Haptics Initiative
東京大学が「触覚の壁」をブレイクスルーするプロジェクト
東京大学が「触覚の壁」をブレイクスルーするプロジェクト
これまでニッチだった「触覚」
2000年代初頭、触覚に関する学術領域として確立されたハプティクスは、長らく理工学や情報学のニッチ領域と見なされてきました。しかし現在はそのシーズとニーズの両面において不連続的な変化が起きつつあります。東京大学 大学院新領域創成科学研究科に設置された「ハプティクス イニシアチブ」は、サイエンス、テクノロジー、社会実装、の連携によって戦略的にハプティクスを飛躍させ、多岐にわたる触覚の有効活用を力強く推進します。
新領域創成科学研究科「イニシアチブ」とは
東京大学大学院新領域創成科学研究科は、未来の重要課題を考える研究科です。そのような研究科が 2026年度以降に支援する重要領域とその推進グループ「イニシアチブ」を公募し、6つの領域が採択されました。ハプティクス・イニシアチブはその中の一つです。
なぜハプティクスなのか
昨今の不連続的な変化 ~「フィジカルAI」が最重要課題に
現実の世界とインタラクションし、自ら環境を作り替えながら新しい知識を獲得するロボットの実現のためには触覚が必要であり、それが現在のAIロボットの課題の一つになっています。このようなニーズに対し、昨今の材料技術、柔軟回路技術は、その実用的な解を与える準備ができています。必要なのは基礎的なセンシング技術と、産業的活用の有機的な結合です。
人間に触覚を体感させる技術のブレークスルー
触覚の一般的な再現は、これまで不可能に近い技術課題と考えられていましたが、近年ウェアラブルのデバイス、さらには非接触の触覚提示技術においてブレークスルーがあり、素手で触った感じを自在に再現する技術が現実のものとなりつつあります。もはや離れた場所にいる人と触れ合いや、バーチャルペット、想像上のキャラクターの触感を再現することも夢物語ではなくなりました。
このように、ニーズ、シーズ、ともに不連続な変化が起きつつあるハプティクス領域で、触覚のセンシングと提示のハードウエア、ソフトウエアのプラットフォーム開発を進めるとともに、触覚サイエンス研究と地域に根差した産学連携を一体のものとして推進します。
活動内容と課題
ハプティクス・イニシアチブでは、多様なバックグラウンドを有する研究者、技術者、クリエーター、事業者が以下の各項目の活動、研究開発を実施し、互いにフィードバックしあうことで発展を加速します。
触感を定量化するセンサの開発
皮膚が対象物体に触れた感覚を定量化するセンサは、今後のハプティクスの発展を左右する研究要素です。AIロボットに知覚情報を提供するだけでなく、多様な触覚を人工的に生成するための基礎データ取得のためにも必須です。触覚センサの原理研究成果と、柔軟かつ強靭な高分子材料および有機回路の技術を結合した実用的センサの開発に取り組みます。
非接触/ウェアラブルでの触覚提示技術
非接触、あるいはウェアラブルでの触覚提示の先端技術を開発します。それらの先端技術によって遠隔マニピュレーション、スポーツ支援、リハビリテーション、リラクゼーション、ヒーリングやメンタル支援など、ハプティクスの新しいアプリケーションを開拓します。
触覚によって人間の行動、メンタルを支援するためのセンシング技術
有用な触覚刺激を適切なタイミングで提示するためには、ユーザー身体の運動を高速・高精度計測し、少し先の状態を予測する技術が必要です。またメンタルを支援するためにはユーザーの心理的状態を推定する技術も必要です。これらを接触式あるいは非接触でセンシングするハードウエアとシステムを開発します。
ハプティクス・サイエンスと教育
これまでは触覚を安定して制御できるテクノロジーが存在しなかったために停滞していた触覚のサイエンスを推進します。触覚の知覚・脳反応の解明、触覚の心理的作用、学習の支援やモチベーションの向上など、アプリケーションにも直結した科学研究を実践します。
ハプティクスに関するサイエンスには幅広い可能性があります。上記以外にも、例えば恐竜や古代生物などの研究成果に基づいてその触感を科学的に推定し、古代の生物と触れ合う体験を作り出せれば、古生物学への深い理解や啓蒙にも活用することができます。
社会実装の実践
一部のコアとなる企業、スタートアップと大学が協力し、社会実装を推進します。地域の特性も生かしながら産業としての発展を目指します。特に新しい都市設計やエンターテインメント、公共施設の中にも実装していくことで、技術を現場で活用し、同時に活用現場からのフィードバックによって技術を洗練する循環を作ります。
期待される成果
AIの最後のピースが埋まる
実用的な触覚センサは、現実の世界とインタラクションし、自ら環境を作り替えながら新しい知識を獲得するロボットを現実ものにします。
基礎研究の進展
ニーズとシーズが相互作用しあう環境をつくり出すことで、効果的に基礎研究を推進する。ハプティクスが産業化し、センサや提示装置が安定的に製造されることによってハプティクスの基礎研究環境が確立できるため、産業化は基礎研究の前提条件でもあります。
特に長期間での触覚刺激がもたらす健康効果、安眠誘導効果、癒し効果などは、基礎科学研究としても大きな発展が期待できます。
新産業とエコシステムの創出
ハプティクス・イニシアチブがハブとなり、大・中・小、様々な規模・性格の企業や多数のスタートアップによるエコシステムを形成し、産業化を推進します。研究開発と地域としての発展とがかみ合い、好循環を生み出す仕組みのモデルケースとなることを目指します。