EIP研究会について
主査からのご挨拶
電子化知的財産・社会基盤研究会は,1998年の第1回会合以来,知的財産,個人情報・プライバシー,IT社会と法,及びIT社会問題一般を研究領域とする文理融合の研究会として活動を行っています。現在は、年間4回程度の研究会を実施しており、情報処理学会全国大会では、毎年「サイバー事件回顧録」という恒例の企画セッションを実施しており、FIT(情報科学技術フォーラム)でも毎年企画セッションを行っています。
法制度と技術の境界領域に関する研究や,情報セキュリティのマネジメントに関する研究,個人情報保護に関する最新の制度動向,制度や社会的課題に関する新たな分析手法の探求,死者のプライバシーなどに関しては、最先端の研究成果が報告されています。専門家による高度な報告や議論が行われる一方で、学部生を含む学生による報告も増加しており、未来に向けた学術交流の場となることも期待しているところです。それぞれの関心領域や専門領域を尊重して建設的な議論を行うことを重視しており、特に、法制度,社会基盤などの専門家が情報学の専門家と密に議論する場を提供するという,本学会のなかでは会員リテラシーの向上にも不可欠なユニークな存在としての役割を果たせていると自負しています。
広く情報処理に関する社会問題に興味のある方の参加をお待ちしています。
【研究分野】
目的:ディジタル情報革命がもたらす社会的問題につき,電子化知的財産及び社会基盤の観点から情報処理と社会問題について学際的な研究を行う.
範囲:社会的,経済的,法制度的,技術的な側面から上記問題を具体的に扱う.
キーワード:
a. 電子化知的財産(デジタルコンテンツ,電子書籍,デジタル教材,デジタルアーカイブ,電子図書館/美術館/博物館,特許情報,デジタルシティ,知財戦略,標準化)
a-1) 社会的側面:不正利用
a-2) 経済的側面:コンテンツ流通
a-3) 法制度的側面:知財関連法
a-4) 技術的側面:コンテンツID,メタデータ,著作権処理,権利保護,DRM(Digital Rights Management),符号化,電子透かし/フィンガープリント,不正監視・防止,特許情報処理
b. (電子化)社会基盤(IT政策,電子政府/自治体,(商品流通の)トレーサビリティ,知の共有,重要インフラ,ディペンダビリティ,スマートシティ/スマートコミュニティ/スマートグリッド,サイバー・フィジカル・システム(CPS),情報セキュリティ,防犯,ソーシャルメディア)
b-1) 社会的側面:Society5.0,ディジタルトランスフォーメーション,コミュニティ,個人情報/プライバシー保護,監視社会,情報倫理,AI倫理・AIガバナンス,シェアリングエコノミー,グローバルデータ移転,情報銀行,PDS(Personal Data Store),オープンデータ,ゲリマンダー,ダークツーリズム,テレワークシステム,デジタルプラットフォーム,接触確認アプリ(行動確認,電子的追跡等)
b-2) 経済的側面:データ流通,ビジネスモデル,電子商取引,マーケティング,仲介市場,レコメンデーション
b-3) 法制度的側面:個人情報保護法,情報法/サイバー法,データ保護規律,GDPR,ブロッキング,デジタル政策
b-4) 技術的側面:ブロックチェーン,P2P,電子マネー・暗号資産(仮想通貨),暗号,生体認証,電子署名/電子認証,RF-ID,位置情報利用,GPS (Global Positioning System),観光情報処理,医療情報処理,ドローン,人工知能, シンギュラリテイ, 3Dプリンタ,匿名化,リアリティイメージング/AR/VR,データサイエンス
b-5)経営的側面:組織のガバナンスとマネジメント,ITガバナンス,情報セキュリティマネジメント,個人情報の利活用,ビッグデータ解析,リスクマネジメントa. 電子化知的財産(デジタルコンテンツ,電子書籍,デジタル教材,デジタルアーカイブ,電子図書館/美術館/博物館,特許情報,デジタルシティ,知財戦略,標準化)
2023年8月
中央大学国際情報学部
教授 小向太郎
EIP運営委員会(2024年)
<主査>
小向太郎 中央大学
<幹事>
板倉 陽一郎 ひかり総合法律事務所
金子 啓子 中央大学
鈴木 悠 (株)ラック
橋本 誠志 徳島文理大学
吉見 憲二 成蹊大学
<運営委員>
青木 秀一 NHK
上椙 英之 奈良文化財研究所
緒方 健 東京大学
折田 明子 関東学院大学
加藤 尚徳 (株)KDDI総合研究所
黒政 敦史 (一社)データ社会推進協議会
須川 賢洋 新潟大学
寺田 麻佑 国際基督教大学
中島 美香 中央大学
原田 要之助 情報セキュリティ大学院大学
森 京子 (株)KDDI総合研究所
設立趣旨
知的財産権に関する法律の整備は現在最も緊急の課題である。はじめ複製の権利の問題がDATに関し て現れた。その解決の目処も立たぬうちに、マルチメディアに関して、多数の(原)著作権者との権利交渉 の問題が加わった。現在は さらに、インターネットが、激烈な技術進歩に支えられた、双方向かつ 無差別 無制限に近いアクセスの提供によって、社会に急激に浸透し、多様 な明暗模様を生み出している。明につ いては、言うまでもなくインターネット は世界的な情報流通のバックボーンになって行く。暗については、ほ とんど一 切の制限が存在しないことによって、著作権の範囲を大きく越える多様な問題 の噴出が益々程 度を強めて行く。
現在の激しい状況は、一過性ではなく、また景気循環の波の様なものでもな いだろう。むしろ、産業革命を 第一の波動とする史上最大の革命が始ま り、来世紀を通じて継続するであろうと見る方が安全である。その様に考える 根拠の一つは、この革命が「情報」の工業生産を可能にして、その影響が拡大 再生産を繰 り返し、火薬庫に火が入ったような爆発的成長を始めていることである。そこで達成されるであろう成長の 規模は、次の理由で天文学的なものに なると考えれられる。
本革命の直前まで、高度な「情報」を生産するにはただ二つの「手」しかな かった。その一つは何億年をか けた遺伝子の変化にみられる様な神の手である。 他の一つは、すぐれた芸術作品や総合的な機能をもつ システムの創造の様な天 才的な個人の手である。いづれの場合も、価値ある情報の生産の手段と規模はきわめて限られていた。この様な意味での「情報」が工業生産され、それが社 会のあらゆる処で多様で入 り組んだ拡大再生産を引き起こすことの影響は言葉の文字通りの意味においてほとんど計りしれないも のである。
地球上には、鉄があり、また水蒸気がある。そこに情報があって適切に用い られれば、それは蒸気機関 になり、産業革命を起こす。生きている人間が死亡した時、ものとしての小さな差にもかかわらず、そこで は「情報」が失われ る。生きている人間と死んだ人間との差、すなわち「情報」の価値は計りしれない程大 きい。
上述した、情報の工業生産とその影響の拡大再生産との結果は、世界で次第 に姿を現わしている。いくつ かの国における政治体制の変化や、いくつかの重要な組織における、従来であれば隠蔽されたであろう 状態の暴露などは、質の 高い情報の工業生産と、その影響の拡大再生産とが、社会全体を死んだ社会から生きた社会へと変えつつあることを示している可能性がある。
社会が死んでいれば、その構成部分に腐敗があっても、それが崩落し死ぬま で、社会の他の部分はその ことを知らないであろう。しかし、社会が全体として生きていれば、病的状態は痛みをうみ、その情報は社 会の他の部分につたわ り、社会は生体としての再生、自己防御の動きを起こすであろう。
この様な状況に鑑み、高度情報化時代の知的財産権問題を中心に関連する諸問 題を議論する場を提供 する。 このディジタル情報革命の前まで、十分確実な発言しかしないことが研究者の基本的モラルであった。狼 少年は非難されるけれども、危険性を指摘しなかっ た人々はそれほど非難されなかった。 この様な慎重さが美徳であったのは、社会の変化が十分ゆるやかであり、確実な結論が得られて初めて行動を起こすことが最良の結果を生むことが多かった からであろう。いくつかの分野で、状況が変わった 可能性があることを認識しよう。
現在のディジタル情報革命は、前の津波が引かないうちに次の津波が襲来する 様な状況にあたる。そこ では、十分確実な結論が出るまで行動しなければ、破滅する確率の方が高い分野があり得ることを否定 できないように思われる。 そのような分野の研究者にとって重要なことは、次々に襲来する震災・津波に対して、いわば60%の確率でも、より安全と思われる方向を指摘し、その理由 を示すことであろう。
いわゆる専門家の権威が正確な予測を意味しないという遺憾な状態が最近多く 報告されている。社会は 法律に従って安定を得てきた。いまや我々の安全のために、どの様な法律があるべきかを考えることを避 けることはできないのでは なかろうか。
安定性をよしとする法律は技術を縛り、変化を標榜する技術は法律を崩す。 法律と技術とのあいだにあ る、この緊張関係に私たちはどのように対応したらよいのか。私たちは、法律の示す規範を尊重するとと もに、技術のもたらす可 能性を追求したい。
発起人 (所属は研究会設立当時のもの)
ア
安達 淳 学術情報センター
荒川 一彦 野村総研
飯塚 浩司 情報処理学会
五十嵐 智 明星大学
池田 誠 会津大学
石田 晴久 アスキー
板橋 秀一 筑波大
稲垣 耕作 京大
井上 一郎 多摩大
猪瀬 博 学術情報センター
浦谷 則好 NHK
江原 暉将 NHK
大瀧 保広 茨城大
大谷 和子 日本総研
岡田 謙一 慶大
岡本 敏雄 電通大
小川 憲久 紀尾井坂法律特許事務所
カ
甲斐 宗徳 成蹊大
片岡 雅憲 日立
片岡 信弘 三菱電機
上園 忠弘 城西国際大
川上 桂 松下電器産業
河原 正治 筑波技術短大
川淵 明美 メディア教育開発センター
上林 憲行 富士ゼロックス
工藤 育男 ジャストシステム
榑松 明 電通大
後藤 滋樹 早大
小林 哲則 早大
小宮 一三 神奈川工科大
今野 浩 東工大
サ
坂元 昴 メディア教育方法開発センター
嵯峨山茂樹 NTT
佐藤 佳弘 NTTデータ
鹿野 清宏 奈良先端大
白井 克彦 早大
白鳥 則郎 東北大
杉本 重雄 図書館情報大
鈴木 雅実 KDD
諏訪 基 電総研
瀬川 英生 東芝
タ
高野 雅晴 デジタル・ビジョン・ラボラトリーズ
高橋 延匡 拓殖大
高橋 義暁 沖電気
田上 和光 QUICK総研
竹内 彰一 ソニー
田中 譲 京大
田畑 孝一 図書館情報大
塚本 享治 電術研
土屋 俊 千葉大
照井 武彦 歴史民俗学博物館
戸村 哲 電総
ナ
苗村 憲司 慶大
長尾 真 京大
中川 聖一 豊橋技科大
中嶋 正之 東工大
中村 明 富士通
中村 達 IPA
中村 繁一 ナムコ
名和小太郎 関西大
野村 浩郷 九工大
則近 憲佑 ソフトウェア情報センター
ハ
箱崎 勝也 電通大
八村広三郎 立命館大
速水 悟 電総研
平賀 譲 図書館情報大
広瀬 啓吉 東大
福島 敏高 富士通
マ
松本 恒雄 一橋大
松本 裕治 奈良先端大
真名垣昌夫 NEC
三浦 賢一 朝日新聞社
三木 哲也 電通大
水谷 直樹 弁護士
三次 衛 富士通FIP
武藤 佳恭 慶大
森 正直 メディア教育開発センター
森 亮一 神奈川工科大
ヤ
安田 浩 東大
山地 克郎 富士通
山本 毅雄 図書館情報大
横山 晶一 山形大
吉田 進 京大
吉田 正夫 三木・吉田法律特許事務所
吉本 啓 東北大
米田 英一 東芝
研究の分野
知的財産権一般(勉強から意見主張まで)
特許(ソフトウエア, デジタル技術)
著作権問題(ソフトエウア、 フリーソフト、データベース、ネットワーク)
倫理問題、
パソコンネチケット、
インターネットロット、
越境データ流通の問題、
ネットワークサーバの国内、国外での法律的差の問題、
コピープロテクション、
非標準化技術、
応用(アプリケーション)問題、
電子図書館、
著作権集中処理システム、
著作物クリアリングシステム、
カスタムテキストブック、
著作物のセキュリテイ、
通信のセキュリテイ、
暗号技術、
防衛技術、
電子貨幣、
エレクトロニックコマース、
WWW、
コンピュータウィルス技術とその対策及び発見技術、
コンピュータ不正アクセス技術とその対策及び検出技術、
ピア・レビュー、
表現の自由、
スキップジャック、
プライバシー保護、通信の秘密
など、上記デジタル技術革命がもたらす制度的、法的問題、 および、それらの関連技術一般を扱う。