発表者らは高解像度海洋モデルに4次元変分法(4D-Var)を実装し、開発された海洋データ同化システム(MOVE-JPN)は2020年10月から気象庁で現業運用されている。本勉強会では、MOVE-JPNで用いられている4D-Var手法の概要と海洋変動に特化した背景誤差共分散行列の設定や拘束条件等について紹介する。また、MOVE-JPNを用いて最近作成された日本近海長期海洋再解析(FORA-JPN60)について紹介する。
アンサンブルカルマンフィルタ(EnKF)は,様々な数値モデルへの実装が比較的容易なデータ同化手法であるが,海洋分野では想定されたほど普及が進んでいない。本勉強会では,EnKF を海洋モデルに実装する過程で直面した課題を整理し,これまでの開発・研究成果(Ohishi et al. 2022a, b; 2023; 2024a, b)について紹介する。さらに,今後の展望について議論する。
関連論文:
Ohishi, Shun, Tsutomu Hihara, Hidenori Aiki, Joji Ishizaka, Yasumasa Miyazawa, Misako Kachi, and Takemasa Miyoshi, 2022: An ensemble Kalman filter system with the Stony Brook Parallel Ocean Model v1.0, Geoscientific Model Development, 15, 8395–8410, doi:10.5194/gmd-15-8395-2022.
Ohishi, Shun, Takemasa Miyoshi, and Misako Kachi, 2022: An ensemble Kalman filter-based ocean data assimilation system improved by adaptive observation error inflation (AOEI), Geoscientific Model Development, 15, 9057–9073, doi:10.5194/gmd-15-9057-2022.
Ohishi, Shun, Takemasa Miyoshi, and Misako Kachi, 2023: LORA: A local ensemble transform Kalman filter-based ocean research analysis, Ocean Dynamics, 73, 117–143, doi:10.1007/s10236-023-01541-3.
Ohishi, Shun, Takemasa Miyoshi, and Misako Kachi, 2024: Impact of atmospheric forcing on SST in the LETKF-based ocean research analysis (LORA), Ocean Modelling, 189, 102357, doi:10.1016/j.ocemod.2024.102357.
Ohishi, Shun, Takemasa Miyoshi, Takafusa Ando, Tomohiko Higashiuwatoko, Eri Yoshizawa, Hiroshi Murakami, and Misako Kachi, 2024: LETKF-based Ocean Research Analysis (LORA) version 1.0, Geoscience Data Journal, 11, 995–1006, doi:10.1002/gdj3.271.
台風の発達する海洋上では直接観測が乏しく, 客観解析や数値予報の初期値で表現される台風はしばしばボーガスと呼ばれる人工的な渦によって表現される. 近年, 気象衛星ひまわり 8/9 号による高頻度画像から台風の中心付近 (内部コア) の高風速域に特化した大気追跡風 (Atmospheric Motion Vector, AMV) の推定手法が提案されている. 発表者はこのような内部コア AMV のデータ同化により, 台風強度推定および予報の改善に関する実現可能性を調査している. 本発表では, 成熟した台風の基本的な構造を概観し, 1 事例の台風について内部コア AMV を想定した観測システムシミュレーション実験の結果を紹介する. この実験では軸対称接線風のみ同化した場合と, 水平風 2 成分同化した場合の真値との差を比較し, それぞれの同化インパクトを評価する. さらに, 同事例について実際の AMV の同化実験から, 強度予報の改善と現状の課題を議論する.
2022年6月19日から20日にかけて、東シナ海上で3隻の研究船による高頻度大気・海洋同時観測が行われた。この集中観測は、梅雨前線と黒潮の影響を受けて発達したメソ対流系を詳細に捉えることに成功した。このような海上で発達するメソ対流系の予測可能性は、詳細な観測が不足しているために大陸上で発達する事例と比べて理解が進んでいない。本講演では、領域大気モデルによるアンサンブルシミュレーションとデータ同化実験によって、この集中観測が捉えたメソ対流系の予測に対する初期値の不確実性の影響を調べた事例研究について紹介する。本事例のような海上で発達する階層的な極端気象の予測精度を向上させるために、アンサンブル予測とデータ同化に求められる改良についても議論したい。
関連論文:
Nakashita, S., T. Enomoto, and S. Ishii, 2024: Multi-scale Uncertainty of Mesoscale Convective Systems in the Baiu Frontal Zone: A Case Study from June 2022. J. Meteor. Soc. Japan, 102, 599–631, https://doi.org/10.2151/jmsj.2024-032.
Nakashita, S., and T. Enomoto, 2025: Applicability of Ensemble Singular Vectors to a Mesoscale Convective System Over the East China Sea. Geophys. Res. Lett., 52, e2024GL114502, https://doi.org/10.1029/2024GL114502.
異常天候WGセミナーとの共催で行います。
成層圏突然昇温 (SSW) に代表される成層圏周極渦の極端変動が対流圏の気候状態に影響を及ぼすことが示されて以来, 成層圏からの下方影響過程は, 季節内から季節スケールでの予測精度向上をもたらす過程として期待されてきている. しかし, SSW の下方影響にも事例に応じた多様性があり, 全ての SSW 後に対流圏での偏差が現れるわけではない. また, 成層圏対流圏結合過程の表現能力にも, モデル間で大きな差異があることがわかっている. 本勉強会では, 上記について軽く説明したうえで, 近年進行している国際プロジェクトについて紹介する.
アジョイントモデルは、ある評価関数の予報変数などに対する感度を時間方向逆向きに伝播させるモデルであり、4次元変分法や感度解析などで用いられる。本勉強会では、擾乱変数とアジョイント変数の内積が保存することを用いたアジョイント方程式の導出をおこない、海洋の移流拡散モデルのアジョイントモデルを用いた粒子追跡の例について紹介する。また、余裕があれば、深層学習との関連についても述べたい。
大気や海洋物理の研究者にとって馴染みの薄い「海洋生物地球化学(BGC)」についてモデル屋の視点からできるだけ簡単にお話しします。具体的には、海の微生物や化学物質循環が気候や海洋環境へ果たす役割、NPZDモデル(栄養塩ー植物プランクトンー動物プランクトンーデトリタス)の多様性と難しさ、データ同化への展開、等について紹介します。
台風や集中豪雨といった雨を伴う極端大気現象にとって、海面水温の分布を推定する海面水温解析は重要です。現在、気象庁が気象予測を行う際に用いている海面水温解析は、過去17日間の衛星観測データに重みづけをして作られていますが、直近の変化が激しい場合などには、真値とずれる可能性があります。本講演では、本プロジェクトで行っている最適内挿法を用いた海面水温解析に関する取り組みについてご紹介いたします。
大気や海洋の状態推定は個別のデータ同化システムによって行われてきたが、より高精度な状態推定の為には、大気海洋間の相互作用を精緻に考慮し、大気海洋結合系として状態推定する必要がある。このため、大気海洋結合同化研究が近年急速に進んでいる。一方、そこには多くの課題があり、例えば、結合同化による大気予測精度の改善は現状ではかなり限定的である(Browne et al. 2019)。
勉強会では、大気海洋結合同化研究のレビューや、本研究課題で開発を進めている大気海洋結合同化システムの概要を示しながら、この分野をざっくり紹介する。
4次元変分法(4DVar)では、時間逆方向に変数を伝播させる随伴モデルが必要である。近年発展が著しい機械学習でも、誤差逆伝播法において随伴が用いられている。機械学習では、随伴を手書きせずに自動微分を用いて生成している。この勉強会では、最も簡単な例としてLorenz (1963)の3変数モデルを題材として4DVarと自動微分の基本的な考え方を紹介するとともに、自動微分を用いた微分可能プログラミングを展望する。