固体中の電子や準粒子の振る舞いは量子力学や統計力学によって記述され、それらを用いて20世紀の物性物理学は半導体・高温超伝導などの広い分野で著しく発展してきました。近年の物性物理ではそれらの物理に加えて、対称性やトポロジーという数学的な概念が物性に重要な役割を果たすことが知られてきています。特に、非自明なトポロジーに由来してバンド構造や磁気構造に特徴的な構造を持つ物質はトポロジカル量子物質と呼ばれ、次世代エレクトロニクスの材料として期待されています。
私たちの研究室では分子線エピタキシー法という薄膜合成技術を駆使することでトポロジカル量子物質の薄膜試料を合成しています。基板の上に原子を規則正しく配列することで低欠陥・高品質な結晶を合成し、時には異なる物質とのヘテロ界面を構成することで、表面や界面の二次元系を自在に設計します。更に、電場や磁性を加えることで発現する量子物性を制御し、これらを機能性を持つ新しいデバイスの開発に繋げることを目指しています。
トポロジカル絶縁体とは、物質内部は電気を流さない一方で物質表面にはディラック電子状態が存在し伝導性を有する特殊な物質で、代表的なトポロジカル量子物質です。表面ディラック状態に強磁性的相互作用を導入すると時間反転対称性が破れ量子異常ホール効果という量子輸送現象を発現します。私たちはトポロジカル絶縁体と強磁性絶縁体とのヘテロ接合を構成することで界面に磁気近接効果を生み出す手法を開発し、これを用いた量子異常ホール効果を初めて観測しました。私たちはこの他にもヘテロ界面を使った物質制御性を基軸にトポロジカル量子物質の機能性の開拓を行っています。
空間反転対称性が破れた電子系ではバンド分散のスピン縮退が解けることがあります。半導体ヘテロ界面における二次元電子系などが顕著な例ですが、最近バルク状態の空間反転対称性の破れ(極性)に起因したラシュバ分散が注目されるようになってきました。空間反転対称性の破れをマクロな電磁応答として観測するには、薄膜合成のように高配向・高品質な試料合成技術が有用です。私たちはこのようなラシュバ半導体に磁性元素をドープして強磁性体とすることで機能的な物性を探索しています。例えば、電流を印加することで局在磁性の向きを操作する電流誘起磁化反転や、電流の方向によって電気抵抗が変化する非相反抵抗現象(ダイオード効果)などの観測に成功しました。
上で紹介した以外にも𠮷見研究室ではトポロジカル量子物質を対象に様々な物性探求を目指しています。過去の学位論文などはThesisのページをご覧ください。
𠮷見研究室では一緒に最先端の物理を探求する学生・研究員の方々を募集しています。卒業研究生は東京大学 工学部物理工学科から受け入れています。大学院生として研究室に配属を希望される方は、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻を受験して下さい (物質系専攻の入試情報)。修士課程だけでなく、博士課程からの入学も歓迎しています。また、日本学術振興会特別研究員などのフェローシップを獲得して研究に参加してくださる方も歓迎しています。
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