当研究室の成果の最近の報道事例を紹介します。
バイオ,メディカル,環境のさまざまな分野で役立つ材料を開発しています。
不織布の多孔性を活かした培養機材。帝人フロンティア(株)との共同研究(福井新聞 2023年6月29日)
当研究室の独自開発技術。(日本経済新聞 2023年(令和5年)2月22日(水)43面)
ポリビニルアルコールのハイドロゲルの膨潤性を活かした胆管がん治療用のデバイス。東京都産業技術研究センター,東京医科大学(消化器内科)等との共同研究。(科学新聞 2022年7月1日)
Under arrest: Using nanofibers to stop brain tumor cells from spreading
(逮捕:ナノファイバーを使用して脳腫瘍細胞の拡散を阻止)
https://www.eurekalert.org/news-releases/932323
海外のメディアに研究成果が紹介されました。以下邦訳。(2021年10月21日)
私たちの体は、損傷した細胞を新しい細胞に置き換えることで傷を治す仕組みを持っています。新しい細胞が損傷部位に移動するこのプロセスは「細胞遊走」として知られています。しかしながら、異常な細胞の遊走はがん細胞の輸送や拡散を助ける場合があります。多形神経膠芽腫(GBM)は、腫瘍細胞の遊走を通じて広がる浸潤性の高い脳腫瘍の一例です。これらの腫瘍細胞は速やかに広がり増殖するため、従来の腫瘍除去手段では効果が期待できません。また、放射線療法や化学療法のような治療選択肢も健康な細胞に有害となり、副作用を引き起こすことがある。GBM細胞の浸潤メカニズムを正確に理解することで、より効果的な治療戦略の開発が可能となります。
新たに検討されている治療戦略は、遊走する腫瘍細胞を捕捉するというものです。細胞の移動は、細胞を取り囲む繊維状構造「細胞外マトリクス」(ECM)の構造と方向性に大きく影響されることがわかっています。したがって、特定の形状の構造を設計することで、細胞の移動プロセスを制御することができます。
ACS Applied Bio Materialsに掲載された研究では、福井大学の研究者たちは、GBM細胞の動きを評価するためにECMに似たナノファイバーをベースとするプラットフォームを開発しました。「エレクトロスピニングという手法で、一端から他端へと繊維の密度が変化するナノファイバーシートを作成し、脳腫瘍細胞の培養実験を行った」と、研究の代表者である藤田聡博士は説明します。
研究チームは、異なる密度のナノファイバー上での細胞の動きに顕著な違いを確認しました。繊維の密度が高い場所では、「接着斑」のクラスターが形成されやすく、その結果細胞の移動が遅くなることが判明しました。
この細胞の移動と繊維の密度との関連性を利用して、研究者たちは段階的に密度が変わるナノ繊維シートを設計し、細胞の移動を制御することができました。高密度から低密度に繊維を配置することで、多くの細胞が高密度のゾーンに捕捉され、移動が制限されました。一方、低密度から高密度に配置した場合、移動が促進されました。
ゾーン間の隙間が細胞の移動を妨げ、細胞が高密度ゾーンに留まることが観察されました。この一方向の移動パターンは独自のものであり、研究者たちはこれを「セルトラップ」と名付けました。
「この研究は、エレクトロスピニング技術を用いたナノファイバーで移動する細胞を捕捉する可能性を示している」と藤田博士はコメントしています。
この革新的な発見を受けて、チームはナノファイバーベースのプラットフォームの将来の応用に期待を寄せています。「繊維の加工技術や材料の表面処理と組み合わせることで、再生医療の基盤となる材料の開発に活用できると考えています」と藤田博士は述べています。「さらに、タンパク質や抗体、ワクチンなどのバイオ製薬の生産における培養の基材としても利用可能だろう」と彼は予想しています。
私たちも、このビジョンが実現することを期待しています。