最近の成果

ここではALICE実験やPHENIX実験の主な成果を簡単に纏めていきたいと思います。

どの成果も重要ですが、郡司が個人的に選んだものです。2018年以降は比較的細かく選択していますが、それ以前は、本当に主だったものしか載せていません。。。

まだまだ工事中です。。。

もっと深く知りたい方は、リンクを辿るか、日本の核物理の将来レポートを参照してください (2013のリンク, 2019のリンク)

Pb-Pb衝突におけるJ/ψ v3の測定

http://alice-publications.web.cern.ch/node/4759

J/ψのv2はLHCでnon-zeroな値を示しました。v3もnon-zeroであることが新しく分かりました。charged hadron, D meson, J/psiで比較すると、低い運動量領域ではvn(J/ψ) < vn(D) < vn(h)、高い運動量ではvn(J/ψ) ~ vn(D) ~ vn(h)ということです。v3/v2に対しても、このorderingがあるようだ。

Pb-Pb衝突におけるΛcの初測定

http://alice-publications.web.cern.ch/node/4694

鉛+鉛衝突におけるΛcの収量測定は、QGP中でのダイクォーク構造に迫る重要な測定である。一番興味深い低運動量領域はALICE高度化に期待であるが、今回はpT>6 GeVからの測定に初めて成功した。fragmentationだけでなくcoalesenceでΛcを作る過程がないと実験データを説明できないことが判明した。

K^0_S K^{±±} 間のfemtoscopy測定

http://alice-publications.web.cern.ch/node/4662

K^0_SとK^{+-}の相関測定(femtoscopy)を行なった。得られた相関は、a0(980)が媒介する相互作用によるものである。同種粒子KKとの相関と比較し、相関長を比較した結果、a0(980)がダイクォークメソンではなく、テトラクォークだと考える方が自然であることがわかった。

鉛+鉛衝突における低質量領域の電子対測定

http://alice-publications.web.cern.ch/node/4474

鉛+鉛衝突実験において、低質量領域の電子対を初めて測定したもの。狙う物理は、ρ中間子のスペクトル関数の変化の検出と仮想熱光子の検出である。残念ながら、統計精度によりはっきりとしたことは言えないものの、今後のALICE実験高度化に期待である。

pp, pΛ, ΛΛ相関の測定

http://alice-publications.web.cern.ch/node/4445

ALICE実験での初めてのバリオンバリオン相関測定である。pp, pΛ, ΛΛの相関関数を同時にフィットし、有効距離と散乱長を算出した。ΛΛにおいては、依然として有効距離と散乱長をうまく制限はできていない上、STARの結果を確認するには至らなかった。STARとALICEでは衝突系も違うため、これらを引き出すモデルの適応性の問題か。。。

photon v2とv3

http://alice-publications.web.cern.ch/node/4290

鉛+鉛衝突における光子の集団運動の測定である。RHICの時代からフォトンパズルとして有名で、未解決問題の1つである。ALICE実験でもPHENIX実験と同様に大きな光子の集団運動を測定した。既存のモデルではこの大きな集団運動を再現することができていない。モデルでは考慮されていないところからの光子生成がある可能性が大きい。

pp 7TeVでの電子対測定

http://alice-publications.web.cern.ch/node/4288

pp 7TeVでの電子対測定の結果である。不変質量分布は既知のハドロン崩壊からの電子対と無矛盾である。この論文で新しいのは、distance of closest approach (DCA)を用いて、prompt成分とdecay成分の分離を試みたことである。これは、鉛+鉛衝突における熱的電子対の探索に重要である。この論文では、DCA分布を用いてチャームとボトムをさらに分離し、チャームとボトムの断面積を算出した。

D meson RAA and v2

http://alice-publications.web.cern.ch/node/4251

D中間子のRAAとv2の結果をまとめたものである。低い運動量はブラウン運動により拡散係数を、高い運動量はグルーオン放射によるエネルギー損失のフレーバー依存性の検証を可能にする。端的に言えば、どのモデルもRAAとv2をよく再現する。ALICE実験高度化により、低い運動量領域のDメソンの測定能力が飛躍的に向上する。そうなれば、RAAにおいて、よりモデルをよく制限することが可能となる上、拡散係数に関する検証もより進むものと期待される。

Pb-Pb衝突での4He生成

http://alice-publications.web.cern.ch/node/4087

鉛+鉛衝突で、4Heと反4Heの収量測定を行なった。dN/dyをAの関数でとることにより、原子番号が1つ増えると収量が1/300になることがわかった。さらに、Heの収量は熱的化学凍結モデルによる予想と非常によい一致を示している。

小さい系でのJ/ψ v2

http://alice-publications.web.cern.ch/node/3841

p-Pb衝突で、J/ψの2次の方位角異方性(v2)を算出した。小さい系で集団運動が発見され、J/ψがその集団運動に参加しているかを確かめた重要な結果である。3<pT<5 GeVでは、5σの優位性で、non-zeroはv2を確認した。鉛+鉛でも同様のv2を発見しており、鉛+鉛衝突と同じ起源である可能性が大きい。しかし、鉛+鉛衝突で見られる大きなv2の解釈は定まっておらず、新たなJ/ψパズルとして、さらなる追求が求められる。

Pb-Pb衝突でのJ/ψ v2

http://alice-publications.web.cern.ch/node/3831

鉛+鉛衝突においてJ/ψのv2を測定した論文である。3 GeVより下の低運動量領域では、チャームペアの再結合によるJ/ψ生成が支配的で、この領域で大きなv2が期待されていた(モデルの傾向)。しかし、実験の結果は、3 GeV以上でも依然として大きなv2を持つことを示唆する。これはどのモデルでも再現することが出来ていない。RAAとv2を同時に理解することが難しいのが現状である(J/ψパズル)。

(vn, vm)相関の測定

http://alice-publications.web.cern.ch/node/3725

これまでは、2次や3次や4次の方位角異方性が独立に測定されてきたが、それらの相関に着目したのがこの論文である。2016年には(v2, v3)と(v2, v4)のみであったが、今回は、2次と5次、3次と5次、3次と4次の相関に着目した。5次の相関は2次と3次と正の相関を持ち、3次と4次は負の相関を持つ。これらの結果を用いることで、初期条件や比粘性がより精度よく決定されると期待される。

小さい系でのストレンジネス増大

http://alice-publications.web.cern.ch/node/2929

Nature Physicsに投稿された論文である。小さい系でも重イオン衝突と同様に、ストレンジネス増大の傾向を発見した論文である。小さい系ながらもクォークグルーオンプラズマのような物質が出来ていることを強く示唆する結果である。

高次の方位角異方性と流体模型計算

http://alice-publications.web.cern.ch/node/2906

LHCにおける大きな発見の一つが、高次の集団運動の発見である。この論文では、pion、Kaon、protonのv2, v3, v4の横運動量依存性を測定し、それを流体計算と比較している。AMPTというevent generatorで与えられる初期条件と比粘性=0.08を使うことで、pion、Kaon、protonのv2, v3, v4がよく再現されることがわかった。高次になるほど、粘性による歪みが大きく現れるのだが、1つの比粘性で全てのvnが記述できることは驚きである。

Pb-Pb衝突での熱光子測定

http://alice-publications.web.cern.ch/node/1887

ALICE実験でも熱光子の測定を行なった。ALICE実験ではTPCという高性能の3次元飛跡検出器があるため、外部変換光子の測定が高精度で行える。外部変換光子の測定から、PHENIXよりも大きな収量かつ大きなスロープを持つ運動量分布を算出した。スロープをexp(-pT/T)でfitすることにより、304 MeVの有効温度を算出した。RHICよりも30%ほど大きな値である。この結果は、「highest man-made temperature」としてギネス記録になっている。

原子核と反原子核の質量差測定

http://alice-publications.web.cern.ch/node/1850

ALICE実験のTPCは、高精度の3次元飛跡検出器+高精度の粒子同定検出器でもある。そのTPC測定器と高時間分解能を持つToF測定器を用いて、Pb-Pb衝突において、dと反dと3Heと反3Heを測定した。運動量と飛行距離と時間の測定から、質量を求めることができ、dと反dの質量差と3Heと反3Heの質量差を検証した。これは粒子-反粒子の対称性の検証に迫る研究である。原子核というセクターにおいて、もっともよい上限を与えることに成功した。Natureに投稿された論文である。

PbーPb衝突でのジェットの収量抑制

http://alice-publications.web.cern.ch/node/1197

鉛+鉛衝突でフルジェットの直接測定を行い、フルジェットの収量抑制を検証した論文である。ATLAS/CMSでは強くない、割と低いエネルギー領域のジェットの測定を行なった。0-10/10-30%の中心衝突度で、優位な抑制を測定し、JEWELやYaJEM計算とも同程度の抑制を測定した。


Υの収量抑制

http://alice-publications.web.cern.ch/node/903

ΥはJ/ψと異なり再結合の寄与は少ないため、カラー遮蔽効果を検証するよりクリアなプローブである。この測定は、前方のミューオン対で行われた。CMS実験と比較すると、より大きな抑制があることがわかった。もちろん、原子核効果を定量化しない限りは、カラー遮蔽による効果を議論することはできないが、RHICでのJ/ψ抑制と同様な傾向を示しているのは興味深い。(RHICも最初は、中央ラピディティーの方が抑制が大きいと予想していたが、RAAは前方ラピディティーの方が小さかったのである)

J/ψの収量抑制と再結合

http://alice-publications.web.cern.ch/node/409

鉛+鉛衝突におけるJ/ψの収量の測定結果である。RHICと比べて、抑制量が少なかったことが判明した。特に低い運動量領域では、RHICと比べて顕著な収量増大があった。LHCではRHIC以上に1回の衝突で沢山のチャームと反チャームのペアが作られる。全く無相関なチャームと反チャームが出会い、再結合を果たすという描像と無矛盾であり、低い運動量J/ψの収量増大も説明がつく。高い運動量領域はRHICと同様にカラー遮蔽効果による抑制効果である。J/ψ再結合はRHICの時代から不確であったが、LHCの結果により、再結合過程があることは100%確証された。

小さい系での集団運動の発見

http://alice-publications.web.cern.ch/node/445

LHCの高粒子多重度のp-Pb衝突で、鉛+鉛衝突と同じような集団運動が発見された。しかも「mass ordering」も確認されている。この驚愕的な結果は、1fmという非常に小さい系でもクォークグルーオンプラズマが成立していることを意味する。ラフに言えば、1fmの中にパートン沢山あって、パートンの多重散乱が集団運動をもたらしている。さらに、2次の集団運動は空間の非等方性が起源である。この場合、空間の非等方性は陽子の内部構造ということになる。これは、陽子の内部構造を探る新たな手法になるかもしれない。

高次の方位角異方性の発見

http://alice-publications.web.cern.ch/node/3504

http://alice-publications.web.cern.ch/node/3879

これまでは2次の方位角異方性が議論されてきた。3次や4次のような成分は存在しないと思われてきた。しかし、実際に測定してみると、3次や4次や5次という高次の方位角異方性が測定された。これはLHCでの大発見である。なぜ高次の異方性があるのかというと、例えば、衝突直後のエネルギー分布などが空間的に大きく揺らいでいるからであり、事象によっては衝突平面が楕円ではなく三角形や四角形に近く見えうるからである。これまでの流体計算は、そのような揺らぎを無視して、空間的に滑らかな初期条件を使ってきたが、この発見以降は、事象ごとの揺らぎを考慮した流体計算が盛んになった。この高次異方性の発見により、初期条件や物性がより精度よく決定されることになる。

LHCでの高横運動量収量の抑制

http://alice-publications.web.cern.ch/node/989

LHCの最初のランで求められた荷電粒子のRAAである。RHICは10年かけて10GeVまで点を伸ばしてきたが、LHCのエネルギーでは、わずか1日で20 GeVまで優位に到達した。

熱光子の発見

RHICにおける3つ目の重要な成果である。熱光子の発見は、高エネルギー重イオン衝突の長年の夢であった。しかし、従来のカリロメーターを使う方法では、エネルギー分解能の悪化や中性π中間子によるバックグランドなどで優位な結果を出すことが難しい。そこでPHENIX実験が新たに開発したのが、仮想光子からの電子対を測定する方法である。仮想光子崩壊の電子対質量分布はpT>1 GeVではよく分かっている。Form factorによる抑制がないので、pi0 Dalitzよりも上の質量領域では、η Dalitzよりも支配的なソースになりうる。PHENIX実験は、電子対の不変質量分布でpi0 Dalitzよりも上の質量領域に対して、仮想光子+η Dalitzでfitをかけ、仮想光子の収量を出すことに成功した。その光子の運動量分布は、1<pT<3 GeVでは、陽子+陽子の外挿よりも遥かに大きな収量を観測し、そのい超過収量はクォークグルーオンプラズマからくる熱光子であると結論付けた。

方位角異方性と集団運動の発見

RHICにおける2つ目の重要な発見が、方位角異方性と集団運動の発見である。非中心衝突では、衝突領域はアーモンド型のような形をしている。この空間の非等方性が運動量の非等方性に置き換わって、方位角異方性が観測された。その方位角異方性を様々なハドロンに対して測定し、構成クォーク数でスケールすると、全てのハドロンが一つの線に乗ることが分かった。これにより、この集団運動はパートンレベルで作られたものを結論づけられた。もう一つの大きな成果が、粘性が小さいとする相対論的流体計算が、この方位角異方性を見事に再現したことである。粘性が小さいという物性を初めて得た瞬間であり、かつ、時空発展の記述に相対論的流体計算が使えることを実証する結果となった。時空発展を記述する術を得たことは今後の研究展開に非常に重要である。

ジェットクエンチングの発見

RHICにおける1つ目の重要な成果が、ジェットクエンチングの発見である。右の図は、RAAと呼ばれる因子で、金+金衝突における収量を陽子+陽子衝突から予想される収量で割ったものである。1より小さいと、収量が抑制されていることを示す。PHENIX実験は、様々なハドロンや光子に対してRAAを測定し、強い相互作用を行わない光子はRAA=1 (抑制なし)であるが、強い相互作用をするハドロンに対しては高い運動量領域で、RAA<1であることを突き止めた。これは、高い運動量ハドロンの種となる高エネルギーパートンがクォークグルーオンプラズマ中でエネルギー損失を起こすことが原因であるとされ、まさに強い相互作用が支配するパートン多体系が出来ていたことを意味している。