医療応用や環境材料への応用を目指して,ナノファイバーやハイドロゲルをベースにした材料開発に関する研究をおこなっています。
とくに,生物と材料の間で作用する分子のしくみに着目し、分子レベル,分子間相互作用のレベル,細胞レベルと,生物のさまざまなスケールから,多面的に研究を進めています。
キーワード:バイオマテリアル,エレクトロスピニング,ナノファイバー,
ハイドロゲル,再生医療,医療デバイス,抗ガン材料
ポリマー溶液に高電圧を印加しながら射出することでナノファイバーを得ることができます。当グループでは,ノズルを工夫することで中空型の芯鞘ナノファイバーを作ったり,3Dプリンタを駆使してさまざまな形状に加工できる3Dナノファイバーの技術を開発してきました。
これらの材料を用いることで,再生医療や組織工学,薬剤徐放,細胞遊走挙動解析などさまざまな応用が実現できます。
ナノファイバーのサイズは細胞(10~100 μm)より小さく,コラーゲン繊維(10~300 nm)などの細胞を取り囲む多糖やタンパク質などの構造体と同程度の大きさです。
ナノファイバーで作成した足場材料は細胞にとって適切な環境になります。
芯鞘ナノファイバーの内部に薬剤を充填し,外部を覆うことで,薬剤放出制御が可能です。
エレクトロスピニングで繊維化しにくい材料についても,芯鞘ファイバーの内部に充填し,ゲル化させてから外側の鞘を取り除けば,微細な繊維を得ることができます。こうして,コラーゲン(タンパク質)やアルギン酸(多糖)など,通常では繊維化しにくい材料からもナノファイバーを得ることもできます。
この技術はセルロースナノファイバーという微細な繊維を封入したり,ナノファイバー表面を別のタンパク質でコートするような技術にも応用可能です。
ナノファイバーの構造制御は,複合材料としての可能性を大きく広げます。
当研究グループのなかでも最も独創性の高い研究のひとつで,ナノファイバーをレールと見立て,それに沿って細胞が運動する様子を解析するという研究です。
これは細胞外マトリクスの繊維状構造体の中を細胞が遊走するという生体現象をうまくモデル化できている実験です。
さらに繊維の密度を高くすると細胞の運動が抑制されます。これにより,細胞を捕まえる(セルトラップ)することもでき,浸潤し,転移の原因となる腫瘍細胞の制御に有効だと期待されます。
また腫瘍細胞が悪性化し,遊走性を活発化させていく現象(上皮-間葉転換)のモデル化にも活用でき,この運動のシミュレーションにも成功しました(生物応用化学科・梶田先生との共同研究)
ナノファイバーの特徴は,しなやかで伸縮性に富み,表面積が大きいことです。
この特徴は細胞が接着するのに好適です。多層にナノファイバーシートを積層することで高密度な細胞培養基材に展開できます。(これを発展させた形で,現在,繊維メーカーと実用化めざして研究中です)
また柔らかいナノファイバーを用いると,細胞を接着させたまま凍結させることもできます。もともと細胞を接着させて凍結することは難しかったのですが,この技術を発展させることで,細胞を生きたまま接着させた状態で,長期間凍結保存することが可能になります。
これは来るべき再生医療の時代の重要な基盤技術になります。
ハイドロゲルいうのは水を豊富に含むポリマーネットワークです。当研究グループでは,種々のハイドロゲルからナノファイバーなどの構造体をつくることに成功しています。
たとえば,コラーゲンやアルギン酸などもともと生体中にあるようなハイドロゲルだけでなく,ヒアルロン酸をベースにDNA分子を架橋剤とするような,天然由来材料でありながら,これまでに存在しなかったようなゲルなどがあります。
ハイドロゲルの作成技術をベースに,閉塞臓器を拡張するような医療器具の開発もすすめています(胆管ステント)