「理論というエンジンを、社会や経済の分析に活かす」
私たちの研究室は、理論構築のスペシャリストとしての役割を果たしつつ、国内外の専門家や公的機関と連携して実証研究にも取り組んでいます。
┃理論的基盤(Theoretical Core)
測度論的確率理論(measure theoretic probability theory)を用い、多様な信念(beliefs)や期待(expectations)といった主観的期待効用(subjective expected utility)の生成や更新プロセス(updating process)を記述します。
曖昧さ(ambiguity)や想定外(unawareness/unforeseen contingencies)等、より分析の困難なクラスの不確実性についても、研究対象としています。
┃実証と応用(Applications and Empirics)
ソーシャルメディアによる社会分断(social division/polarisation)への影響、気候変動、金融リスクなど、複雑なネットワークが生む不確実性に対し、数理モデルから解決策を導き出すことを目指しています。 経済産業研究所(RIETI)等でのプロジェクトを通じ、理論モデルから得られた仮説を独自に収集した一次データや既存の二次データ(例:財務データ、市場データ等)で検証します。
主要な研究領域 Research Areas
┃ 1. 気候ファイナンス(Climate Finance)
気候変動による外部性の内部化を目指した、排出権取引や炭素税のような各種施策が金融システムや社会厚生に与える影響を数理的に評価します。多様な期待を許容する動学確率一般均衡モデル(DSGE)を用い、事後の構成基準(ex post welfare criterion)から見て望ましい施策が何か、分析しています。
進行中のプロジェクト(科研費):
┃ 2. 災害へのレジリエンス(Disaster Resilience)
大規模災害という予測困難な事態に対し、家計や企業、さらに地域社会がいかに強靭性を確保すべきかを研究しています。不完備契約理論の観点も取り入れ、保険や公的支援の最適設計を提言しています。
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┃ 3. 多様な期待とコミュニケーション(Diverse Expectations & Communication)
「情報の共有がなぜ意見の一致を妨げるのか」を理論的に解明。さらに、移民政策や社会分断を題材に、情報提供がエコーチャンバー現象や信念の極端化に与える影響を分析します。
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┃ 4. 経済における多様性の計測(Measuring Diversity/Heterogeneity)
多様性の乗法的分解(multiplicative decomposition)を応用し、観察可能なミクロとマクロの指標から、社会の構造的差異(ベータ多様性)を導出する手法の確率に取り組んでいます。特に、直接、観察ができない多様性の定量化、例えばリスクや不確実への態度や期待の多様性の定量化を目指しています。
コラム:因果推論の「その先」へ〜なぜ私たちは『均衡モデル』を解くのか〜
近年、データから政策の効果を厳密に測る、ランダム化比較試験(RCT)等の「因果推論」が経済学を席巻しています。これらは局所的な効果を測定する上では極めて強力なツールです。しかし、そこには重大な死角があります。
それは、何か?
ある「職業訓練プログラム」の有効性をRCTで検証したとします。結果として、訓練を受けたグループは、受けなかったグループよりも就業率が「有意にプラス」になったとしましょう。では、この素晴らしいプログラムを政策として「社会全体(国民全員)」に拡大すれば、国全体の失業者は減るでしょうか?
答えは、「必ずしもそうではない」です。
社会全体の「雇用のパイ(労働需要)」が一定であれば、訓練を受けた人が優先的に採用された裏で、単に別の誰かが職を失っているだけかもしれないからです。あるいは、高度なスキルを持つ人が市場に溢れることで、そのスキルの相対的な価値(賃金)が社会全体で下落してしまうかもしれません。
因果推論のみによる分析は、このような「社会全体の相互作用(波及効果)」を見落としてしまいます。ある政策が社会のシステム全体に拡大されたとき、市場の価格や人々の行動がどう連鎖し、新しい均衡に落ち着くのか。これを捉えるのが「一般均衡(General Equilibrium)」という視点です。
私たちが「動学確率一般均衡モデル(DSGE)」やゲーム等の高度な数理に基づいた均衡モデルを構築し、分析を進める理由は、ここにあります。人々の多様な期待や行動原理を数学的な「構造」として記述し、システム全体の『均衡』がどう変化するかをシミュレーションすることで初めて、社会全体の幸福(厚生)にどのような影響を与えるのかという、真の「政策デザイン」が可能になるのです。
過去のデータを局所的に切り取るだけでなく、未来の社会システム全体を設計するための「理論というエンジン」を、ここで一緒に回してみませんか。