という問いのもと,社会的排除を経験した人たちに対して公認心理師や臨床心理士がどのような役割を果たすことができるのか,果たす必要があるのかということを探究し,日本の心理臨床におけるアドボカシーについての理論的,実践的検討を行います。
井出智博(2024)スクールカウンセラーにおける倫理,日本健康相談活動学会誌 19(1),2-5
蔵岡智子, 井出智博, 草野智洋, 森川友子, 大賀一樹, 上野永子, 吉川麻衣子(2023)心理臨床領域における社会的公正とアドボカシーの視点 ―養成プログラムへの統合を見据えて―,東海大学文理融合学部紀要1,37-53.
井出智博他(2024)公認心理師・臨床心理士養成課程における社会正義を実現するためのコンピテンシー養成を目指した授業実践,北海道大学大学院教育学研究院臨床心理発達相談室紀要 6 107-125.
Person-Centered Approachを基本としたセラピストの養成に取り組んでいます。特にProutyのpre-therapyやWarnerのdifficult process,Mearnsのrelational depthなどの概念を軸に,セラピーの適応が困難なクライエントへのアプローチについて探求しています。
井出智博,村山正治(2008)児童養護施設児童に対する集団法によるClearing a Space適用の試み--児童養護施設心理職による実践とその効果についての実証的・事例的検討,心理臨床学研究,26(1),35-45.
TOMOHIRO IDE, TATSUYA HIRAI, SHOJI MURAYAMA(2007)「十分に機能するコミュニティ」への挑戦 ‐学校と家庭をつなぐスクールカウンセラーの役割‐,九州産業大学大学院臨床心理センター臨床心理学論集,2,109-116