「理論というエンジンを、社会や経済の分析に活かす」
私たちの研究室は、理論構築のスペシャリストとしての役割を果たしつつ、国内外の専門家や公的機関と連携して実証研究にも取り組んでいます。
コラム:因果推論の「その先」へ〜なぜ私たちは『均衡モデル』を解くのか〜
近年、データから政策の効果を厳密に測る、ランダム化比較試験(RCT)等の「因果推論」が経済学を席巻しています。これらは局所的な効果を測定する上では極めて強力なツールです。しかし、そこには重大な死角があります。
それは、何か?
ある「職業訓練プログラム」の有効性をRCTで検証したとします。結果として、訓練を受けたグループは、受けなかったグループよりも就業率が「有意にプラス」になったとしましょう。では、この素晴らしいプログラムを政策として「社会全体(国民全員)」に拡大すれば、国全体の失業者は減るでしょうか?
答えは、「必ずしもそうではない」です。
社会全体の「雇用のパイ(労働需要)」が一定であれば、訓練を受けた人が優先的に採用された裏で、単に別の誰かが職を失っているだけかもしれないからです。あるいは、高度なスキルを持つ人が市場に溢れることで、そのスキルの相対的な価値(賃金)が社会全体で下落してしまうかもしれません。
因果推論のみによる分析は、このような「社会全体の相互作用(波及効果)」を見落としてしまいます。ある政策が社会のシステム全体に拡大されたとき、市場の価格や人々の行動がどう連鎖し、新しい均衡に落ち着くのか。これを捉えるのが「一般均衡(General Equilibrium)」という視点です。
私たちが「動学確率一般均衡モデル(DSGE)」やゲーム等の高度な数理に基づいた均衡モデルを構築し、分析を進める理由は、ここにあります。人々の多様な期待や行動原理を数学的な「構造」として記述し、システム全体の『均衡』がどう変化するかをシミュレーションすることで初めて、社会全体の幸福(厚生)にどのような影響を与えるのかという、真の「政策デザイン」が可能になるのです。
過去のデータを局所的に切り取るだけでなく、未来の社会システム全体を設計するための「理論というエンジン」を、ここで一緒に回してみませんか。
主要な研究領域 Research Areas