人材育成体系とは、研修一覧(のみ)ではなく、どのスキル強化に重点投資するのか(育成ターゲット)、どのように人を育成するのか(育成モデル)、どの育成手段を用いるのか(育成プログラムポートフォリオ)、そしてどうやって成長状況をモニタリングするのか(育成モニタリング)の4つが一貫性を持って連動する仕組みです。ビジネス環境やテクノロジー(EdTech/HRTech)等の変化に合わせて、必要なスキルを最適な手段を用いて俊敏に育成するために、連動性や柔軟性の高い人材育成体系づくりが不可欠となっています。以下では、人材育成体系の考え方や構築方法について解説します。
2020.5.26
近年、事業環境変化の速さや様々な育成手法の開発やデジタル活用の進展等により、育成対象者(カテゴリー)の「細分化」 × 成長課題の「多様化」 × 育成手法の「複合化」 × 育成主体の「分散化」の進展で自社の人材育成体系の設計はますます複雑になっています。こうした複雑化に対応してくために、人材育成体系を(再)構築し、より俊敏・柔軟にしておくことが重要と考えています。
人材育成体系は次の5つのモジュールからなります。以下で各モジュールについて解説します。
人材育成ターゲット:どのスキル強化に重点投資するのか
人材育成モデル:どのように人を育成するのか
人材育成プログラムポートフォリオ:どの育成手段を用いるのか
人材育成体制:誰がどのようや役割で育成を行なっていくのか
人材育成マップ:どのように育成プログラムを整理し提示するのか
育成の対象社員のセグメントの切り口は、等級・職位・年次だけでなく職種や業務・役割・性別・・(それらの掛け算)と細分化しています。また、業務上の課題・役割上の課題・キャリア開発上の課題・チーム/職場の課題・・と多様な課題が育成の対象としてあげられます。経営計画(中長期・短期)を踏まえてどの育成領域に注力するかの戦略的な判断が、人材育成において極めて重要になっています。
重点育成ターゲットの設定には、社員一人ひとりのスキル保有状況の可視化が効果的です。会社・組織が求めるスキルを設定し、不足しているスキル領域/不足している社員を重点育成ターゲット(課題と対象者)として設定します。最初から育成対象者のセグメントありき(例: 当社は課長層に課題が大きい)や、育成課題の思い込みに陥ることなく、スキル傾向を見て重点育成ターゲットを検討します。
自社では「どのように社員を育成していくのか」、社員から見れば「人はどのようにすれば成長するのか」を誰にとっても分かりやすく示したものを、ここでは人材育成モデルと呼びます。例えば、「期待を理解する → 自身の強み・課題を知る → スキル等を学ぶ → 習得スキルを実践する → 振返る(内省・定着)/他者に教える → ‥‥」といったステップ等で、会社・組織の学習文化を可能な限り可視化したものになります。こうした人材育成モデルを用意する目的・狙いには下記があります。
社員個人にとって:自己成長の指針として
管理職にとって:OJTの指針として
管理職と社員個人にとって:職場での育成に関する共通言語として
人材育成担当にとって:効果的な人材育成プログラムの検討用枠組みとして
分散している人材育成関係者にとって:関係者間の共通指針として
尚、人材育成モデルは全社で1つとは限らず、例えば職種毎の定義が効果的な場合もあります(例えば、営業職の育成モデルと研究職の育成モデルは異なる等です)。
日々、様々な人材育成のプログラム(研修・OJT支援他)が考案・紹介され、その選択肢は極めて広範囲に広がっています。その中から、自社に必要なプログラムを選択し導入していくことになります。育成プログラムを選択する主な視点は、(1)内容が育成対象(社員/課題)に合致しているか、(2)手法が育成モデルに合致しているか、の2点です。ここでは、(2)の育成プログラムの手法について着目します。
例えば主な育成プログラムの手法には下記の様なものがありますが、これらを育成モデル(上記4.参照)に合わせて分類します。上記4.文章中の例で言えば、社員が「期待を理解する」ために効果的な手法は何か?(例: トップ方針伝達, 1on1, セミナー....等)、社員が「自身の強み・課題を知る 」ためにはどのような手法が適しているか?(例: アセスメント, 1on1, グループアクティビティ...等)といったことを考える作業になります。
集合研修
オンライン研修/eLearning/マイクロラーニング
アダプティブラーニング
1 on 1
メンタリング
コーチング
モデリング
コミュニティ活動
アセスメント
異業種交流
タフアサインメント
プロジェクトベースラーニング
資格/検定
ハンドブック/読書 等
社内で人材育成に関わる関係者は、下記例の通り多岐に渡ります。それぞれがバラバラな動きにならないよう、人材育成の推進体制を明確にしておきます。人材育成推進の体制図・役割分担・運用プロセス・会議体/コミュニケーション方法・行動計画・予算等を整備します。
上司
関係部署の管理職・先輩社員
その他指導担当者
各研修講師(社内・社外)
本社の人材育成担当者
所属部門の人材育成担当者
その他人事部門担当者 等
以上を踏まえて、自社の人材育成体系(誰に・何のために・どのようなプログラムを・誰が・どのタイミングで提供するのか)を1枚または1冊のマップにまとめ、社員自身、社員と管理職、経営陣/本社と現場、分散している人材育成担当同士の共通基盤となるよう社内に公開していきます。人材育成マップに含めるべき項目例は下記になります。
人材育成の方針/トップメッセージ
人材育成の対象者
人材育成の目的/対象育成課題
人材育成モデル
人材育成プログラム/手法
人材育成の主体/体制
育成ロードマップ/タイミング